Cryforthemoon





 スリザリンのクラスメイトと離れ、セブルスは夜、一人で図書室に向かった。宿題はとっくに仕上げていたが、提出まで期間が開いているので、もう少し資料を増やし、より詳しくするつもりだった。
 司書に頭を下げ、迷いもせずに目当ての棚に向かう。切羽詰った宿題が無いからだろう、図書室の人影はごくまばらだ。必要に迫られない限り自分から積極的に学ぼうとしない者をセブルスは軽蔑していたが、そういう生徒が多いおかげで図書室は静かで使いやすくありがたかった。
「……」
 使う資料をどの本にするか、セブルスが何冊も手に持ち、中をパラパラと確認していると、ごく小さな音が耳に入った。気に留めずにおこうと思ったものの、それはセブルスの耳に周波数が合ったかのように、途切れなく流れてくる。話し声らしく、内容までは分からない。が、それはそれでひどく耳障りで気になった。くだらないお喋りでもしたいのなら談話室へ行け、と二言三言文句を言ってやろうかと思い、本を抱えたままその声の主を探す事にする。いくら静かな図書室だとは言え、ごく小さな声が聞こえたのだから、ここからそんなに離れてはいないはず。本棚の通路を二つほど覗いた。

「――」

 その人物が誰であったかという事に嫌悪感を抱く以前に、そこを包んでいる、まるで優しい絵画のような空気に、セブルスは目を奪われたのかもしれない。
 ジェームズ・ポッター。
 穏やかな空気を身に纏って、ゆっくりと女生徒にキスをした。
 守るように軽く肩に置いた手。
 ほんの短い間だけのキスで、ジェームズがゆっくりと離れる。そして、穏やかで幸せそうな笑みを交わしている。
「……人目を憚らずにお熱い事だな、ポッター」
 意地悪く声をかけてやると、ハッとジェームズが鋭く振り返った。同時に片手で女生徒を自分の後ろに隠すようにする。ジェームズはセブルスを瞳に認め、憎憎しげに目を険しくして言った。
「スネイプ。君の趣味は、何かにつけて人の失敗を見つける事だけじゃなく、覗き見もあるのかい?」
「こんな誰でも通るような場所で覗きも何もあったものじゃない。そちらの方が露出狂なんじゃないのか?」
「先に行って。」
 ジェームズは女生徒に耳打ちする。彼女は躊躇ったようだが、ジェームズに押されて、顔を伏せながらセブルスの横を足早に過ぎ去った。彼女の名前は確かリリーと言った。瞳が印象的な少女で、よくジェームズ達と一緒にいる。もっともセブルスは彼女になんの興味も無い。その後姿を一瞥し、小馬鹿にしたような視線をジェームズに向けた。
「クィディッチのヒーローには図書室で勉強など必要無いのかな?校内で女を漁っているとは随分と余裕な事で羨ましい限りだ。私は今夜の約束の邪魔をしたかな?」
「人聞きの悪いことを言うな。彼女を馬鹿にするような言動は許さないよ、スネイプ」
「別に馬鹿にしたつもりは無いが。良いじゃないか、好きなようにやりたまえポッター。僕は勉強もできてクィディッチもできておまけに女に不自由もして無いんです、と校内中に自慢してまわれば良い。神聖な図書室で君と親密な付き合いをしたがる物好きな女が他にも出てくるだろうさ」
 鼻で笑って立ち去ろうとすると、ジェームズが素早くセブルスに近付きその腕を捕らえた。
「言い触らす気か」
 掴まれた腕の痛みに顔をしかめながらも、焦り気味のジェームズの顔が楽しくて、セブルスは、その気は無かったが、続けて煽った。
「別に悪い事をしていたわけではあるまい?」
「してないさ。だけど君がスリザリンでそんな事を言い触らせば、下手な中傷が彼女を傷つける。それだけは許さない」
「お前が守ってやれば良いじゃないか。キスの一つや二つ、悪い事じゃないんだろう?それとも実はやはりただの遊びで、いちいち騒ぎたてられたら迷惑なのか?」
「遊びなんかじゃ無い!」
 声を激しく、表情を険しくするジェームズとは対照的に、セブルスはますます冷静に、そして面白がるように目を細める。
「騒ぐと周りに聞こえるぞ、ポッター。じゃあ良いじゃないか、遊びじゃないんならキスでもなんでもすれば良い。悪い事では私も無いと思うぞ、キスでもベッドインでも――」
 口が滑り過ぎた。と気が付いたのは、その掴まれていた腕をグイと力任せに引かれ、左右を本棚に囲まれた通路の端に投げ押された時だった。抱えていた本は抱えたまま、転ばないよう慌ててバランスを取ろうとして足がもつれ、本棚にしたたか肩を打ちつけた。
「っつ……」
 顔を顰める間も無く、今度はジェームズに胸倉を掴まれ、本棚に体を押し付けられる。
「いい加減にしろよスネイプ。本当に容赦しないぞ」
 間近で低く発せられた言葉はひどく重たさを含んでいる。それはセブルスにとって、怯えでは無く反発心を抱かせた。
「……容赦しなかったらどうなるんだ?その手で殴りつけるか?できるのならどうぞ、やれば良い」
 挑発すると、目をさらに険しくしたジェームズの手がますますセブルスを締め上げた。苦しくて、セブルスは顔を顰める。
 そうして数秒、二人は睨み合う。

「……」

 不意に、セブルスを押えつけているジェームズの手が緩んだ。
「考え方を改めれば良かった」
 そう言って、笑った。
「?何の――」
 セブルスが、締め上げられていた為掠れた声で言葉を発しようとすると、封じられた。
「!!」

 キスで。





    




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