6
ジェームズは軽くリリーにキスをする。そしてリリーは軽く手を振って、向こう側へと歩いて行った。それを見送ってから、ジェームズがくるりと向きを変える。そしてセブルスに気付き、少し目を見開いた。セブルスは反射的にビクリとする。ジェームズは皮肉気な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近付いてきた。視線を絡め取られて、セブルスは動けない。金縛りの術がかけられたわけでもないだろうに、その場から動けず、ジェームズから視線を逸らす事もできなかった。心なしか呼吸が早くなる。握り締めた拳に、冷たい汗を感じる。
ジェームズから声をかけてきた。
「また覗き見かい、スネイプ。君はそんなに僕らのキスシーンが羨ましいのかな。」
「……ざけるな」
掠れた声で、なんとか返す。誰がそんな物を見たがるものか。視線を逸らす事ができないなら、せめてせいいっぱい睨みつける。セブルスのすぐ目の前まで辿り着いたジェームズは軽く笑って、手を伸ばした。指が、セブルスの黒い髪を弄ぶように絡む。
触れられたそこから熱が上がるような気がする。
ジェームズの指を感じる。
「それとも嫉妬かい?そんなに怖い顔をして」
「っ……」
頭に血が上り、言い返そうとするが言葉が出てこない。体も動かない。ジェームズの顔がセブルスに近付く。なおも視線は外せないまま、心が吸い取られていくようだ。心臓の鼓動が早くなる。息が触れるほどの距離に近付いて、ジェームズが揶揄たっぷりに囁いた。
「スネイプ、君もあんな風に優しくしてもらいたかった?」
言葉に赤くなるより先に、ジェームズの唇がセブルスに重なった。軽く、柔らかい羽のように優しく。唇を離して、柔らかく微笑む。先程の、リリーに見せていたような温かい笑みを間近で、セブルスを見つめる。心臓の音が高くなる。
「――」
赤い顔のセブルスを眺めて、フ、と目を細めてジェームズが笑う。
「嬉しかったかい?」
「なっ……」
さらにカァァと赤くなったセブルスを。腹を抱える程また笑い、ジェームズはセブルスから離れた。馬鹿にされた悔しさ、恥ずかしさがセブルスの心で荒れる。キス一つにも動揺している。どうして、この自分が、この自分がどうしてこんなにいいように――
もう嫌だ。こんなにもこの男に躍らされるなら、いっそ――
「いっそ君の彼女に」
掠れるように、搾り出した言葉。
「いっそ君の彼女にばらしてやったらどうなるかな、ポッター。私達の関係を。」
今度は掠れず、セブルスが自棄気味にそう呟いたら、ジェームズの顔色が少し変わった。それを見て少し気分が良くなった。本当にそうしてやりたい、と思った。それはなかなか魅惑的な考えだった。
この男を自分のところまで引き下げる事ができるなら。
もう何もかもどうでもいい。
リリーだけでなく、回りの全てに全部ばれて、今までの自分の全てが崩れてもいい。
この男を道連れに堕ちる事ができるなら。
「…本気で言ってるのかい、スネイプ」
「さあね。」
「君にそんな事ができるのか?」
セブルスは少し笑った。
「今ならできる気がするな」
道連れに、対等な立場になれるなら。この男に縛られた鎖を解いて、自由になれるなら。その為なら、もう今までの自分などどうでも良いと思った。恐れていたのはいつも自分ばかり。だけど、関係がばれて破滅するのは自分だけでは無い。ならば。
少し沈黙するジェームズを見て、セブルスは気分が良かった。関係を強要されてから、初めてセブルスは優位に立てた気がする。
が、その優位も一瞬で終った。
ジェームズが不意に、唇の端を上げて不敵に笑った。
「やればいい。」
目を細めて、冷ややかな声でセブルスを縛った。
「仮にそれで僕がリリーを失ったとしても、僕はそれで全てを失ったと思う程弱く無い。例え学校中に知れたって、僕は僕のまま変わらない自信があるね。君と違って。そしてきっと、僕は友を失う事も無いよ。君達のいるスリザリンのような、うわべだけの付き合いとは違うんだ。」
強い瞳が、挑戦的にセブルスを睨み付けた。
「そして君はこう言われるんだ。眼の仇にしているはずの、グリフィンドールのジェームズ・ポッターに、言われるまま抱かれ、喘ぎ続けたスリザリンの優等生セブルス・スネイプ君。卒業しても、きっとその噂はついて回るだろうね。僕には僕の道があって、きっとこのまま歩いていける。周りなど気にしない。友もいる。君には何が残るかな、スネイプ?」
胸座を掴まれ、近距離で静かに、しかし威圧的なジェームズの言葉に、セブルスの頭が冷える。自棄気味の心が、現実に帰って来る。その予測される現実の未来に、血の気が引く。
それでも、なおもジェームズは揺るぎ無く。
「何も残らなかったら、可哀想なセブルス君を僕が一生養ってやってもいいよ。責任を取ってやろうか、一生飼い殺してやろうか?僕の手の中で」
勝ち誇ったように笑った。
ああ、自分はまったくこの男に敵わない。
セブルスには、この男を揺るがす事等できないのだ。何を言っても、何をしても、決して。唯一の弱点と思える彼女の名を出してさえ、自分の優位を疑わない。
セブルスは、ジェームズに敵わない。
「次の休みの夜、いつもの時間に。」
その声が死刑宣告に思える。
← ↓ →
|