J〜Cryforthemoon





 あの日以来、セブルスは全くジェームズに逆らわなくなった。日中ジェームズの方を見ることも無いが、呼び出せば必ず応じるし、時間も守る。ジェームズの言う通りに体を開き、奉仕もする。教えこめば、どんな事でもやった。
 セブルスは、表情らしい表情すら無くなったが、そうであればあるほど、ジェームズはその表情を変える為にわざと乱暴に扱ったり、優しくしてやったりもした。セブルスは特別態度を変えたわけではなかったが、優しくしてやった時の方がやはり少し落ち着いていた気がする。そしてジェームズも気付いた。セブルスといると、楽だった。機嫌が良ければ優しくもしてやるし、機嫌が悪ければセブルスに当たる。その全部をセブルスは受けとめるから――受けとめざるを得ないから――何を隠す必要も気遣う必要も無く、ならばそれは確かに楽だろう。どうしたってセブルスは逃げないのだから。
 そのセブルスの事を、やがてジェームズも知る余裕が出てくる。
 ある日、不意に宿題で分からない個所が出た。セブルスの得意そうな分野だったので、手伝ってもらった。相変わらず、ほとんど無表情で教えてくれたセブルスに、回答を見て感心しながら、何気なく、ありがとうとジェームズは礼を言った。ふと違和感がして、目を上げると、セブルスは何故か面食らったように赤面して、ジェームズを見ていた。目が合って、慌てて顔を背けた。ただ一言、礼を言っただけなのに。そんな一言に嬉しくなるほど、自分は酷い事をしていただろうか――していたな。ジェームズはほんの少し罪悪感を覚えた。同時に、ジェームズのそんな他愛の無い事に喜ぶセブルスが可愛かった。
 その日以来、ジェームズはセブルスとの二人の時間に、日常を持ちこむようになった。セブルスと二人の時間を過ごす事によって確実に割を食った勉強時間を、そこに挿入したのである。幸い、セブルスも成績が良かったから、手伝ってもらうには絶好の相手だった。ついでに、性格が違えば当然視点も違うので、何か1つの事柄に対してもセブルスの考え方を聞くと、それだけで視野は広がった。真剣に議論を交わしても、同じレベルで意見をぶつけ合える。なかなかこれは有効な時間だった。
 そんな日を過ごしていると、まるで普通の友達のようだった。少なくとも議論を交わしている間は対等の立場であるし、そのおかげか、いつのまにか無表情だったセブルスに、感情が戻ってきた。口数も増えた。冗談を交わすようになった。そんな変化に戸惑ったのは、しかしセブルス自身のようで、どうやら彼はジェームズ相手だからどうと言うわけでは無く、本当によく分からない感情をもてあましているようだった。その理由は、親しくなるにつれて察しがついた。

 こんな夜もあった。
「この扉の鍵を、魔法を使わずに明ける事ができるかい?」
「……?」
「力技じゃ無理だよ。正解はこちら。」
「……ピン?」
「そう。針金でもいける。見ててごらん、これをね、適当に曲げて、鍵穴に挿しこんで……うん……お、ほら開いた!!」
「……」
「マジックです」
「ただのこそ泥だ!!」
「こそ泥だなんて人聞きの悪い。何も取っちゃいないよ。ただどこかに忍び込むのに便利なんだよ、休み中は魔法使えないし」
「何故どこに忍び込む必要がある」
「セブルスもやってみなよ」
「断る!こそ泥の真似はごめんだ!!」
「何を固い事を。ていうか無理?できそうにない?セブルス、不器用?」
「無理とかそういう問題じゃっ……」
「できないんだー。そうだよねー、セブルスって細かい仕事下手そうだもんねー。針に糸とか通せなさそうだもんね―」
「なんの話だ……」
「できる?」
「……………………ピンを貸せ」

 悪ふざけ、他愛の無い悪戯、ゾンコの大穴商品。そんな事にはセブルスは勿論縁が無かった。それだけなら見たままだったが、どうやら打ち解けた友人すらセブルスにはいないらしかった。スリザリンの連中が表面上のお付き合いであろう事は知っていたが、どうやら昔から心を許すような人間が側にいなかったようだった。冗談の合間に軽く頭を小突く、そんな行為にすら赤くなるセブルスは、ジェームズにとっての友人というような者がいなかったのだ。そんな付き合い方を知らないのだ。ジェームズには想像もつかないが、初めて、セブルスを可哀想だと思った。
 セブルスの性格が、思わずこんな風に押さえつけたくなったくらい悪いのだとしても、それは本人だけの責任では無い。性格は環境に左右されるのだ。ジェームズと他愛の無い馴れ合いの言葉を交わしながら、セブルスは確実に変わってきている。ジェームズに応える様に、穏やかになる。
 もしももっと昔から知り合っていれば、何も分からないくらい幼い頃から知り合っていれば、セブルスもグリフィンドールに来るような人間になったのでは無いだろうか。少なくとも友情を捨てる事は無いジェームズが、セブルスを導けていたら。
 そして自分もこんな支配欲に満たされていたりはしなかったのだろうか。
 セブルスの体を自由にするのも自分なら、彼の名を呼び、彼にたくさんの楽しい事を教えるのも自分。

 ジェームズがどうしてもセブルスに対して抱いて離せない、暗い支配欲。

    




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