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呼び出された部屋の扉の前で、セブルスは手の平に冷たい汗を感じながら、杖を両手に握り締めた。扉を開ける勇気が出ない。中に入ってしまえば――もう取り返しのつかない事が待っているかもしれない――セブルスはキッと唇を噛んだ。
馬鹿馬鹿しい、ジェームズ・ポッターが何だと言うのだ。どれだけ優秀だとしても、自分と同じ年の、自分と同じ魔法学校の生徒に過ぎない。
それでも喉が乾いて緊張している。なんでもない、と再度言い聞かせて、セブルスは思いきって扉を開けた。ここで引き返すのも、ジェームズに負けるみたいで嫌だった。
部屋の電気は消えていた。暗くて中の様子は良く分からないが、人の気配は無い。胸の前で杖を握り締め、大きく息を吸ってから、一歩中へ進んだ。
途端に背後で勢い良くドアが閉まる。大きな音に驚いて振り返る。同時に、中に突き飛ばされた。セブルスは後ろに倒れこみかけながら、なんとか態勢を立てなおそうとする。反射的に杖を構える。
「エクスペリアームズ!!」
それは、セブルスが唱えるより早く、セブルスの手から杖を奪い去った。遠く離れた位置にカランと音を立てて杖が転がる。呆然とするセブルスの前で――突然杖を持ったジェームズが姿を現した。本当に、不意に闇の中に。
「……透明マント?」
ジェームズの足元にするりと落ちた銀色の布を見て、セブルスが遠く呟いた。
「そんな物を…持っているのか……」
ジェームズは最初から部屋にいたのだ。透明マントのおかげで気が付かなかっただけで。ジェームズがあらかじめそこにいると分かっていれば――セブルスはそうやすやすと杖を取られはしなかったのに。
「案外臆病な君が、咄嗟に何をしでかすか分からないからね。危ないから杖は退場」
ジェームズのおどけた口調に、セブルスがカチンときた。
「誰が臆病だと?」
「のこのこ呼ばれて出てきた君のことさ、セブルス・スネイプ。そんなにあれしきの事が怖かった?」
図書室でのキスの感触を思い出し、カァ、と頬が熱くなる。しかしここで引くわけにはいかないと気を取りなおして、なるべく余裕を見せるように、背筋を伸ばして言った。
「こそこそ隠れておいてまで、私から杖を取り上げないと不安か、ポッター。仮にも学内一、二を争う優等生が、随分せこい事だ」
「強がるのはよしなよスネイプ。君から杖を取り上げなくたって結果は同じさ。」
セブルスの威勢を、ジェームズは虚勢と判断して、そう鼻で笑った。
「むしろ堂々と勝負をして、それでも負けた君のプライドが壊れるのを守ってやったのに。」
その言葉は確実にセブルスのプライドを傷つけた。
「っ……!調子に乗るな、ポッター!」
「じゃあやってみるかい?」
ジェームズがそう言って、転がったセブルスの杖を拾って投げ寄越した。
「『決闘』してみるかい?一、二、三で術を掛け合うんだ。やり方は知ってるだろ?」
まるでゲーム感覚で提案したジェームズを睨みつけ、セブルスは肯定の返事にこう言った。
「私を甘く見るなよ……」
「見てないよ。それじゃ」
まっすぐ向き合い、ジェームズは馬鹿丁寧に頭を下げてお辞儀をする。セブルスは怒りに燃えた目で頭は下げず、ただジェームズを睨みつけた。
ゆっくりとジェームズが杖を突き出す。セブルスもまっすぐ杖を突き出した。ジェームズが目を細めて、にやりと口の端を上げた。
「さっきのルールじゃ、合図を唱えた方が、その後呪文を言い出しにくくて不利だから、少し方法を変えよう。これを落とす。」
そう言ってポケットからコインを取り出した。
「これが下についたらそれが合図だ。いいかい?」
「なんでもいいから、さっさと始めろ」
「結構。それじゃ」
ジェームズはパチンとコインを弾いて飛ばした。
時間の流れがスローに思えた。
「――」
コインが床に落ちる。
一歩も引かないつもりだった。
なのに。
セブルスの杖はセブルスの手を離れ、セブルスの体は部屋の端まで吹っ飛ばされた。背中に激痛が走る。ずるずると壁に沿って崩れ落ちる。冷たい床に座りこんだ。
「だから言っただろ?」
くらくらとする意識の向こうで、小さくジェームズの声が笑った。
「スネイプ、僕は君を甘く見てなんか無いよ。でも、君より僕の方が早いんだ。動体視力にも自信があるけど、『コインが落ちた』と判断してから次の行動にうつる速度が、僕の方が速いんだよ。クイディッチの練習のおかげかな、考えなくても体が動くようになってるしね。」
ゆっくりとジェームズがセブルスへ近寄ってくる。セブルスは、うぅと唸って、うっすらと目を開く。すぐ側に、当たり前のように勝利者の顔でジェームズが屈んだ。
「大丈夫かい、スネイプ?」
セブルスはそれでもジェームズを睨みつけた。悔しくて仕方なかったが、それだけに得意げな顔のジェームズが憎くて仕方なかった。背中の痛みと悔しさで涙が滲み、睨みつけずにはいられないくらい。
そんなセブルスを、むしろ嬉しげにジェームズは笑った。そしてセブルスの前髪を掴み強引に真上近くまで顔を上げさせて、唇を重ねた。セブルスが身悶える。舌が絡む。唇を甘く噛まれ、痺れるような感覚が走り抜ける。僅かに瞳に恐怖の色を浮かべたセブルスに、ジェームズは言った。
「セブルス・スネイプ、君の負けさ。」
そのまま押し倒された。
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