この全ての物があなたの為に存在したと、思っていた。 打ち砕かれた心の欠片から垣間見えたのは。 ――――闇、それとも。 5,微笑み 次の日からイルカとは用が無ければ会えなくなると別れ間際に言われた。このイルカの部屋に来ることも任務が終るまでは駄目だという。 招集の時の不安がまた胸を突いた。 何だろう?このもやもやとした想いは。 やりきれぬ想いを抱えたままカカシはイルカとしばしの別れとなった。 そう言えば、招集の時に五代目が言っていた「あれ」とは何だったのか。最後まで聞きそびれたままだった。 「あいつにちゃんと説明できたのかよ?」 アカデミーの廊下で会ったアスマに聞かれた事だった。イルカは苦笑いをして首を横に振る。 「何だよ、結局何にも説明してないのか?」 呆れた声で溜め息を付くと、すみません…とイルカが呻いた。 「けど、言っておきたい事はちゃんと言ったんです…が、任務の事については何も言えませんでした。」 しょうがねぇなぁとアスマは頭を掻いて、また仕事が増えた。とぼやいていた。 「結局オレはお目付役か。世話焼きまではしたくねぇぞ。イルカ」 そう言われてイルカはまた、すみません。と頭を下げた。 イルカとてわざと言わなかった訳ではない。昨日の不安げなカカシを見ていたら余計に言えなくなってしまったのだ。 この先に、カカシの不安要素を深める事が待っていると解っていて、どうして言えるのだろう。 ただ、言えるのは自分を信じていてくれとだけしか言えなかった。イルカが如何にカカシの事を想っているのか。それが解ってくれればカカシも今回の任務の事も解ってくれるだろうと思っていた。 アスマと話しをしていると、アカデミーの職員室から同僚に呼べばれた。 「イルカ!五代目がお呼びだぞ!」 その声に、アスマと目を合わせた。 遂に来たか。 2人とも無言で頷いてその場から離れた。 イルカは同僚の方へ行き、ありがとうと言って火影の執務室に向かった。 カカシは次の日も7班の任務を早めに終え報告書を受付へ出しに行く時だった。アカデミーの職員室がやけに騒がしい。 何だろう?と通りがかりに中を覗いてみると、人集りが出来ていた。誰かを囲んでみんなで盛り上がっている。 その光景に、平和だネェとぼやきながら何気なくその中心にいる人物が誰なのか覗いてみた。 ひょこひょこと動く髪でそれがイルカだという事が解る。 今日から任務の人が何をそんなにみんなに囲まれているんだ?と小首を傾げる。 一人の同僚の声がしてカカシの思考はそこから止まってしまった。 「お前、上手くやったよなぁ〜。あの豪商の所の娘さんを射止めるなんて〜〜!!羨ましいぜ!」 「運が良かっただけだよ。たまたま何度か護衛で行った事があっただけで、返って俺なんかの何処が良いんだか解らないけどなぁ。」 そう言いながら頬を赤らめているイルカの姿を見てカカシは何がなんだか解らなかった。 ただ、イルカが何か祝われているだというのだけは話しの流れで解ったが、何故急に? 昨日まで自分に組み敷かれて居た恋人が、突然遠くに居るような気がした。 あまりにも呆けていたのだろうか。 肩をガシッと掴まれるまで全く気配にも気づけずにいた。振り向くとアスマが立っていて、こっちに来いと顎で促した。 イルカの姿を横目にカカシは職員室を後にした。 カカシの心中はモヤモヤした物が渦巻いていた。何なのだ一体、この感情は。 アスマの後を歩くカカシはその後ろ姿に対して問掛ける。何だというのだ。アスマにしろ先程のイルカにしろ。 「なに?アスマ。話があんなら早くしてよ」 苛立ちを隠さずそのまま感情を出して言うカカシにアスマはくわえていた煙草の紫煙と共に溜め息を大きく吐き出した。 「お前が感情をそんな風に垂れ流してんの見るのは久しぶりだな」 そう言って苦笑いをした。その言葉にチッと舌打ちをしてカカシは顔を背けた。 「まあ、俺は慣れてるから良いけどあんまり他の奴らの前でやるんじゃねぇぞ。皆ビビっちまうからな。―――――ああ、話はな、イルカの事だ」 その言葉でカカシはまたアスマに顔を向ける。なに?と言いたげな顔で。 「さっきのあれはイルカの任務だ。これから潜入する所の嬢さんに前々からイルカは気に入られてたそうだ。だからこれを機に堂々と乗り込もうって訳だ」 カカシの顔がこわばっていく。それはなにか?その女にイルカが気にいられて、しかもさっきの職員室での祝われ様は何だ?―――――… 「ま、さか。結婚でもする訳じゃ…」 「そのまさかだ」 アスマは、だから面倒くせぇって言ったんだ。と大きく溜め息をまた一つ付いた。 「に・ん・む・だ!」 放心しているカカシに声が届くように少し顔を近付けて言うと、ああ、そうだった。と体の力を抜いたカカシが呟いた。 ホントにわかってんのか?と言いたくなるようなカカシの姿にアスマは溜め息が止まらなかった。 「イルカの奴も話しづらかったんじゃねぇのか?そんな不安な面してる奴には言える話じゃねぇな、確かに」 アスマはなんだかんだ言って面倒見の良い自分に苦笑いしか出なかった。 あれはこう言うことだったのか。 昨日イルカの言っていた言葉が耳に蘇る。 ―――――どんなことがあっても、信じていてください。 あの時、自分は当然だと思った。ならばイルカを信じていれば良いだけだ。何があろうとも。自分が信じるのは一人だけ。 一つ大きな深呼吸をして肺に新しい空気を流し込む。落ち着きを取り戻したカカシがアスマに、悪かったね。と笑った。その顔はさっきとは違いすっきりとしていた。 とその時、少し離れた職員室のドアが音を立てて開いた。出てきたのは話の意中の本人で、二人を見て、ぺこりと頭を下げた。その姿にアスマがカカシより先に声を掛ける。 「おう、イルカ。盛大にやられてるじゃねぇか」 その言葉に苦笑いをしたイルカがカカシの方を見ると目があった。昨日言えなかった任務の事を既に聞いただろうとカカシに何か言おうと口を開こうとした瞬間。近寄ってきたカカシに腕を取られた。 「アスマ、あとよろしく」 「ちょ、おい!こら!」 まったく、と言う言葉はもう2人が消えたあとに出た言葉だった。職員室からイルカの同僚が出てきてイルカを探していたのでアスマは仕方なく適当に口実を付け「少ししたら戻る」と言い含めておいた。 「カ、カカシさん!」 腕を引かれどんどんと先を歩くカカシの背中に声を掛けても取り合ってくれないのが、カカシの怒りを表しているのだとイルカは思い、何度か声を掛けたあとは大人しくカカシに従っていた。 近くのトイレにそのまま連れ込まれドアの鍵が閉められた。途端、その手が離され今度はきつく抱きしめられる。 「アンタ、何であんな肝心な事言わないのよ……」 小さく聞こえた声にカカシの身体に腕を回して抱き返した。反論の余地もない。言葉を濁して肝心なところを言えなかった自分は狡いのだ。 「けどイルカ先生が昨日言っていた意味は解ったから。オレはアナタをを信じて待っていればいいんですよね?」 「カカシさん……招集の時からずっと不安そうでしたよね?だからどうしても言えなくて……けどオレは必ず貴方の所に帰ってきますから……」 抱きしめる力を強くして。 「――――信じて待ってますヨ…」 カカシの言葉がイルカの気持ちを強くした。 何が起きようと貴方が信じていてくれるのなら、自分に還る場所があるのなら。どんな事でも耐えていこうと。 そっとイルカはカカシの口布を降ろし、自分の唇を押し当てた。軽く啄んでそして角度を変えて深くなる。 水音をさせながらする行為はお互いの身体も高ぶらせた。 名残惜しそうに唇を離すと「続きもしたい…」と潤んだ瞳でカカシに言われた。イルカとて同じだがそろそろ戻らないといけない時間だ。 「続きはまた……」 いつかなんてまだ解らないけど。 少しむくれたカカシがまたイルカにキスをする。 「どうせイルカ先生には見張りか何か付くんでしょ?だからオレとは当分会えないってことデスよね?だったらもう一度……」 そっとイルカの唇に触れて離れていった。 まるで大切な壊れ物に触れるかのような口づけで。 がちゃりとトイレのドアを開けて狭い室内から出ると遠くでイルカを探す声が聞こえた。イルカが出て行こうとした時、カカシに捕まえれた手をギュッと握り替えして、そして笑った。 「いってきます。カカシさん」 「いってらっしゃい」 そしてカカシの手からイルカの手がすり抜けていった。その温もりが消えないようにとカカシはポケットに手を突っ込んだ。 イルカが職員室に戻ると同僚が「何処に行ってたんだよ!」と息を荒げて探していた。 「どうしたんだ?」 確かにみんなと話している時に居なくなったのは確かだがそこまで焦る事無いだろう。不思議そうに聞き返すイルカに同僚は、 「お前のお相手が待ちきれずにお見えになると先程五代目から言われたんだよ!だからお前探しにいっても居ないし……」 と肩を落とした。イルカは「用足しだよ」と軽く流して笑った。 カカシはイルカと別れたあとアカデミーの廊下を歩いていた。 当分会えないもどかしさと、胸に残るモヤモヤがあの時から消えなかった。あれだけイルカの想いを受け止めてもどうしても拭えないこの蟠りは一体なんだろうか。 これから起こる何かがカカシの本能に警告しているのか。漠然とした不安を残したままイルカと離れる事になってしまった。 ふと廊下の先が騒がしくなる。顔を上げて見れば黒ずくめの男に囲まれた女がこちらに近づいてきていた。 珍しいな。一般人なんて。 しかも大層な護衛付き。忍の里でそんな護衛など何の役にも立たないが。 その女がイルカの相手だという事もカカシはすぐに理解出来た。さっき職員室から聞こえてきた話しを思い出して、これがその「豪商の娘」というやつなんだろうと思った。 長い髪を靡かせて歩く姿は多分誰が見ても綺麗なのだろう。顔も整っていて美人だ。 その一団がカカシの横を通り過ぎようとした時、独特な甘い香りがした。 その匂いに釣られカカシはその方を見ると、その女は笑っていた。カカシと目を合わせて、ニコリと微笑んだのだ。 一団が通り過ぎ、職員室に入っていくとそこは凄い騒ぎになっていた。 そんなもの、見たくない。 カカシは足早にアカデミーを後にした。 その女の笑った顔がカカシの脳裏に焼き付いていた。 ――――――――――――――――イヤな笑い方だ。 |
――――2005.3.1.up