君は抱きしめて。僕が僕を捨てても。


12



 ルシウスはそう言ってから、ふいと、セブルスを押さえつけていた手を離した。傍らに腰掛けたのは変わらないまま、セブルスを見下ろしていた。
「セブルス、俺はお前を気に入っている。お前の高い能力、選ばれた者の集まりであるスリザリン生である誇り。高潔さ。愚かな者を切り捨て、真に必要な者を選ぶ事のできるお前だ。ポッターなどに惑わされなければな。力を求める強い意思もある。」
 それからセブルスには手を触れず、ルシウスは続けた。
「お前ならば俺の道に恐れずついてくる事もできるはずだ。そしてお前は、その道が本来お前が目指すべき道だったと判っている筈。今は回りが見えなくなっているが、目を覚ませ。正しい道を選べ。俺が直々に、手を引いてやる」
 セブルスは身を起こす事も忘れ、呆然としたままルシウスの話を聞いていた。
「セブルス、俺はプライドが高いのでな。お前を力ずくで手に入れる事など容易いが、それではポッターと何一つ変わらない。俺はお前に俺を選ばせる。選ばせなければ意味が無い。」
 ルシウスはセブルスに触れないまま、見下ろしたまま、目を細めて、言った。
「今日は、部屋の連中には戻るなと言ってある。」
 先程からずっとルシウスの低い声だけが響く、ひっそりとしたままの部屋。
「お前が目を覚まし、本当のお前に戻りたいと思うなら――このまま、俺の手を選べ。もしそうでないのなら――お前が、それでもまだ愚かに、あの男に惨めにすがりつきたいと言うのなら」
 ルシウスは長い腕で、まっすぐ部屋の入り口を指差した。
「今すぐこの部屋を出ていけ。止めはせん」
 呆然と見上げたままセブルスは――

 セブルスは、笑いたくて仕方ない気分になった。


 ルーピン。自由とはなんだ?

 お前の言った自由というものは、私の一体どこにあると言うのだろう。


 捕らわれた心が放たれぬ以上、何を選んでも誰を選んでも、結局は「ジェームズを選ぶか、ジェームズから逃げるか」の選択にしかならない。
 結局はジェームズ一人の為の選択なのだ。
 ジェームズに縛られて動けない心。動くことの許されない心。
 そこに手を伸ばす者がいたとして、結局はその手の中に収まるだけだ。自由なんて存在しない。


 ルシウスはじっとセブルスの選択を待っている。この手も結局、セブルスを本当に自由になどしない。セブルスにどちらかしか選ばせない。ジェームズか、ルシウスか。押さえつける手を離されたとて、選択の自由だなどとは思えない。
 自信と誇りに溢れたルシウス。ここでセブルスが部屋を出ていけば、彼は完全にセブルスを見捨てるだろう。

 ルシウスを否定しているわけではない。
 ジェームズに、自分一人惨めにすがりつきたいわけじゃない。

 だけどももうどうすれば良いと言うのだ。


 セブルスは、ぐちゃぐちゃした頭の中で、ただ一つの顔を思い浮かべる。
 

 ポッター、全部お前のせいだ。お前が始めたから。
 お前が私を縛り付け、私をお前の手の中でしか生きられないようにしたから。
 私一人を惨めにして、お前はどこかの高台で、私の事など振り返らずに笑っているから。
 私一人を置いていくから。
 

 自分を見下ろすルシウスがいる。
 セブルスを自由にはしないけれども、彼の手はジェームズよりももっと優しくセブルスを側に置くだろう。セブルスがルシウスの役に立たぬようになるまでは、彼はセブルスを尊重してくれるだろう。


 縋りつくばかりの惨めな思いはもうたくさんだ。
 ならば。本当の自由は無くとも、たった少しでも、選ぶ自由があるのなら。




 ポッター。お前に縋りつくばかりの私は、もう嫌なんだ。




 ルシウスの見下ろす中、セブルスは静かに目を閉じた。


    



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