ぬくもりを君に




 果てた瞬間、身体の力も全て一緒に出し尽くたように、セブルスは床に沈みこんだ。固くて冷たい床なのに、身体はどこまでも埋め込まれていく様に重い。ふう、と大きく息を吐いたジェームズが、横にゴテンと寝転がる。お互い息を弾ませて。ただし、ジェームズの方が、遥かに軽そうな疲れ振りである。
 セブルスがチラリと視線を一瞬だけ隣に向けると、僅かに口を開けて酸素を求めるジェームズの、瞳を閉じた顔が妙に穏やかで腹が立つ。コトの直後だけあって、流石に赤い顔をしているが、きっとすぐに、何事も無かったかのように立ち上がるのだろう。
 セブルスも瞳を閉じ、気だるい身体を放置する。体力馬鹿に付き合わされて、どうせ明日までしっかり疲れは残る。無理に動こうとも思わない。

 もう何度目になるのだろうか。
 肌を重ねるようになってから。

 最初の強引さが徐々に収まって(セブルスが抵抗をやめたからだ)、ジェームズのキスが優しくなり、穏やかに、まるで労わり合っているかのような重ね方。ただし勿論セブルスにはジェームズを労わる心など無いが、どうせ逃げられないのなら、なるべくジェームズに合わせてやり過ごした方がラクなのだった。
 そうして得た二人の時間は、まるで日常の中、当たり前の様に存在する事になった。特に約束をせずとも、なんとなくいつもの「コト」用に使用している部屋に向かい、時には図書室で借りた本を持ちこんだり、ジェームズはハニーデュークスで買いこんだお菓子を部屋に広げたりもした。たまたま見かけた新聞記事に目を通し、議論を交わす事もある。

 それでも、例えば『友人の様に』心を許すなんてありえない。
 目を瞑ったまま顔を顰めて、セブルスは誰にとも無く断言する。

 今だって、いざとなったら「僕達の関係、バラしちゃってもいいの?」そんな脅し文句を振りかざしてくるに違いないのだ、このメガネは。
 こんなヤツに馴染むなんて冗談じゃない。

 薄目を開けて、瞳だけを隣に動かす。まだ彼は目を閉じていた。放っておいたら、その内いびきでもかくかもしれない。平気で朝までこんな所で過ごせる男だ。気楽で羨ましい事この上ない。
 そんな皮肉を考えていたら、セブルスまで眠くなってきてしまった。

 ……多人数で生活する寮よりも、静かで落ち付く事は確かだ。
 ジェームズは「多人数」よりも余程存在がうるさい、という事には目を瞑り。

 気が付けば少し寒い気がした。ローブをお互いの身体の上にかけてはいるが、まだ何も着ていないのだ。そろそろ火照りも冷めてきた。
 ローブから出るのも多少勇気がいる。そして、寒いと思いながらも、肌に直接被っているローブの温もりが気持ち良かった。

 眠たいと思い出したら、ますます眠くなってくる。

 まずいな、と思いつつ、セブルスも少し目を閉じてしまおうかと思った。自分に限り、このままの格好で朝まで眠ってしまうという事も無いだろう。万一深く眠りかけたとしても、ジェームズが先に起きるかもしれない。その気配で自分も起きる事ができるだろう。
 そんな弁解を重たくなる頭の中でうだうだ考えて、身体は本格的に眠り態勢に入ってきた。しかし、せっかく眠たいのに、やはり少しの寒さが、僅かにブレーキをかける。寝てしまいたいのに。

 寒い。

 眠い…
 寒い………… 

 と。
 せぶるすは、つい。夢現の無意識で。

 隣のジェームズに、身をすり寄せてしまった。
 まるで、彼の胸に顔を埋めるように。


「!」

 次の瞬間、セブルスは自身の行動に、完全に目が覚めた。
 待て私!今何をした!!いや何をしている!!!
 寒いどころではない。完全に、頭に血が上っている。いや、冷めたはずの身体の火照りが一気に復活した。
 今、セブルスと同じくまだ服を着ていないジェームズの体温を求め、自ら彼に擦り寄ってしまった。まるで身を任せているかの如く。
 顔はどこまで熱くなるのかというくらいに真っ赤になっているし、心臓はバクバクと音を響かせている。
 この私が!この私が!!
 ポッターなぞに身を寄せた!!
 そんなジェームズは起きているのかいないのか。起きていたら、間違い無く開口一番「なあに、セブルス。そんなに僕が恋しいの?」なんて嫌味ったらしい笑顔を向けてくるに違いない。ならば寝ているのか。気付いてないのか。
 ここで慌てて身を起こせば、寝ていたジェームズを起こしてしまうかもしれない。気付かれでもしたら……。そんな事を考えて、セブルスはジェームズから離れるタイミングを失ってしまう。どうして良いものやら、顔は熱いままだし心臓の音はジェームズに届くのではないかと思う程止まらないし、汗まで流れ出しそうだ。生殺しだ。
 ジェームズの体温がダイレクトに伝わってくる。
 寝ているのならそのまま眠っていてくれ。せめてこの顔の火照りが消えるまで。起きているなら起きているで、もう良いからさっさと何か言ってくれ。このままでは居辛い。寝ているのならいびきの一つもかいてみろ!!
 ジェームズに寄りそうように硬直したまま、セブルスが心の中で絶叫する。
 そんな声が届いたのか、ジェームズがぴくりと動いた。途端、セブルスの身体もびくりと震える。審判の時。

「……」

 ジェームズの顔など見れない。かと言って、目すら閉じる事ができない。
 笑うか?笑うなら、そんなにためずに、さっさと笑え!
 呼吸も早くなり、セブルスが起きている事は、ジェームズにだってすぐに分かるだろう。
 ジェームズが、セブルスを窺っているような気配がする。いや、窺ってないかもしれないが、セブルスにはそう思える。自分をあざ笑う為の言葉を探しているような気がする。
 ジェームズの体が、もそと動いた。


「寒いね」


 逞しい腕が。
 セブルスを、優しく胸に抱き締めた。


「……」
 セブルスは硬直が取れなかった。心臓が止まったかと思った。
 止まったかと思った心臓は、やっぱりまだドキドキと激しい音を立てている。
「寒いね、セブルス」
 ジェームズがもう一度呟いた。
 そして、隙間の一つも無いように密着する。交わされる体温。

 優しい腕。ローブよりも温かいジェームズ。

 高鳴る胸はそのままに、しかし何故か。
 落ち着かない様な、それでいて先程までよりも余程、穏やかなような。

 不思議な気持ち。

「もう少し、寝てようか」
「……そうだな」
 ジェームズの言葉に、呟き返したセブルスの声はとても小さくて、自信無げだったが、密着した身体からしっかり伝わった。
 そして、ジェームズは何もセブルスに言わなかった。
 嫌な笑い方もしなかった。

 たださりげない腕と言葉。



 こんなヤツに、心を許したりなんかしない。
 馴染むなんて、冗談じゃない。

 何度も何度もそう呟きながら、セブルスは。


 与えられた体温で寒気はどこかに飛んでいき、安心して訪れる眠気。
 冗談じゃない、冗談じゃない。そんな事を何度も思いながら。



 ジェームズの腕の中で気を抜ききって、朝までぐっすりと眠りについた。




0301010





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