だって、そうでしょ?




 休み時間の不意をついてセブルスを捕まえる。他の誰にも見つからないように壁に押し付けてキスをする。細い髪に触れて、夜の約束を囁く。間近なセブルスの顔がいつも赤くなって好きだ。昔は合わせようとしなかった視線も、ジェームズに対する構え、敵意が取れてきた最近は合うようになった。多分セブルスは無意識だろうが、自分よりも顔の位置が高いジェームズを、切なげな上目遣いで見たりする。そんな変化が楽しかったし、何より可愛くて、ジェームズはまたキスをする。髪に触れ頬に触れ指を絡ませ制服の上から細い背中をなぞった。あっさりと離れて背を向けてさっさと立ち去ると、その背にいつまでも視線が縋りついてくる事を知ってる。
 セブルスはすっかり僕のもの。
 ジェームズの行動に声に視線に、全てにすっかり心を捧げてしまってくれている。
 我ながら上出来な「しつけ具合」だった。



 しかし、弊害が生じるとは予想外。

「あ、セブルス」
 そうわざわざリーマスが呟いた。シリウスなどはさっきから気付いていたようだが、完璧に無視していたかったらしく、チ、と横を向いて舌打ちしている。話題になどわざわざしたくなかったのだろうが、仲間内で最もセブルスに好意的なリーマスは、つい「人類皆友達」な感覚を目指しているようでもあった。
「どうせまたくだらない自慢話とか、偉そうに知識ひけらかしてたりするんだろ」
 仕方なくシリウスが面白く無さそうに言った。リーマスはシリウスのセブルス嫌いも承知しているので、苦笑しながら、そうでもないと思うけど、と控えめに言う。
「だって最近角が取れてる。」
 リーマスが、穏やかな顔で、セブルスを見た。
「そうかあ?」
「前ほど絡んでもこないし」
「『前ほど』ってだけだろ?なあピーター。」
「え、えっと…?」
 リーマスは何も言わずに、視線をジェームズに向ける。リーマスはジェームズとセブルスの関係を知っているから、セブルスが変わってきた原因も当然分かっているだろう。
 そしてジェームズは。
 ジェームズは会話に参加せず、ただセブルスを見ていた。
 回りを友人に囲まれて、ただ楽しそうに冗談を交えて話しているセブルス。
 ひどく、面白くない。勝手な事とは言え。



 関係を持つようになってから、ジェームズはセブルスにいろいろな事を教えた。それまで全く、ジェームズが当たり前だと思っていたような友達関係すら知らなかったセブルスだから、軽口も悪戯も余計な事も(余計な事って?)全部ジェームズが教えた。それまでは他人に決して心を許す事も無く、壁を作っていたセブルス。作り笑顔もいつのまにか最近は自然な笑みに変わり、自然なそれは柔らかいものだった。積極的なタイプではないから控えめでは合ったが、もともと成績も良く意思も強いのでリーダー格だ。セブルスの周りに集まる友人――スリザリン生に限ってはいたが――は徐々に増えた。
 それだけじゃない。
 情事相手の欲目――では決して無く、セブルスに「艶」が増した。行為を重ねるとそういうものらしいが、きついが、元々整っていたセブルスの容姿に柔らかい色気が加わっている。かと言って女性的なわけでもない。ジェームズの性格の影響もいくらかは受けているのだ。おかげで天下無敵の中性的色気を醸し出している。
 セブルスをそんな風に磨いたのは自分だ。それは自信を持って言えるし(言う場所はないが)、密かに自慢でもある。人の目を奪うようなそんなセブルスが、自分に絶対服従というのも大変美味しい。
 しかし。
 自分の見ていないところでも勿論セブルスは存在しているわけである。朝起きて食事をして道を歩いて友達と喋ったりクィディッチを観戦したりホグズミードに遊びに行ったりしているわけである。スリザリン生なら風呂上りのセブルスなんて見ているかもしれない。
 はっきり言って、気に入らない。
 勝手な事とは言え。



 確かにいちいちそこまでセブルスを管理してはいられない。せめて同じ寮ならと思うが、違うのだから仕方が無い。
 ひどく苛苛してしまったりする。
 ジェームズ自身がセブルスを見せびらかすのは全然構わないのだ。
 だけど、勝手にセブルスを見るな、と思ってしまう。なんだか勿体無い。
 苛苛するのはそれだけじゃない。
 セブルスに意地悪くするのも、本当に優しくして何もかも教えるのも全部自分だけだった。それが、そうしている人間が、今では増えている。
 共学とは言え夏休み以外は卒業までの思春期を完全男子寮生活。ジェームズがセブルスに触れるように、セブルスに触れたがっている者がいるのも知っている。
 自分の見ていないところで誰もセブルスに触るな。
 と、思ったところでどうしようもない。

 そう、今までは自分だけだった。だからこそ、セブルスはここまでジェームズに全てを任せきったのだ。
 だけど、ジェームズと同じくらい、誰かがセブルスに接したらどうなるだろう?
 誰かがセブルスに手を出して、セブルスがその誰かに心惹かれる事があるだろうか。



 そんな事は絶対に許せない。
 ひどく勝手な事とは、分かってはいるけれど。



  



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