もっと貴方に近付く為に選んだ道。
 それが何かを壊していく事も解らずに。











3,序





「どうにかならねぇのかよ。あれは。」

「……はい…申し訳ありません。」

「別に謝って欲しい訳じゃねぇんだけどな、ただ……」

 ふぅ、と紫煙を吐き出した猿飛アスマは視線を横に座る男の遠く後ろからこちらを睨み付けている銀髪の男へと向けた。


「鬱陶しくてたまらん!」

 はぁ。と自分も溜息をついてイルカは自分の後ろを振り返った。
 その視線に気が付いた銀髪の男はまるで尻尾が付いていれば引きちぎれんばかりに振っているだろう、と言うのが解るくらい嬉しそうな顔をした。

「悪気は……無いみたいなんですが…ね……」

「見てるこっちが恥ずかしいんだよ。あいつは。……まぁ、あいつにとっちゃぁ初めての恋みたいなもんだからな。仕方がねぇとは思ってはいるんだがな、どうも鬱陶しいなんてもんじゃないな、あれは。」

 ははは、と苦笑いをするイルカを横目で見れば、満更でも無いという顔をしている。結局お互い惚気合ってると言うことか。とアスマはまた煙草を口に銜えた。

 カカシとイルカが付き合い始めて半年が経とうとしていた。
 それはカカシの親しい中では周知の事実で、カカシはそれを知ってる相手達には隠しもせずにこうやって嫉妬も露にするのだ。そんなカカシに毎回溜め息をついているアスマはそれでもイルカと良く話すし、イルカにとっては有り難い事だった。
 特にアスマはイルカにも頼もしい存在で、イルカが居ない時のカカシのお守りはアスマがしている様なものだ。カカシにとってもアスマは気兼のない存在なのだろう。
 二人の関係を知ってからはイルカにもよくしてくれる。だから時折こうやって空いた時間にアスマが居れば一緒に過ごしたりもするのだが、かの恋人はあの通りで。『人付き合いもあるので邪魔しないでください』と言うイルカの言葉を立てて我慢しているのだ。
 それもまたイルカにとっては嬉しい事の一つでもあった。



「そう言えば聞いたぜ。今度の任務受けるんだってな。……お前、上忍になりたかったんだな。」

 さも驚いた様にアスマはイルカに目をやると、イルカは少し照れ臭そうに笑った。

「酷いですね、アスマさん。俺だって忍の端くれですからね、上は目指しますよ。それに三代目の時から今回の話は出てたのですが、まだ期が熟していないとの判断で延期になっていたんです。」

「が、今回は動くという訳か。この後にある招集はその話らしいな。」

 イルカは苦笑いを含めて目を細めて、それでも確たる意思を含めた声で答えた。

「はい。三代目がご存命の時からその人の娘にどうやら気にいられていたらしく、何度も話があったのですが…今回もまたその話が持ち上がり、五代目から勅命を受けました。――――この任務が成功した暁には、上忍へ昇格、と。」

 その声にイルカの決意が取って読めた。だが、アスマにはイルカがそこまで上にこだわる性質にも見えないし、見栄もない。確かに忍ならば上忍を目指すのは当たり前だが、前にイルカは、今の状況でも十分やりがいがあると言っていたのだ。三代目からの話を断り続けていたのはきっとそういった事からだろう。では何故今になって気が変わったのか。
 アスマはまたちらりとこちらを睨み付ける銀髪に目をやり、こいつか。と内心で納得する。側にいて感化されないはずもない。それほどの能力を持つ、この里一番の上忍。
 アスマはふぅとイルカとは反対の方へ煙を吐き出して、くいっと顎でカカシの方を指す。

「……あいつか?お前にその覚悟をさせたのは。」

 その問いにイルカはただ笑うだけだった。そして時計をちらりと見やり、行きましょう、と席を立った。アスマもそれに習い煙草を灰皿に押し付け揉み消すと腰をあげた。
 イルカの横を通り過ぎようとしたとき、ぼそりと呟いたイルカの声を聞いた。

「少しでも役に立ちたいんです、だから……」

 それを耳の端に聞いたアスマは少し後ろを歩くイルカの方に向けて、そうか。と同じように呟いた。

 その休憩室の入り口で二人を見ていた銀髪の上忍に近付くと、アスマをじろりと睨み付け、不機嫌そうに話しかけてきた。

「何話してたのよ、アスマ。イルカ先生から邪魔するなって言われてるからしょうがナイけどさ。ネ?イルカ先生」

 途端に変わる声色にアスマは溜め息を付く。

「お前のそのバカっぷりを話してたんだ。イルカも大変だってな」
 笑いながらイルカはその後ろを歩く。気を許している相手には何も繕う事なく話すカカシに一抹の嬉しさを感じながらイルカは笑っていた。












 初めて心から望んだものだったから。

 どんな事をしても救いたかった。










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――――2005.1.1.up