Cryforthemoon


12




 ジェームズが舌打ちして、動きを止めたセブルスを、勢いつけて連れ戻る。つっかえながら歩かされ、セブルスは真っ白になった頭に残る一つの映像だけを眺めた。
 人狼。あの姿は。一瞬だけ見えた、あれは間違い無く。あれが、リーマス・ルーピンの秘密。
 そして、考えたわけでもないのに、シリウスの声が頭に響いた。後をつけるよう勧めた、シリウス・ブラックの声が。

「では……ブラックの奴が…私を…人狼に食わせようと……」

 ホグワーツへの道を大半戻ったところで、目を見開き震える声でそう呟いたセブルスに、漸くジェームズが立ち止まって、言った。
「違うスネイプ、シリウスはそこまで考えていたわけじゃない」
 必死な顔でセブルスの肩を掴むジェームズに、即首を振って否定する。
「何が違う、満月の夜の人狼がどれだけ危険か、誰でも知っている。奴らの大好物が人間だと……」
 そう言って、背筋をゾクリと寒いものが走り抜けた。人間が大好物。その人狼の目の前に人間が現れれば、その人間はたちまち餌食になってしまうだろう。
 人狼になったリーマスの前に、セブルスが現れれば。
「シリウスは少し君を驚かせようとしただけだ、スネイプ。あれは……」
 それを聞いてセブルスは恐怖で浮かんだ笑みを見せながら、ジェームズの手を払い除けた。
「驚かすだけだと?驚かしついでに、私が死んでも構わない、と?」
「そんなわけ無いだろう、そんな事をすれば殺人だ」
「ああそうだな、殺人だ。例え死ななかったとしても、噛みつかれただけで、私には人狼としての人生が始まるわけだ。忌まわしき人生が。」
 言葉にするとそれが現実味を帯びた。社会から締め出される恐怖。それを思い、さらにセブルスは、絶望的な心から不意に新しく絶望のピースを拾い出す。

 ああ、そうか。

 震えながら目を見開いて、ジェームズを見た。
「ブラックに聞いてここに来たわけで無く、最初からお前もグルだったのか……これも私をあざ笑う計画の一端か」
 ジェームズから視線を離して、壁に力無く凭れたセブルスに、ジェームズが眉を顰めた。
「何の話だ?」
「だからお前は今更私を止めに来たのか?冷静に考えれば、こんな事はすぐにばれて、自分達は揃ってアズカバンに送られる。だから、今更計画を取りやめる事にしたのか」
「スネイプ、違う、捕まるとかそういう事じゃなく、君を殺させない為に来たんだ」
「自分たちが犯罪者にならない為にな!そうでなければ、あの人狼が人を食わない為にだろう!!お前は自分の友人を救いたかっただけだ!」
 叫ぶように言った。ジェームズも叫んだ。
「君を助ける為に来たんだ!」
「都合の良い事を言うな!それともそう言えば私が喜んで、お礼を言うとでも思ったのか!?誰が言うものか、人狼にけしかけられかけて、止めてもらったからとて誰が礼など言える?」
「それは、本当に悪ふざけが過ぎた。シリウスも反省している」
「見え透いた嘘をつくな、あの男が反省などするものか」
「セブルス」
「気安く私の名を呼ぶな!!」
 悲鳴のように叫ぶと、ジェームズが悲しげな目を向けた。セブルスは視線を逸らせ、壁に半身を預けながら、よろよろと一人でホグワーツの方へと歩き出した。
「お前達はもう御終いだ。私が戻って、ことの次第を校長に打ち明ける。これでお前達は退学処分だ」
 呟くと、膝が崩れ落ちた。そのとき初めて、全身が震えている事に気が付いた。両腕で体を押さえても止まらなかった。
「スネイプ…!」
 ジェームズが慌ててセブルスを抱き起こそうとする。しかしセブルスは震える体で、必死にもがいてその腕から逃れようとした。
「離せ!!」
「しっかりしろスネイプ、君は殺されかけたというショックで恐慌状態に陥っているんだ。何も考えずに休んだ方が良い」
「殺人者の片棒が何を言う!!」
「言い訳なら後でする、とにかく君は……」
「離せポッター!!!全員、お前達全員退学にさせてやる!!私を馬鹿にした事を後悔させてやる!!お前もブラックもルーピンもペティグリューも、まとめて退学にしてやる!!」
 埒があかないと思ったのか、ジェームズは暴れるセブルスを必死で押さえながら、舌打ちした。そして、両腕を掴んでその場に引き倒した。黙らせるように強引に唇を重ねる。
「離ッ……!!どこまで私を馬鹿に……!!」
 ジェームズの体の下で暴れ叫ぶが、ジェームズは片手でセブルスの両腕を封じ、片手をセブルスの服の下に潜り込ませた。
「やめろっ……」
 もがいても抜け出せない。こんな時なのに、セブルスの体はジェームズに反応する。
「は……なせ……」
 ジェームズは低く、耳元で囁く。
「疲れて、恐怖も何も考えられないくらい疲れさせて、眠らせてやるよ、セブルス。それから、ゆっくり落ちついてから僕の話を聞くんだ」
「今更お前の話など……!」
 逆らいたいのに、体はジェームズを求めてしまう。心も、本当はまだ求めてしまう。なのにもう信じられない。
 求めてるのに。
 涙が滲んだ。
「……何故止めたんだ……」
 愛撫に息を弾ませながら、セブルスは独り言のように呟いた。
「こんなに惨めな思いが続くのならば、いっそあのまま人狼に食われてしまえば良かった、そうすればお前達を犯罪者にして、一生を失わせてやれたのに……」
 涙を流して空を見つめるセブルスの瞳を、ジェームズは強引に自分と見つめ合わせた。
「――どうせ食われるなら、僕にしとけよ、セブルス」
 そう言って、深く深くキスをする。
「僕に全部食われちまえよ」
 熱いジェームズの体を感じながら、それに馴染む体を感じながら、荒涼とした大地に一人取り残されたような思いで、セブルスは言った。

「お前に全部食われるくらいなら、人狼になって生きて行く方がまだマシだ……」 




    


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