君は抱きしめて。僕が僕を捨てても。




 暫く会わない、と言ったのはジェームズの方だったので、セブルスから会いたいと思ったってそう上手くいかない。それでもなんとなく情け無く思いつつ、わざと一人で行動するようにしていたら、幸いその行為は報われる形になった。
 休み時間の廊下でセブルスに声をかけてきたのはまた女生徒の方で、纏わりつこうとする彼女を適当にあしらおうとしていたら、視界の端にリリーと並んで歩くジェームズが見えた。向こうもこちらに気付いたが、互いに遠く、声が聞こえる程でも無い。意識をすると負けだ、等と思っていたのが既に意識をしている証拠で、正面から首に腕を絡めてきた女生徒にキスをされるまで正気に戻らなかった。
「おい、や……」
 不躾さが気に入らなくて押し退けようとしたが、ジェームズの事が気にかかって、その腕に力が入らなかった。
 ジェームズは見ただろうか。

 彼女と歩いているジェームズを見て、セブルスが胸を痛くするみたいに。
 ジェームズは何か思っただろうか。

 その時、もう振り向いたらジェームズ達はどこかの角を曲がってしまったらしく、その表情を確認する事は出来なかった。
 セブルスの心を渦巻く、寂しさ。不安。
 優越にまつわる、少しの期待。
 その日の放課後には、セブルスの教科書に、いつのまにかジェームズからの呼び出しのメモが挟まっていた。



「『そんな暇じゃない』んじゃなかったか?」
 待ち合わせの部屋で待っていたジェームズに、セブルスはそう言ってやった。しかしジェームズはニヤリと笑った。
「それを承知で誘ったのは君だろう?」
「覚えが無い。呼び出しをかけたのはお前だ」
「構ってくれって全身で訴えてたじゃないか。気を引くような真似までして」
 昼間の女生徒とのキスは、やはり見られていたらしい。セブルスの頬が赤くなったのは、それが恥ずかしかったからでは無く、気を引きたかった自分の情け無さだ。そしてそれをあっさりと見透かされて。
「……お前だって、いつも、している事だろう。わざわざ、私に見せつけるように」
 近寄って抱き締めてくるジェームズに、顔を背けながら言う。その頬を挟まれて、優しくキスをされる。
 そして、冷たい瞳で。
 残酷に笑った。

「勘違いするなよ、セブルス。君なんかに見せつける為に、僕はわざわざリリーにキスしたりしないよ、勿体無い。」

 ジェームズの顔がセブルスの首筋を沿って、それでもセブルスの身体が冷えていく。
「君の嫉妬とは訳が違うんだよ。僕が全ての君とはね。」
 立ったまま、ジェームズの手がセブルスのローブを脱がせる。ネクタイを外し、シャツのボタンを外す。
 どきり、とセブルスの胸が高くなる。
「わ、私だって……」
 ジェームズは気付くだろうか。
 昨日、女生徒につけられたばかりの痕に。
「私だって、別にお前が、全てなんかじゃ……」
 搾り出す声。



 悔しい。
 悔しい。悔しい。
 苦しい。
 いつも彼に心の全てを引っ張られて、引き裂かれそうな痛みで、そして彼はそれを承知で、遠慮無く引き裂きにかかってくる。
 自分ばかり。
 自分ばかり、悔しい。苦しい。
 少しは。

 少しは、気にかけてくれてないのか。



 ポッター。



 彼の手がセブルスのシャツを剥いだ。手探りで辿り着く、傷。
 少し首を伸ばせば確認できる位置についた、痕。
 セブルスの息が、一瞬止まる。

 耳元に響く、ジェームズの声。



「――知ってるよ」



 含み笑いのような。



    



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