君は抱きしめて。僕が僕を捨てても。


18



 お互いの身体にお互いの精液をへばりつかせたまま制服を着るわけには流石にいかず、かと言ってシーツで拭ったって拭いきれはしないし、この匂いを消せもしない。果てて動けないセブルスの身体はジェームズに抱き抱えられて、二人して手早くシャワーを浴びる。
「ほら、立つ事もできない?腰が抜けたの?」
 浴室のタイルにペタンと座りこんでしまうセブルスを笑いながら、ジェームズが湯をかけてくる。彼の長い指が、セブルスの髪を滑る。
 降り注ぐ湯が心地良かった。睫にも雫が落ちて、セブルスは目を閉じた。
「セブルス。まだ、だよ」
 ジェームズの言葉に、うつろにセブルスは顔を上げた。見上げると、笑みだけは優しげなジェームズが、続けた。
「まだ、こんなものじゃ躾は終らない。今は時間が無いからこれで解放してあげるけど、まだまだだよ」
 セブルスの傍らに膝をついたジェームズが、セブルスの顎に手をかけて唇を被せる。
 シャワーの湯は二人の足下にかかる。
「――後ろ向いて」
 言いながらジェームズはセブルスを四つんばいにさせ、後ろに指を突き入れてきた。
「あぅっ……うぅ、ん……」
 セブルスの腰が反る。片手でシャワーをあてながら、ジェームズの指はセブルスの中に入った精液を全て掻き出すように内部で動く。何度も、セブルスの口から切ない声が漏れる。わざわざ刺激をきつくさせながら、ジェームズはまた続けた。
「この程度じゃ君を信じられないからね。淫乱な君。誰にでも尻尾を振るのかもしれない」
 弱弱しく首を振るが、ジェームズは独り言のように、それを無視した。
「覚えておきな、セブルス。昼も夜も、勝手な行動はもう許さない。盲目的に飼い主を覚えるまでは、ずっと。でなきゃ、何度でもお仕置きするよ?」
「ふっ…ぁ……ああ、ん……ん……、ん…」
 上半身を支えていた腕が力を失い、タイルに顔が落ちる。
 ザアと降りそそぐ湯の音と、曇る視界の中にぼんやりとジェームズの声が聞こえていた。
「当分、躾は続けるからね…僕以外の体を受けつけなくなるまでね…僕以外に心を決して向けなくなるまで……」
 シャワーが床のタイルを叩く音が、やけに響いて聞こえていた。


 水気を払う魔法ですぐに身体は乾いた。何事も無かったかのように制服を着て、セブルスは一人でルシウスのベッドの横に立つ。ジェームズは先に学校へ戻ってしまったが、使ったベッドをそのままにしておくわけにはいかなかった。
 これ以上なく乱れたベッド。シーツにはセブルスと、そしてジェームズの精液がこびりついて、もう固まりだしている。混ざり合ったそれらが、ルシウスの枕まで汚している。どうしたものかと途方に暮れる。
 片手でそのシーツに触れる。人差し指と親指で少し引っ張ってみて、やがて無意識でそれを掴む。
 ずるずると身体が、その場に落ちた。片手にシーツを握り締めて。
「は…」
 握り締めて、俯いて。
 口が開いた。声が漏れた。
「は、はは、は……」


 ――私の、勝ちだ。ポッター。


 笑いが漏れてくる。
 ひどい空虚があって、その奥底に真っ黒な感情がある。セブルスの全身に。


 目の前のシーツ。ひどく汚れた、ルシウスの。
 今まで幾度と無くきわどい関係を築きながらも、決してボロを出すような真似は見せなかったジェームズ。後始末だって、いつもセブルスの分までジェームズがしていた。
 そのジェームズが、ここまでした。ここまで荒らしてセブルスを犯した。
 セブルスに思い知らせると同時に、セブルスに手を出したルシウスに、ここまで仕返しをした。

 いつも嫌だった。
 自分ばかりが縋りつくのが嫌だった。でももう今更。
 もう今更、誰もジェームズの代りにはなれないのだ。
 感情を消す事もできず、ジェームズを求めるように、他の誰も求められない。
 だからもう、尊敬しているはずの先輩ですら――利用して。

 ジェームズの心を、自分に向けさせたかった。執着させたかった。
 ジェームズにも、自分に縋りついて欲しかった。

 セブルスがジェームズ以外の誰かに心を向ければ、ジェームズはセブルスを気にかけるだろうか。誰かを思えば思うほど、ジェームズは自分を見るかもしれない。誰かを受け入れれば。
 ルシウスに抱かれながら、何度も考えた。キスを受けながら、素肌を弄られながら、そしてルシウスをこの身に受けながら、そして最後まで受け止めながら。
 それだけ、ジェームズはそれを知った時、自分を見てくれるかもしれない。
 プライドの高いジェームズが、自分の手の中の物が飛びたとうとした事に怒るかもしれない。まして相手が、ジェームズの嫌いなルシウスなら尚更。
 使い捨ての玩具のように扱っていた自分を、少しは惜しんでくれるかもしれない。

 予想以上だ。

 止まらない笑い。零れる涙。シーツから手を離し、座りこんだまま、両手で顔を押さえた。何かが壊れたみたいに、セブルスは笑う。泣く。
 まさか自分がこんな風になるなんて。
 かつての自分はどこにいってしまったのか。誇り高かった自分は。

 誇り高かった自分を捨ててまで。


 そう。私はもう、ここまで壊れた。
 ポッター。お前の為に、私はなんだってしよう。心も身体も売り捨てたって、お前が少しでも私を気にかけてくれるなら。


 静かな部屋で、セブルスは泣き続ける。笑い続ける。もう決して、ジェームズに対して正常ではいられないだろう自分を感じながら。
 そして、心の中で、ジェームズに呼びかける。



 いくらでも自分を捨ててやる。



 そしてお前は、その度に。







 何度でも、私を抱きしめにくるんだ。







 ■Fin

  



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