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そして夏休みに入り、生徒は実家に戻る。思い思いに夏休みを過ごす。
セブルスは同じスリザリンの同級生の誘いを断って、静かに日々を送るつもりだった。表面だけの付き合いですら面倒だった。
同じスリザリンでも、セブルス程に能力がある人間はそう多くない。以前はそれを気に止めた事は無いが、いつのまにかそれでは物足りなさ過ぎてつまらなくなってしまった。
ジェームズのせいだ。
呼び出されるまま夜を共にして、聞くとは無しに彼の話を聞かされる。悔しい事に、彼の話には飽きる事が無かった。ふざけた話はともかく、話題が豊富で深いのだ。刺激という点で、彼に敵う者はいまい。
そんな事すら誰も彼に敵わないなんて、本当に悔しくて仕方ない。
2ヶ月は会わずに済むと思っていたのに、呆気なく2週間で、セブルスの自宅にジェームズからフクロウ便が届いた。ノクターン横丁に呼び出されて、いかがわしい宿に連れて行かれてまた抱かれる。夏休み中、それを何度か繰り返した。
「いつ呼び出しても家にいるけどセブルス、友達いないのかい?」
ブラインドの下りた窓に近付き、ジェームズが笑う。セブルスが言い返す。
「休み前に、家で勉強していると言っただろう。遊び呆けている貴様とは時間の使い方が違うんだ」
古いベッドの端に腰掛けて、シャツの袖に腕を通し前ボタンを留める。涼しい土地柄のせいもあるが、セブルスは、夏でもあまり半袖を着ない。肌をそのまま表に出すのは、なんとなく頼りなくて好きじゃなかった。視線を横に向けると、マグルのようにラフな半袖の、ジェームズの腕が目に入る。日に焼けていて、逞しい。セブルスは、袖口から覗く自分の手首に視線を転じた。暗い部屋でもよく分かるほど、細くて白くて情け無い。これも、肌を出したく無い理由の一つだ。
「ルシウスとは会ってないね?」
ブラインドの隙間から、昼でも常に薄暗い表を眺めつつ、ジェームズが気楽そうに言った。体に痕跡が無いのを確認済みなのだろう。
「そんな事を確かめる為に呼び出したのか?」
呆れたように言ってやったら、ジェームズはあっさりと、そうだよと肯定した。ゆっくりと窓から離れたジェームズが、セブルスを笑って見下ろす。
「僕の物に、悪い虫がつかないようにね。たまには手入れしてやらないと」
それで、毎度たっぷりと痕をつけてくれるわけだ。これもまた、薄手の服が着られない理由になる。
暗い部屋で、ジェームズがセブルスを見下ろして笑っている。
「僕の物なんだからね」
何度も、強調する。
「――分かっている」
投遣りに答える。視線を逸らせたセブルスに、ジェームズがゆっくりと近付いてくる。
手を伸ばしながら上半身を屈めて、セブルスの頬にその手を当てる。
そして重なる唇。
気付いているだろうか、ジェームズは。こんな他愛の無いキスにさえ、セブルスの体は固くなってしまう事に。
その理由に。
分かっているとも、ポッター。
私の意思など構いもせずに、お前が私を所有物としている事など。
甘やかせて甘やかせて、また手酷く裏切るに違いない事も。
もうお前なんて信じない。絶対に信じない。
心など、お前に渡さない。
重ねた柔らかい唇の感触に、セブルスは心の中で叫ぶように誓う。
※ ※ ※
何度かそうして呼び出して抱いて、そして安堵して帰る。
セブルスの肌に、誰の痕跡も無い事を確認して情け無いほど安心する。
セブルスとはノクターン横丁を出たところで別れて、いつもジェームズは上機嫌で帰る。上機嫌で――胸の痛みを騙し騙しで。
ダイアゴン横丁はいつでも賑わっている。その間をすり抜けていくのは好きだった。賑やかなのは好きだ。楽しい事が好きだ。
皆が幸せそうに笑っているのが好きだ。
通り過ぎていく、人々。ショーウィンドウに並ぶ、興味をそそる品物の数々。いつもキョロキョロと目を奪われて、飽きる事が無い。
なのに、セブルスとはいつも暗い所ばかりで一緒にいる。
静かな、他に誰もいないところ。
ホグワーツの、二人だけの秘密の部屋。誰もいない廊下でのキス。夜の森。
夏休みの、真昼間のロンドンでさえ、会うのは結局ノクターン横丁だ。
仕方が無い。それを始めたのは自分だ。
欲のままに始めた。それこそが闇だ。セブルスに対する、自分こそが闇だ。明るい所など行けない。
静かな、この明るい世界と遮断されたようなセブルスとの世界。
だって、そう。
闇の中程激しい力で押さえつけないと。
いつか君は、僕から離れてしまうかもしれないだろう?
道の真ん中でジェームズは立ち止まる。たくさんの人達が、構わずにジェームズの左右を過ぎる。流れていくスピードが、ひどく早いような遅いような。
そして一人、取り残されたような。
そんな取り残されたみたいなところで、セブルスを抱き続けてきた。
受け入れない瞳を押さえつけて、無理矢理体で受け入れさせる。
上げる悲鳴も嬌声も全部自分の物だった。孤高のライバルが自分に堕ちる。
他の誰も知らない所ばかり、全部自分が見つけた。
誰も入らなかった孤高の彼に、自分が忍び込んでいく。
そして少しずつ、少しずつ。
光は見え始めていたはずなのに。
結局、そのタイミングを見逃したのは自分だ。
他の誰にも見せないで、暗闇の中で、自分一人が彼を見たい。
彼の目に他の誰も映したくは無い。
こんな闇の中では、闇のような自分では、彼の心さえ望めないのは当然なのに。彼は決して闇を望んではいなかったのに。
そしてすべてを追い詰めて、壊れた。
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