君は抱きしめて。僕が僕を捨てても。




「セブルス。どうした、ぼうっとして。」
 放課後に図書室でぼんやり座っていたら、不意に声をかけられて我に返った。最近、そういう事が多すぎる。別に、と声の方向を見上げると、少し気まずさを感じた。
「……先輩」
 ルシウスが本を片手に、セブルスを見下ろしていた。
「最近少し疲れているんじゃないか?以前も、廊下で声をかけたのに気付かなかっただろう」
「あ……すいません」
「構わないが」
 ルシウスは椅子に座らず、セブルスの前の机に腰掛けた。本を置いて、片手をセブルスの頬に伸ばす。触れる感触にセブルスが一瞬身を引いたが、尊敬する先輩の手を払うことは出来なかった。
「少しやつれたか?顔色が悪いぞ。ちゃんと眠っているのか?」
「……はい」
「嘘をつけ。」
 ルシウスの目が探るようで、セブルスは口をつぐむ。
「お前の恋人はまともな睡眠時間も取らせてくれないのか」
 セブルスの心臓が高くなる。セブルスの視線を絡み取ろうと、ルシウスは見つめてくる。セブルスはそれに飲まれないよう、目を逸らし続けた。
「……恋人など、いません」
「やつれるような遊びならすぐやめろ」
「……」
 誰にも、セブルスはジェームズとの関係等喋ってはいない。しかし、ルシウスはなんとなく気付いているようだった。しかし決してセブルスは肯定できずにいる。
 ルシウスは溜息をつきながら、それでもセブルスの頬から片手を離さなかった。ゆっくりと、ラインにそって指で撫でてくる。セブルスの体が固くなる。
「今のお前を見ている限り、そいつはお前にとってプラスだとは思わんな。やめたらどうだ。お前ならいくらでも相手を選べる」
「……」
 ルシウスの指先が、セブルスの髪を遊ぶ。
「以前から言っているだろう、俺にしておけと。そんな顔はさせてやらないが」
 降ってくる声に、指に、顔が熱くなる。ルシウスが身を屈め、顔をセブルスに近付ける。力を振り絞って、顔を背けた。
「……恋人など、いません……が、すみません……」
 ルシウスはしばしその姿勢のままセブルスを見つめていたが、諦めたように手を離して机から降りた。セブルスはホッとする。
「……早く目を覚ませ、セブルス。覚めたら、いつでも俺の所に来い」
 最初に持っていた本を小脇に抱え、ルシウスはセブルスから離れた。

 ルシウスがセブルスを誘うのは、それは純粋な好意からでは無いという事をセブルスは知っている。優等生のセブルスを、プライドの高いルシウスが、その自分の傍らに置いても見劣りしない、と判断したからだ。好意ではない。しかしそれだって、尊敬する先輩に認められたという事なのだから、それは素直に嬉しい。
 それでも、いい加減な気持ちで応える事は出来なかった。

 彼に抱かれる事が想像できない。
 他の誰に抱かれる事も、心を動かされることも想像できない。
 ジェームズを思うようには。

 情け無くて頭を抱えていたら、見慣れたスリザリンの女生徒が近づいてきた。元気が無いのね、と問われ、そんな事は無いと投遣りに答える。世間話が煩わしくて、さっさと立ち去ろうと思った。付き纏おうとする彼女の目も見ず、本を抱えて図書室を後にしようとする。
 が、ふとセブルスは思い止まった。
 そして、その女生徒を振り返る。

「今晩、空いているか?」

    



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