J〜Cryforthemoon


10




 それから間もない日。休み時間、ジェームズは不意にリーマスに呼ばれた。
「どうしたの、リーマス?」
「ちょっと、いいから」
 シリウスとピーターは別の授業を受けていて、まだ合流していない。真剣な様子のリーマスに、戸惑いながらもジェームズは付いていく。リーマスは先に立って歩き、人気のない、階段の下で立ち止まった。
「…改めてどうしたの、リーマス。何かあった?シリウス達に聞かせられない事なのかい?」
 こんなリーマスはあまり無い。少し不安になる。
「そうだろうね。まずいと思う」
 声も、こころなしか固かった。いつも柔らかい印象のあるリーマスには珍しい事だった。ジェームズは顔を引き締め、リーマスの言葉を待つ。
 リーマスは、問い詰める瞳で、ジェームズをまっすぐ見据えて、言った。
「君とセブルス――に、ついて――」
 強い意思を持って言おうとしたリーマスだが、セブルスの名を出したところで、少し躊躇って、結局はっきりとは言わなかった。が、何が言いたかったのかは分かった。
 リーマスは気付いている。
 全身から、血の気が引いて、そして。
「僕とスネイプが――どうしたって?」
 心が、冷ややかに凍り付くのが分かる。最初の頃、セブルスに対して現し続けていた心だ。口許には笑みすら浮かんでくる。あの、セブルス以外の誰にも見せた事の無い笑みが。
「とぼけないでくれ、僕は――」
 優しいリーマスが躊躇って言えない事を、ジェームズは自分から口に出した。
「知っているって?僕とスネイプができてるって」
「――ジェームズ」
 リーマスが悲しそうな表情をしたのは、ジェームズがひどく冷たい顔をしていたからかもしれない。そんな顔そのままに、ジェームズは続ける。
「誤解しないでくれ、ミスタームーニー。僕達は別に心が通い合っているとかそんな関係じゃないよ。そんなワケが無いさ、よりによってスネイプだって?僕はそんなに悪趣味じゃ無いよ」
 笑って、言う。
「ただの嫌がらせさ。スネイプが、あんまり煩かったから。」
「ジェームズ……」
 リーマスが絶句する。ジェームズは冷たい心に全身を支配させる。
「心配してくれていたのかい、リーマス。ごめん、でも気にしないで。おかげでスネイプも最近大人しくなっただろう?」
「ジェームズ」
 言葉を遮るように、リーマスは、そして瞳に哀しい色を宿して、ジェームズと視線を合わせてくる。ジェームズも視線をそらせなかった。
「ジェームズ……君が、セブルスを例えそんなに嫌いだったとしても――やって良い事と悪い事がある。大体、これがばれたら二人ともどうなると思ってるんだ」
「分かってるよ、ほどほどにしておく」
「そういう問題では無いだろう、ジェームズ。」
「スネイプだって馬鹿じゃない、上手くやってるさ」
 ジェームズは、あくまで冷たく、話す。突き放したように。
「僕らが肉体関係があるだなんて回りにばれたら、痛いのはスネイプの方だからね。」

 突き放したのはリーマスなのかセブルスなのか、ジェームズ自身なのか――

 リーマスは、そんなジェームズの言葉に、必死で言葉を探す。彼は以前から、仲間内で一番セブルスに対して優しかった――尤も彼は誰に対しても優しいのだが。
「それでも、いつか勘付いてしまうかもしれない。以前と比べて、セブルスはかなり君に対して穏やかになったよ。君だって」
「よしてくれリーマス。関係があると言っても、そんな馴れ合った関係じゃないさ、僕達は」
 ジェームズが投槍に言った。だんだんと辛くなってきて、ジェームズは視線を外した。リーマスはなおも続けてくる。
「勿論遊びだとしても、リリーが何も知らないとしても、君がリリーを傷つける行為をしている事には変わり無いんだよ」
「リリーは傷つけない。」
 一番大切な人間の名を出され、即座にジェームズはそう返した。リリーだけは絶対に傷つけない。
 ――即座にそう答えたのは、後ろめたかったからかもしれない。リリーに対して。
「リリーを傷つけたりなんかしない。彼女は僕の一番大切な人だ。…リーマス、君は……」
 初めて心配になって、ジェームズはリーマスを窺った。彼が優しいのは知っている。だけど、優しさから告げる真実もある。もし現在彼女の事を思うなら、ジェームズの事など捨ててしまうよう説得するかもしれない。そうだ、こんな、恋人がいる身で、男を抱いてる男など。
 しかし、リーマスは弱弱しく首を振った。
「言わない、僕は言わないよ、決して。そう、君がちゃんと考えているんだったら僕は良いんだ、だけど」
「心配かけてすまないリーマス。」
 心からそう言った。リーマスは本当に優しい。リリーの事も、ジェームズの事も、そしてセブルスの事も、全部心配しているに違いない。まったく彼には関係無いのに。だから心から謝った。これ以上彼に気苦労をかけたくない。凍った心はリリーの名で溶けていた。
「教室に戻ろう、そろそろシリウス達も戻っているだろうから」
 そう言って、ジェームズから先に歩き出した。

 そして、リーマスとリリーに改めて申し訳無さを感じながら、客観的に自分を見つめている自分がいた。
 リーマスは確かに察しが良いが、それを知っていながら自分はあえて隠そうとしていなかったのでは無いだろうか。
 現場を見たわけでは無いだろうリーマスに問い詰めれられ、少しも誤魔化さずに応えたのは何故だ。誤魔化しきれないと思ったからか。
 違う。
 ジェームズは自分で知っている。以前と同じ感情だ。

 僕はばらしたかった。
 誰かに、セブルスは僕のものだと見せつけたかったんだ。






 そんな風に自分の心でいっぱいいっぱいになっていたから、ジェームズは気付かなかった。二人が立ち去った後、杖が転がった音なんて。
 すぐ近くにセブルスがいて、何を聞いていたかなんて。
 知らなかったから、それは悲劇に繋がった。

    




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