J〜Cryforthemoon





「し!」
 鋭くセブルスの耳元で囁き、ジェームズは同時に、その辺に放り投げていた透明マントを引っつかんだ。いつものように肌を重ねていた夜だった。
「ポッター……?」
「静かに。誰か来る。」
 そう言って鋭い目でドアの向こうに視線を走らせ、ジェームズは体を起こすと、壁際までセブルスを抱えるようにして移動した。そして座らせたセブルスを正面から抱きしめるようにして、すっぽりと透明マントを被り、動きを止めた。微かに聞こえた足音は、コツコツと確実に部屋へと近付いてくる。腕の中のセブルスをより強く抱きしめると、セブルスは状況が分かっているのかいないのか、ジェームズの方に頭を乗せてきた。
 そう、力を抜ききって、ジェームズに全てを委ねている。
 そう気付いた瞬間――ひどく冷たい心が囁いた。

 もし――もしこの透明マントを脱ぎ捨てて。
 足音にも構わず、セブルスを抱き続けたら、どうなるだろう。
 見せつけるように、セブルスを抱いたら。

 暗い心に引き摺られるように、目の前が真っ暗になる。

 近付く、響く足音。

 今すぐこの透明マントを脱いで。
 どこをどうすればセブルスが高い声を上げるのか知っている。
 どうすればしがみ付いてくるのか。早くイかせるには。

 その気になれば、すぐに実行できる――

 心臓の音が高くなる。逆に、セブルスは落ち着いているようだった。
 足音が近付いて――

 そして、遠ざかった。
 ジェームズは、全身で息を吐いた。

 熱っぽいセブルスの体がジェームズの腕の中にある。今、自分が何をしようとしていたか、見ないふりもできない。
 独占欲。
 彼の人生を失わせてでも、自分の人生を失ってでも、見せつけたいと感じた。
 これは自分のものだと。セブルス・スネイプは、ジェームズ・ポッターの所有物だと。

「ポッター……?」
 すぐ近くでの呼びかけに我に返ると、不思議そうな顔をしたセブルスが、何も知らないでジェームズを見つめていた。
 君は、本当にもう僕に全て任せきっているんだね。そうしたのは僕だけど。
 ばらさない、という約束を信じきっているセブルスは、今ジェームズが何を考えていたかなんて思いも寄らないに違いない。ただ愛しくて、可哀想だった。
「……?」
 訝しげなセブルスと視線を合わせていられず、ジェームズは視線を下げ、なんでもない、とセブルスを横に倒し、愛撫を再開した。もう何も考えない事にして、自分ばかり高める事に集中した。



 夜はセブルスと過ごす事も多いが、勿論日中は始終シリウス達と過ごしている。これは本当にいつもの事ながら、楽しい毎日だった。学校を抜け出して遊びに行くのも、授業中にふざけて怒られるのも、ミスターフィルチをどうやって出し抜くかとか、犯人の割れない悪戯を真剣に考えるのも。
 勿論勉強をするのも皆と一緒だった。放課後に、その日出た宿題をさっさと片付けてしまう為、シリウス・リーマス・ピーターと図書館の机を1つ占領して、頭を寄せ合う。手分けして資料を集め、真ん中に広げて、皆で検討する。大体発言力があるのはジェームズとシリウスで、時々リーマスが横から補足を入れてくれたりする。ピーターが真剣に考え、途中で分からなくなっている。その隣に座っているシリウスがからかいながら、わざとややこしい説明で、さらにピーターを混乱に陥れる。リーマスが苦笑しながら、ピーターに言い直している。笑いながらその様子を見ていたジェームズは、ふと強い視線を感じ、目を上げた。離れた位置に、セブルスが立っていた。ジェームズ達を激しい視線で睨みつけていた。しかしジェームズはその激しさの原因をもう知っている――嫉妬だ。ニヤリと笑ってやると、案の定セブルスは顔を真っ赤にして、走り出すように踵を返して去って行く。
「ごめん、ちょっとトイレ」
 そう言ってジェームズは席を立ち、セブルスの後を追った。リーマスが何か言いたそうだったが、気が回らなかった。本棚の隙間を小走りすればすぐに追いついて、
「セブルス」
 声をかけて腕を掴む。まだ赤い顔で、それでもジェームズが追ってきた事を嬉しがるような、そんな自分が悔しいような表情で、セブルスが振り返った。すぐに通路の奥に押しこみ、唇を押し付けた。それを待っていたかのように、セブルスもジェームズの腕を掴み、強くそれに応えてくる。
「ん……ふぅ……」
 音がしそうなキスを何度もし、ジェームズはやがて苦笑しながら離れた。トロンとした目のセブルスは物足りないと言った風に、半開きの口をもう一度ジェームズに重ねようとする。
「こんな所で感じを出したら、あとが大変だよ、セブルス」
 そう小声で言って、ジェームズは自分の指をセブルスの口に含ませた。セブルスは示されるがまま、その指に舌を這わせる。
「今日、いつもの時間に、いつもの場所で」
 含まされる指が一本から二本に増え、喘ぎながら、途切れ途切れにセブルスが、それでも条件反射のように、逆らうように答えた。
「ぁふ…今日は、レポートが……」
「この続きをしよう」
 勿論本気で逆らうつもりなど無い事は知っている。逆らってみせるポーズも、甘えの1つだ。ジェームズは指を引き抜いて、その場から素早く立ち去った。セブルスの唾液で濡れた指先は、自分の舌で拭った。
 感じを出したら大変なのは、自分も同じだった。

    




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