BLUE BLUE
月明かりがぼんやりと差し込む、暗くて青い部屋でいつものように絡んでる。 触れられた個所全てに感じて苦しいくらいに喘いで、こらえきれない手は自分に覆っている男の髪を掴んで、何度も名を叫んだ。足を絡めて離れまいとする行為は、いつもより貪欲に、無口に唇も貪りあって。 でないと心が足りないから。 「もーうお休みだねえ。1年って早い。」 「そうだな」 ローブを羽織って、伸びをしたジェームズに生返事を返しておいて、セブルスは窓際に置いてある椅子に座って、夜の青空を見ている。星も無いし、ホグワーツの回りは森が多いので、あまり景色は良くない。どんより、重い。でも夜の月明かりの青い色は綺麗だ。黒も白も全部青く見える。 「今年もグリフィンドールが寮杯もらっちゃって悪いね。明日のパーティが楽しみだ。」 「そうだな」 普段ならまたしても寮杯を逃した事に苛立ちを見せそうなものだが、セブルスは全くの無関心の様子だ。ジェームズはチラリとそんなセブルスを見て、近寄った。そして後ろから覆い被さるように抱き締める。 「疲れた?」 行為の後だけに、無駄口を聞かないのはよくある事だ。そんなセブルスもジェームズは決して嫌いではない。それだけ、自分の腕の中で悶えていたという証拠。 首に腕を巻きつけて、頬に触れて、頬にキスする。セブルスも何も言わずに、されるがままで、それでも視線は窓の外を向いたままだった。 「暫くこうやってできないねー。今日もそろそろ戻らないと。明日は早いし。」 ジェームズはそう言いながら、視線をセブルスと同じように窓の外に転じた。青い風景は、とても静かだ。 「綺麗だねえ」 ジェームズがセブルスの耳元で呟く。 他愛の無い言葉。 すぐ、近くで響く声。 窓から目を逸らせて俯いたセブルスが、少しだけおずおずと手を上げて、自分に巻きつくジェームズの腕に指先で触れる。気付かれない程度に、服の袖に。 だから、気付かなかったジェームズが、あっさりとセブルスから離れた。途端に空気がセブルスを抱き締める。ジェームズの温もりを奪って。 「そろそろ出る?」 もう一度ローブを整えて、ジェームズがまだ座っているセブルスに声をかけた。 先を無くした指先を眺めて、セブルスは、ポツリと呟いた。 「休暇中は……何、を……」 「え?」 セブルスの呟きに、ジェームズが首を傾げる。しかし、聞こえていなかったわけではないので、すぐに質問の意味を理解する。答える代りに、意地の悪い笑みを浮かべた。 「何、気になる?僕と離れるの、不安?」 「何をっ……」 馬鹿にされると、いつも過剰に反応してしまう。 「こうして夜に会わなくとも、毎日学校で顔を見てるものね。僕から離れたらセブルス、もう生きていけない?」 「だ、誰がっ……」 笑うジェームズに、思わずセブルスは立ち上がって否定の言葉をならべようとする。が、その前にジェームズは皮肉げに笑いながら、部屋の隅に置いてあった透明マントの方へと歩いていく。 「残念だね、セブルス。君はそんなに僕に夢中でいてくれるけど、生憎僕の夏休みはグリフィンドールの皆と過ごすのさ」 ドクン。 「ま、時間があったらふくろう便でも飛ばして、呼び出してあげない事も無いよ。君の態度次第だけどね。」 静かな、青い光だけの教室に、ジェームズの声が響く。セブルスは立ち尽くして、冷えた空気の中で、頼りない。 もう温もりが残って無い。 「何せ、君は僕がいないと駄目なんだろうけど、僕は別に君がいなくてもねえ。」 冗談なのは知ってる。セブルスをからかう為に言ってる事は知ってる。 だけど、事実に違いなくて。 片方がいなくなると、生きていけなくなるのは自分だけに違いなくて。 「セブルス。お願いでもして………セブルス…?」 言葉を返してこないセブルスを振り返って、ジェームズは、それまでの意地の悪い笑みを消し、様子のおかしいセブルスを見つめた。 「セブルス……?」 肩を震わせて、俯いて、身体の横の拳が震えて。 青い教室の中で、とてつもなく頼りなく。 馬鹿にされて過剰に反応するのは図星だからだ。 生きていけなくなるのもきっと本当だ。 毎日彼のことばかり考えて生きている。 良い事も悪い事も、憧れも嫉妬も求める心も憎しみも、全部彼で埋め尽くされてる。 なのに、そんなセブルス等気にかける事も無く。 ジェームズは笑って、セブルスを置き去りにして。 どこか遠くで、違う誰かと過ごしてる。 セブルスは、こんな休暇ですら辛いのに。 「セブルス」 ジェームズが緊張を含んだ声で、セブルスに近づいてきた。 「セブルス、泣いてる?」 伸ばされた手を、目許に触れられる前に弾いた。 「触るな。泣いてない」 「セブルス」 それでも手を伸ばしてくるジェームズの手をまた弾きながら、セブルスは怒鳴る。 「触るなと言っている!!!」 泣き声で。 構わずジェームズはセブルスに手を伸ばし、なおもその手を払い除けようとするセブルスの両手を掴んだ。 「離せ!!」 「セブルス」 泣き顔で睨みつけても喚いても暴れても、ジェームズの手の力は緩まなかった。 「離せと言ってるんだ!!」 「セブルス、ごめん」 ジェームズの手が、正面から強くセブルスを抱きしめる。嫌だ、とセブルスが暴れようとしても、大きな身体がしっかりとセブルスの動きを封じこめる。 「セブルス、ごめん。言い過ぎた。嘘だよ。泣かないで」 「離せっ……泣いてない、泣いてなぃ……」 「ごめんね……」 「謝るな……」 泣きじゃくるセブルスを、ジェームズは強く消えないように、そして優しく抱きしめた。涙の止まらないセブルスは、もう逃れるのをやめて、両手はジェームズのローブを掴んでいた。 青い部屋は静かなままで、冷えた空気が動く事無く今は二人を抱き締めてる。窓の外では青い空の中で月だけが唯一色を放っているけど、世界を染める夜の中では孤独でとても頼りなかった。 抱き合う体温と、心。 だけど、いつまでも足りない。 「今日はもう帰らずに、朝まで一緒にいようか、セブルス……」 その言葉は優しさじゃなくて、セブルスを選ぶ事の出来ないジェームズの謝罪。そんな言葉が欲しいんじゃない。だけどそれすら手放せるほど強くない。 「お前なんて、嫌いだ……」 そう言いながら、自分から離れる事は出来ない。手は彼を掴んだままで、涙も全部彼に預けて。 キスされながら、縋りついて。嫌いだ、と泣きながら、彼の温もりが少しでも離れがたい。 彼は自分がいなくても生きていけるのが哀しい。 いつまでこんな一方通行なのだろう。 「死ぬほど、嫌いだ………」 君がいないと死んでしまう。だから大嫌い。 青い静かな部屋なのに、確実に時が流れている事を認めたくない。 青い光が心まで染めていくようで、冷たい色にお互いの温もりまで奪われてしまいそうに思う。 こうして、一瞬だけでも一緒にいるのに。 触れ合っているのに。 孤独で、息が出来ない。 青色に侵食されて、君が足りない。 いつまでも、自分一人だけ足りない。 020904 |