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それは全くの偶然だった。
「…るよ、ほどほどにしておく」
聞こえてきたのはジェームズの声だった。セブルスは思わず立ち止まって耳を澄ませてしまう。人気の無い階段のすぐ下から聞こえてくる。相手はリーマス・ルーピンの声だった。
「そういう問題では無いだろう、ジェームズ。」
「スネイプだって馬鹿じゃない、上手くやってるさ」
ジェームズの口から自分の名前が出て、セブルスは心臓がどきりとする。なんの話をしているのだろう。どうせ悪口か。と拗ねたように、さらに耳を澄ますと。次いで出た言葉は、セブルスの全身を凍りつかせるに充分だった。
「僕らが肉体関係があるだなんて回りにばれたら、痛いのはスネイプの方だからね。」
それは杖など無くても、セブルスを金縛りにしてしまう効果があった。どうしてその話を、ルーピンとしているのだ。誰にも言わないと約束をしたのはジェームズの方だったじゃないか。
「それでも、いつか勘付いてしまうかもしれない。以前と比べて、セブルスはかなり君に対して穏やかになったよ。君だって」
「よしてくれリーマス。関係があると言っても、そんな馴れ合った関係じゃないさ、僕達は」
ジェームズが投槍に言った。セブルスの体温が、少しずつ冷えていく。
「勿論遊びだとしても、リリーが何も知らないとしても、君がリリーを傷つける行為をしている事には変わり無いんだよ」
「リリーは傷つけない。」
そこでだけ、ジェームズはきっぱりと、真剣に言った。
「リリーを傷つけたりなんかしない。彼女は僕の一番大切な人だ。…リーマス、君は……」
「言わない、僕は言わないよ、決して。そう、君がちゃんと考えているんだったら僕は良いんだ、だけど」
「心配かけてすまないリーマス。」
声が遠ざかって行った。それからもしばらくセブルスは動けなかった。自分の体が小さくなっていくようだ。それとは反比例して、心の声がどんどん大きくセブルスの中で響く。どうして、どうしてそんな話を。誰にも、彼らにもばらされたく無いから、始まった関係のはずだ。なのにどうしてルーピンが知っているのだ。それとも始めから嘘だったのか?秘密でもなんでも無く、始めからセブルスを良いように扱って、あざ笑うのが目的だったのか?もうブラックも、ペティグリューも、皆知っていて、ジェームズを嫌っているはずの自分が彼に溺れて行く様を、影で笑っているのか。
セブルスに見せるようになった柔らかい笑みも優しさも馴れ合いも全部。
全部、セブルスの警戒を解く計算だったのか。
全部嘘だったのか。
膝が震えて、壁に手をついた。明るさは全く変わらないはずなのに、急に停電にでもなったかのように目の前を暗く感じた。力が抜けて、その場に座り込んでしまった。杖が音を立てて階段を転がった。そんな事にも気が付かなかった。
ああ、なんて自分は愚かだったのだろう。始めから騙されていたんだ。ジェームズがどんなに嫌な奴か、そうだ最初から知っていたじゃないか。なのに、この自分が、グリフィンドールの人間などに心を許して。勘違いして、自分に向けられる優しさを勘違いして。ジェームズにとって大切な人間になったかのような錯覚を起こした。ただあざ笑われていただけなのに。自分一人が、何も知らないで、ジェームズに溺れていた。
笑い出したくなる。
セブルスは話を全部聞いてはいなかった。だから、ジェームズが決して自分から誰にもセブルスとの事を喋ってはいない事を知らないし、それでも薄々気付いたリーマスがジェームズを問い詰めただけだと言う事も知らなかった。ジェームズは約束を破ったりはしていなかった。勿論始めから騙してもいなかった。しかし彼がリリーを何より大切に想っている事は確かだったし、セブルスもそれを聞いてしまった。今更、どうして二人が誰にも何にも言えない関係を続けていたのか――ジェームズのセブルスに対する気持ちがなんなのか。
もう本人にも誰にも推し量る余裕は無い。
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