月ノ欠片ヲ手放シ難ク。




 廊下でこのまま出すのは流石に始末に困るので、結局セブルスは自分が達するより先に、ジェームズを口で受け入れなくてはならなかった。そしてその後に、漸くセブルス。冷たい壁に凭れて座りこんで、、冷たい床の上で大きく足を開けて悶えていると、何もかもが冷たかった。目の前の男の体温すら、心の冷たさには敵わなかった。
「ほら、お菓子でも食べてから帰りなよ」
 グレープの香りのきついキャンディーを口の中に放りこまれる。ジェームズも同じものを口に含んだ。
 服装は整えたが、すぐに立ちあがる気にはなれない。
「それじゃ、僕は先に帰るね。セブルス、ルシウスにサービスしてた分は、これからたっぷり僕に返してもらうから。僕が呼んだら、欠席は不可。いいね?」
 拒否なんて聞く気は無いくせに、返事を待つ。
「……分かっている」
 こうなる事は分かってるのに、ルシウスに抱かれに行った確信犯。
 ジェームズが冷ややかな目で、セブルスに聞く。
「君は誰のもの?」
 ジェームズはいつも確認する。セブルスに、言わせる。
「……ポッターのもの」
 投遣りに、もう何度呟いたか分からない言葉。ジェームズが背を向け、去っていく。振り返りもしないだろうその背中を、セブルスも追いかけなかった。

 冷たい。壁も床も空気も全部。
 重たい体を投げ出して、セブルスは高い天井を見上げた。たくさんの窓から、切り取られた暗い空が見える。ひどく自分が小さく思える。

 こうなる事は分かってたのに、ルシウスを拒まなかった。
 何を考えているのだ、自分は。
 なんでも思い通りになると思っているジェームズに、一泡吹かせてやりたいからか。
 それとも――嫉妬するジェームズを見たかったのか。
 彼の自分への執着を確認して、安堵したかったのか。

 彼の執着を利用して、彼が勝手な事を理由にして、抱かれる。
 『言い訳にして抱かれているのか』ルシウスの言葉も蘇る。
 どんな理由をつけてでも、ただ彼に触れられたかったのか。触れたいのか。


 ――ポッターなど、信じない。二度と。
 そう誓ったのは、もう何回になるのだろう。
 そして、そう――心の底から思うのに。



 それだけじゃない心が、いつも泣いてる。



※  ※  ※



 またホグワーツでの生活が始まって、ジェームズは仲間達と騒ぐ。シリウス、リーマス、ピーター達と、共に過ごす楽しさ。授業中でも休み時間でも食事中でも寮の中でも。毎日が賑やかで、明るい。そしてリリーに手を振り、仲間に冷やかされるのを余裕の笑顔で交わしながら、彼女にキスをする。こんなにも胸がいっぱいになる。
 何もかも柔らかく受け止めるような笑顔。彼女に会って、恋の偉大さを知った。彼女に相応しい、最高の男になろう。彼女のおかげで成長し、支え合う。満たされる日々。

 そしてその陰で、映るセブルス。
 陰に隠れて、呼び出しては、痕をつける。
 ルシウスはここにいなくても、他の誰も油断ならない。彼に触れようとする奴は許さない。そんな奴に体を許すセブルスも許さない。



 僕の目から離さない。

 でないとセブルスは、きっと僕の前から消えてしまう。



「覚えておきなよセブルス。僕から逃れようなんて考えない事だね。それくらいなら、僕は君の生活を壊してやるよ?」
「……逃げない。だから……」
「分かってるよ、君が逃げないならこの関係を誰にも言わない、バラさない。君がいつも僕に犯されて喜んでるなんてさ」
「……」
 悔しがる顔が好き。逆らえない顔が好き。
 僕に勝てない君が好き。



 負けず嫌いの君。勝てない間は、僕を忘れる事ができないだろう?



 暗い夜にキスをして、僕のものだと主張する。



 そう、セブルス。大人しくしていて。逃げないで。
 でないと、僕はいつか本当に。

 壊してしまう。君を。
 君がどんなに嫌がったって。

 君は僕のものだと、僕は君を見せつけたくて仕方ないから。
 誰にでも良いから、世界中にでもいいから、見せつけたくて仕方ないから。



 いつまでもそんな事を考えて、いつかおかしくなってしまいそう。



「ジェームズ?」
 日の当る下で、優しくて透明な、愛しい声。振り返ると、光を集めたように輝く彼女が、まっすぐジェームズを見つめてる。
「……リリー」
 気を抜けば、足元からそして頭までドロドロと、真っ黒に体中染まって見える自分。なのにそんな真っ黒も、彼女の前できらきらと昇華してみえる。ジェームズは、穏やかに彼女に笑う。ああ、愛とは素敵だ。こんなにも心穏やかになれるなら、愛に敵うものは無い。ただそこにいるだけで幸せ。君が僕を想う、
君が僕の名前を呼ぶ、それだけで胸は弾む。
「リリー。愛してるよ」
 そんな言葉が、考えるまでも無く零れる。愛しさに、痛くないように抱きしめて、温かさに浸る。心が落ち付く。彼女がいれば、他の何もいらないと思える程。
「本当に愛してる」
「……ジェームズ?」
 彼女が不思議そうに、ジェームズの名を呼ぶ。ジェームズは彼女を抱きしめる。優しく優しく、それでいて。
 抱きしめて側にいないと、留まっていられないように。



 リリーを愛してる。それでも、セブルスと堕ちていく。
 セブルスの事等お構い無しに、引きずり堕としていく。

 堕ち続ける心。こんなにも暗闇だらけだった自分。
 執着して、彼への配慮も何も無しに、暗闇で押さえつける。
 こんな自分に吐き気がする。なんて酷い奴なんだろう。
 苦しい。こんな酷い自分から、逃れられない。

 堪えられなくて、大切な光の存在に、縋る。
 暗闇に堕ち続けたいわけじゃなかった。
 ただ楽しく幸せに、誇らしく生きたかっただけだ。
 生きたいんだ。











 助けて。リリー。







    


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