J〜Cryforthemoon


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 ここ数日、セブルスと会ってない。
 ジェームズは休み時間、つい視線をさ迷わせてしまうが、セブルスの姿が目に入らない。勿論学校には出てきているので、授業中には顔を見る事ができるのだが、以前ならよく合った視線も、まったく合わない。
 最近はわざわざ呼び出しのメモを渡したりしなくても、目が合って、雰囲気で約束を取り付ける事ができるようになっていた。今日会いたい、とジェームズが思い、意味ありげに視線を交わせると、ちゃんとセブルスは来るようになっていたのである。むしろ最近は、その誘いをセブルスは待っていた。なのに、最近は顔すら合わない。ジェームズはそろそろセブルスを抱きたくなってきていたので、これは久しぶりに約束のメモでも書かないといけないか、と思う。もしかしたら体調が悪いのかもしれないが、それならそれで構わない。無理はさせないようにするし。それとももしかして、何か拗ねているのかもしれない。最近、ジェームズの友人達への嫉妬が激しくなっていたようだから。案外強引に構われるのを待っているのかもしれない。セブルスは相当意地っ張りだから。
 でも今日は駄目だ、やめておこう。
 リーマスが狼になる日だから。
 セブルスを思いながら、首を振った。優しい友人が、自分の能力に苦しんでいるのはよく分かっている。そんな日に、自分だけ快楽を追い求めてはいられない。



「あれ、シリウスは?」
 寮に戻ると、談話室にはピーターしかいなかった。満月の日はいつもシリウスは心配そうで、大人しい。いない事など滅多に無いのだが。
「もしかしてもう部屋に戻ったの?」
 聞くと、宿題をのんびりと片付けていたらしいピーターは手を止めて、首を少し傾けた。
「いや……ごめん、分からない。うん、そうだ、部屋にはいなかったと思うんだけど」
「そう。珍しいな、どこ行ったんだろう」
 ピーターの目の前に座り、何気なくその教科書を手に取りパラパラ捲ってみたりする。少し考えるように俯いてから、ピーターが小さく呟いた。
「そう言えば、なんか少し様子が変だった気がするけど……」
 聞き逃さず、え?とジェームズはピーターを見る。途端にピーターは自信無さ気に慌てて首を横に振ったが、ジェームズに「どうだったって?」と重ねて聞かれると、もごもごと話し出した。
「変って言うか……昼過ぎ、くらいかなぁ……。ほら、ジェームズがリリーと会ってていなかった時。なんかね、スネイプがこっち睨んでて……」
「スネイプがこっちを睨んでるのなんか珍しくないだろう?シリウスと喧嘩になったの?」
 そんな話は聞いていないが。そしてピーターも、それを否定した。
「違う。なんか、フイッといなくなっちゃったから。ただ、シリウスが、気に入らないって。最近、こっちを見てるスネイプの目付きが前より鋭いって。そのくせ何も言ってこないから、あいつは何か企んでるに違いないって。シリウス、随分怒ってた。リーマスが宥めてたけど。リーマスが変身する日なのに、シリウスの方が気が立ってたみたい」
「シリウスが……」
 ジェームズは顎に手を置き、考える。シリウスはセブルスを警戒している。セブルスの最近の鋭い目付きというのは、恐らくジェームズを取り囲む人間に対しての嫉妬だ。ジェームズ自身もそれを見ていて、それでセブルスが自分にもう溺れている事を確信した。それが面白くて楽しくて、ジェームズにとっては、そんなにも自分に懐いてくるセブルスが可愛かったが、シリウス達の目には勿論そうは映らなかった――リーマスは察しているだろうが。もし自分がシリウスで、セブルスが何か企んでいる――と思ったとしたら。
 何よりも警戒すべきは、満月の夜だ。
 ジェームズやシリウス、ピーターには別に何か今すぐ大変な事態を巻き起こしそうな事は無いが、リーマスは人狼だ。正体が周りにばれたらとんでもない事になるのは間違い無い。そして、月に一度、必ず姿を消す。これに気付かれていたら、そこからバレてしまう可能性がある。恐らく今日、シリウスはリーマスを心配して、暴れ柳の方まで行っているに違いない。まさかホグズミードまではついて行ってはいないだろうが。
 そこまで考えて、はたと気付く。だから、どうした?別にセブルスがリーマスを追いかけて行ったわけではなのだから。セブルスがシリウス達を睨みつけていたのは、何か企んでいたわけでは無く、単なる嫉妬だ。
 しかしなんとなく気になって、ジェームズは席を立った。
「シリウスを探してくるよ」
「あ、じゃあ僕も」
「いいよ、一人で。君は宿題片付けておきなよ。先に終らせて、後でシリウスに自慢してやりな」
 ピーターを止めておいて、ジェームズはこっそりと外に出た。一人で外に出たのは、あわよくばセブルスを見つけられないだろうかと思ったからでもある。リリーでも勿論可。
 とりあえずはシリウス。あまり警戒させ過ぎるのも、真実を知っている人間としては、シリウス・セブルスの両方に悪い気がするし、なんとかある程度の手は打って、シリウスの頭の中からセブルスへの警戒心を消しておこう。ジェームズは強い風に身を竦めながら、暴れ柳のある抜け道へと向かう。
 暗い道を少し早足で歩くと、拍子抜けするほどあっさりと、シリウスの姿が現れた。向こうも、すぐにこちらに気付く。
「シリウス。やっぱり暴れ柳の方に行ってたのかい?」
 微笑んで、走り寄ろうとしたら――シリウスの、少し高ぶった感情にぶつかった。目付きが異様に鋭い。雰囲気が荒んで見える。
「……ジェームズ」
「シリウス。どうかしたの、何かあったのか?」
 問いかけながら、急速に嫌な予感が自分を包み始めていた。シリウスは、吐き出すように、言った。
「スネイプのヤツが」
 ジェームズの心臓が、その名にどきりと跳ね上がる。
「スネイプが、リーマスをつけてきた。最近何か企んでいると思ったら、案の定だ!」
 怒りをあらわにするシリウスの前で、ジェームズは声を失った。思考が吹っ飛んで、とりあえず掠れる声で、続きを促した。
「……それで」
 シリウスは、怒り収まらぬ雰囲気をそのままジェームズにぶつけるように。
 言った。

「暴れ柳の越え方を教えてやったさ。そんなに秘密を知りたきゃ、身をもって知ってこいって」

 ――なんだって?

 なんて言った、シリウス。君は。
 では。

 では、セブルスは、一人で、満月のリーマスを追いかけて行った?

 一人で人狼の後をつけていった?

 ジェームズは思わずシリウスのローブを掴み、怒鳴った。
「自分が何をしたのか分かっているのか、シリウス!!本当にスネイプが変身したリーマスを見つけてしまったらどうなると思ってるんだ!!人狼を確認できる距離なら、それはもう逃げる時間すら無い距離だぞ!!スネイプがリーマスに襲われたらどうなると思ってるんだ!!」
 シリウスはジェームズに掴まれたまま、怒鳴り返す。
「それならそれで、痛い目に遭えば良いだろう!!誰だって、秘密の一つや二つはあるだろう!?ましてや、リーマスは本人が望んでもいなかった事なんだぞ!!それなのにあんなに苦労して生きてきて、漸く落ち着いているのに、何も知らないやつにそれをぶち壊す権利は無い!!」
「分かっているのか、もし人狼がスネイプを襲ったとしたら――それは、リーマスの罪になるんだぞ!!けしかけた君でもなく、後をつけたスネイプでもない、ただ人を襲いたくないが為に月に1度学校を抜け出している、リーマスの責任に!!」
 そう言うと、初めてシリウスが顔色を失った。ジェームズは手を乱暴に放し、素早く頭をめぐらせる。落ち着け、落ち着け。
 まず、乱暴に掴んでいた事と怒鳴りつけた事に対して、シリウスに、すまない、と謝っておいて、ジェームズはシリウスに言う。
「君は、寮に戻れ。ピーターが心配しているかもしれないから、探しに来ないように止めておいて。騒ぎになったらまずい。僕はスネイプを連れ戻してくる。君は顔を合わせたくないだろう?僕がいなくなった事、誰かに聞かれたら適当に誤魔化しておいてくれ」
 シリウスはジェームズから顔を逸らし、そして頷いた。それでもまたセブルスに対しての怒りは収まっていないのだろう。その気持ちも分からないでも無かった。やった事は間違いだが、言っている事は間違っていなかった。
 ジェームズはもう何も言わず、全速力で暴れ柳の下の抜け道へ走った。



 どうしてこんな事に。
 暴れ柳を抜けて、ジェームズは全力で走る。セブルスはどこまで先に行ったのか。狭い道なので、全力と言ってもスピードが出せない。延々と続く道を走りながら、自問自答し続ける。
 どうして、セブルス。リーマスの後をつけるなんて。そんなにも僕の友人が憎かったのか?シリウスを責める気にもならなかった。先がどうなるか予測もせずに、セブルスの嫉妬を煽ったのは自分だ。自分の為にセブルスが思いつめるのが楽しかった。見てて嬉しかった。なんて勝手な。
 それとも、セブルス、君はまだ僕を憎んでいて、いつか機会を狙っていたのだろうか。僕達に仕返しする機会を狙っていたのか。

 どちらにしろ、責任は自分にあった。
 セブルスを追い詰めたのは自分だ。そしてシリウスを追い詰め、今はリーマスを追い詰めようとしている。


 何もかも、全部僕の責任だ。


「セブルス!!!」
 鋭い叫びは、しかし押さえ気味に発した。リーマスに気付かれたらまずい。一心に前を向いていたセブルスに、手を伸ばして強くその腕を掴んだ。
「ポッター!?」
 ジェームズの足音も聞こえなかったくらい眼前に集中していたのだろう、セブルスは突然ジェームズが現れた事に対して大きく目を見開いた。
「早く戻れ、スネイプ!!」
 しかし、ジェームズが腕をさらに引っ張ろうとすると、セブルスは力任せにそのジェームズの腕を振り解こうと暴れた。
「お前に命令される謂れは無い!離せ!」
「命令とかそんなくだらないことを言ってる場合じゃないんだ、すぐにここから離れるんだ!!」
 セブルスは精一杯逆らおうとするが、ジェームズだって大人しく引き下がれる状況じゃない。幸い力はセブルスより断然上で、掴んだ腕をそのまま引っ張り、引き摺るように来た道を戻る。早く戻らなければ。もし人狼と化したリーマスに気付かれたら。そんなジェームズの焦りの意味など分かりもせず、セブルスは抵抗を続ける。
「そんなに仲間の秘密を探られるのが恐ろしいのか!?いつも仲良しで結構な事だな、人の秘密にはおおっぴらなくせに!!」
「なんの事を言ってるんだ、スネイプ、とにかく早く来い!!命が惜しく無いのか!!」
 セブルスを引っ張りながら、チラリとその後方に目を向けた。まずい、僅かに見えていた通路の先の部屋の影に、狼の姿が見えた。これ以上は無いくらいジェームズは力を込めてセブルスを引っ張る。
「お前こそ、なんの事を言って……」
 ジェームズに引き摺られながら、セブルスは釣られたように、ジェームズが視線を向けた方向へ顔を振り返らせた。そして。

「――人……狼……?」

 呆然と、呟いた。

    




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