祈りを




 学校がこれから始まるという時間。森の中の、明るい光の射す個所に、セブルスがしゃがみこんでるのを見つけた。
「どうしたのー?」
 ジェームズが声をかけても、セブルスは振り返らなかった。ただ腕を動かしているらしいのが分かった。近付くと、視力の悪いジェームズにも見えてくる。地面に、布で包まられた何か。
「……寮の近くで見つけた」
 ジェームズが足を止めると、セブルスが手を休めず、そう呟いた。
 包んでいる布。見覚えのある、セブルスのハンカチ。小さな何か。
「昨日は気付かなかった。今朝かもしれない。寮の壁のすぐ側で、もう動かなかった」
「野鳥?」
「ああ」
 ハンカチで事足りるほど、小さな、なきがら。
 セブルスはザクザクと、園芸用の小さなスコップで墓穴を掘っていた。
 何も言わずに。ざく。ざく。
 ジェームズはセブルスの横にしゃがんで、そっと、そのハンカチで包まれたなきがらを手に取った。
 ハンカチの上から、そっと撫でた。
 ざく。
 土を掘っていた手を、セブルスは止める。小さな野鳥を埋めるには、充分な大きさを作り。
「……猫にやられたのかもしれない。傷のようなものがあった」
「そっか。可哀想にね」
「仕方ない」
 ジェームズはもう一度その野鳥をハンカチ越しに撫でて、そしてそっと穴の中に横たえた。
「おやすみ」
 ジェームズが優しく呟くと、セブルスも呟いた。
「次はもっと長生きしろ」
 そしてセブルスは、土をそっと被せた。
 ジェームズも、そのセブルスからスコップをかりて、土を被せた。
 森の中は静かだった。



「セブルス、鳥、好き?」
「…好きでも嫌いでもない。ただ、放置しているのも哀れかと思っただけだ」
「襲った猫は?」
「罪はない」
 神に祈った後、二人して静かにその場を立ち去った。森の中をポツポツ話ながら歩いた。
「冷たかった?」
「悪趣味だな。聞いてどうする」
「君が泣きたいかな、と思って」
「なんの縁も無い鳥だ。どうして私が泣く」
「なんとなく」
 ジェームズはセブルスの、スコップを持っていない方の腕を取って、足を止めた。
 ジェームズよりも一歩先に進んだところで止められたセブルスは、怪訝そうに振り返った。
「……なんとなく。哀しさを感じる時だってあるだろ」
「……」
「共有させてよ。君はさっきまで一人だった」
「いらぬ世話だ」
「僕が共有したい」
 ジェームズは優しく、セブルスに両腕を伸ばした。
 セブルスはそのまま、抵抗もせず。

 優しく、優しく。抱きとめられた。

「一人は寂しいだろ?」

 セブルスは目を閉じて、背の高いジェームズの肩に頭を乗せる。

 羽毛が柔らかくて、冷たさなんて分からなかった。
 遠くに聞こえる野鳥の声。死を悼んでいるものもあるかもしれない。

「――長生きが幸せかは分からんが」
 ジェームズに身体を預けたまま、セブルスがポツリと呟く。
「祈ってやるのは傲慢か?」
 ジェームズは、セブルスの額に軽くキスした。
「僕も祈るよ」



 結局そのまま、二人して午前の授業はサボってしまった。
 森の中の木を背にして、ジェームズはセブルスを背後から抱きしめるように座っていた。
 お互いの手を合わせて。
「セブルス。――僕がいなくなったら哀しい?」
「清々する」
「酷いなあ」
 ジェームズは苦笑する。セブルスの背中越しに、ジェームズが揺れるのが伝わる。
「……酷いのは貴様のジョークのセンスだ」
「あれ?痛い話題、振っちゃった?」
「工夫は無いな」
「でも聞かせてよ」
「……知るもんか」
 セブルスは頑として答えない。ジェームズは、笑みを湛えたまま、セブルスの髪にキスした。
「僕は君がいなくなると哀しい」
 ジェームズの声が、セブルスの胸までゆっくり落ちてくる。
「……縁起の悪い話をするな」
「別に死ぬとか言ってないよ。君が僕から去っていったら哀しいなーって。本当にさ。いかないでね」
「離さないのはお前だろう」
「僕が離しても」
 ジェームズは、セブルスを抱きしめる腕の力を強くする。

「僕が離しても。君は」


 手の中の温もりを。
 いつか手放す事があっても。

 あっても。


「つくづく勝手な奴だ」
「分かってたでしょ?」
「分かってたがな」
 ジェームズは、後ろからセブルスの頬にキスをした。
 セブルスも顔を傾けて、そして唇を合わせる。
「――いってほしくないなら、努力しろ」
「わお。前向き」



「今度お墓参りにこようね。綺麗な花と、ハーブをたくさん植えてあげよう」
「覚えていたらな」
 温もりに触れながら、温もりを押しつけ合う。
 今はここにいるから。





 もしもどちらかいなくなっても。
 僕は君の為祈るだろう。





 僕の森の中、ずっと君を忘れずに。
 僕の為の君を。




030629



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