君は抱きしめて。僕が僕を捨てても。




 持っていた本も読み終えてしまった。退屈なふりをして、何度も同じ本を手に取り、もう一度読もうとしてまた閉じる。また開ける。アルファベットを目で追っても、頭に内容が入らない。苛立って、本を投げ捨てたい衝動に駆られる。
 じっとしていられず、思わず立ち上がりたくなるが、結局座ったまま頭を抱えることで我慢した。目を閉じても、せめてもの眠りすら訪れない。
 苛立っているのは、来ないジェームズに対してでは無い。
 来ないジェームズを、焦がれて仕方の無い自分だ。
 切なくて、仕方のない心。


 約束の時間を過ぎても、そのまま朝を迎えても。
 ジェームズが来ない日もある。



 昼休み、いつもと何一つ変わらず躊躇いも無く、一日仲間と騒いでいるジェームズを、セブルスは時折目で追いかけた。追い続けるとキリが無いから、必死で他の物に目を凝らす。気を逸らすという行為は、ひどく疲れるものだった。そんなセブルスに気付いているのかいないのか、ジェームズは一目たりともセブルスを見ない。
「リリー」
 彼の声が、セブルスの耳に届く。早く、この場を離れよう。そう思いながら、ジェームズが何を話しているのか気になってしまう。聞きたくないのは本当なのに、気になって仕方ない。
「……うびに、談話室でさ……」
 断片的に聞こえるだけで、ほとんど内容が分からない。手を止めて聞き耳を立てていると、他のスリザリン生にどうしたんだと声をかけられ、慌ててなんでもない、と首を振った。途端に、ジェームズの声が何も聞こえなくなり、辺りを包むたくさんのざわめきばかりになった。
「――ちょっと図書館に」
 セブルスは慌しく荷物を纏め、今から?という友人に返事をせず逃げるようにその場を立ち去った。その時漸く、自分に向けられるジェームズの視線を、一瞬だけ感じることが出来た。

 それでもその時ジェームズはセブルスを追ってこず、二人で話が出来たのは放課後だった。一人で廊下を歩いているセブルスを、クィディッチの練習に行く前のジェームズが捕まえた。
「待ってた?」
 人の目に触れない隅にセブルスを押しこんで、壁に押しつけ顔を間近に微笑む。情け無いほど胸が高鳴って、セブルスは少し顔を背けた。頬が赤いのは隠しようが無かった。ジェームズに声をかけてもらう為、わざと誰よりも遅く一人で教室を出た。人気の無さそうな道を選んで、わざとゆっくり歩いた。
 多分見透かされていただろうから、情け無くて恥ずかしかった。
 そんな誘いに乗って、ジェームズが自分に話しかけてくれたのが嬉しかったのも情け無くて、それもまた全部ジェームズには知られているだろう事がどうしようもなく恥ずかしかった。
 ジェームズが、軽く唇を合わせてくる。そんなキス一つで、昨晩から放っておかれた泣きたい思いが軽くなってしまう。腕を少しだけ上げて、震える指先で少しだけ彼に触れたら、今度は片方の手の平を合わせ、そして握り締めてくれた。あまりにも顔が近かったから、自分からもキスをした。触れるだけの幼いキスを、ジェームズも応えてくれた。
「――昨日はごめんね?行けなくて」
「……」
 囁きながら、ジェームズの片手がセブルスの顔に触れ、髪に触れる。
「シリウス達と騒いでたらなかなか抜け出せなくてさ…。君の事、待ってると思って気にしてたんだけど」
 繋いだ手を何度も確かめるように握られ、もう片手はセブルスの全身に触れてくる。触れられた個所から、自分が存在していくような気がする。
「ごめんね?今度は約束を守るよ、セブルス」
 優しく、背に腕を回された。彼の体温を全身で感じて、セブルスは目を閉じて、声を絞り出した。
「貴様など……別に、待ってなんか、いなかった……気にもしてない……」
 眉を寄せて、それだけ意地を張ると、ジェームズがクス、と笑った。
「そうだね。セブルスは僕なんて気にしないよね。でも僕が会いたいから、今夜会おうね」
 そしてセブルスを置き去りに、あっさりとジェームズは離れた。

 胸が高くなる。
 彼の、去っていく後姿を眺めるのが寂しい。
 でも今夜は会える。ジェームズは、セブルスの為に来てくれる。


 どうしようもなく、自分はジェームズを求めて仕方なかった。
 ジェームズにとっては自分など、遊びの1つに過ぎないだろうに。


  



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