Cryforthemoon





「し!」
 突然ジェームズが耳元で囁き、放り投げていた透明マントを引っつかんだ。いつものように肌を重ねていた夜だった。
「ポッター……?」
「静かに。誰か来る。」
 そう言って鋭い目でドアの向こうに視線を走らせ、ジェームズは体を起こすと、壁際までセブルスを抱えるようにして移動した。そして座らせたセブルスを正面から抱きしめるようにして、すっぽりと透明マントを被り、動きを止めた。コツコツ、という足音が近付いてくるのがセブルスにも分かった。行為の中断で、熱っぽい頭がぼんやりと回りの出来事を遠いものに感じさせる。ジェームズはセブルスをその腕の中に隠すよう抱きしめたまま、呼吸も静かに、その足音に注目していた。ジェームズの逞しい肩が目の前にあって、セブルスは夢現の気分でその肩に自分の額を凭れさせ、目を閉じた。
 ――なんだ、日頃「僕はばれても構わないよ」等と言うくせに、こいつも、ばれないように気を使ってるんじゃないか。
 少し可笑しくて、こっそりと笑った。不思議と、足音の主は気にならなかった。ばれてもいい、と思ったわけではなく、ジェームズがいるならばれるはずが無い、と無意識で思っていた。その温かい腕の中で、不思議と安心感があった。それがどんなものなのか、セブルスは知らない。ただ、愛し合った二人が体を求め合うという行為。セブルスはジェームズと愛し合っている等と思った事は無いし思いたくも無いが、自分を抱きしめているこの体の温もりに包まれていると、そんな恋人達の気持ちもなんとなく分かる気がする。
 ぼんやりとそんな事を考えながら、そのまま時が過ぎるのを待った。やがてその足音は、部屋に潜む二人に気付いた様子も無く、遠ざかって消えた。ジェームズが息をつくのが分かる。セブルスはそのままジェームズが身動きするのを待ったが、何故かジェームズはセブルスを抱きしめた姿勢のまま動かない。
「ポッター……?」
 顔を傾けてすぐ側のジェームズに呼びかけると、ジェームズはゆっくりとセブルスを抱きしめていた腕を解いた。そして、セブルスを――何か、物言いたげに眺めた。しかしセブルスにはその意味が分からない。
「……?」
 疑問をそのまま顔に乗せると、ジェームズは視線を下げ、なんでもない、とセブルスを横に倒し、愛撫を再開した。セブルスもすぐに体がジェームズを求め、そのジェームズの表情の事などすぐに忘れてしまった。





 もう自分の全てがジェームズに支配されている。そう思うことすら面倒になる程、セブルスはジェームズに心を奪われていた。体も心も知識欲も、全て満たして余りある存在感だった。側にいなければ物足りなくて仕方が無い。ジェームズを求めて仕方が無かった。
 だから、いつもその側にいる彼の友人らは特に嫉妬の対象となった。リリーや、ブラック。ルーピン。ペティグリュー。セブルスには、彼らが知らないジェームズを知っている、という自負があるが、それだけでは足りなかった。彼らもまた、ジェームズの、セブルスには決して見せない面を知っているから。

 図書室で、仲良く頭を寄せ合って宿題をしている四人組を見かけ、セブルスは離れた位置から、知らずの内に激しい視線でそれを睨みつけていた。ジェームズがそれに気付き、追って、その横に座っているリーマスが気付く。当たり前のように一緒にいる彼らにひどく悔しくなり、それを知ってか知らずか、ジェームズが揶揄を含んだような瞳をセブルスに向けた。途端に置いてきぼりを食らったような寂しさと、心の内を見透かされたような悔しさがセブルスの胸に渦巻いて、走り出すように踵を返してその場から離れた。図書室の本棚の間を擦り抜けて行くと、すぐにジェームズが追いかけてくる。
「セブルス」
 腕を掴まれて振り返ると、本棚に囲まれた狭い通路の奥で、すぐに唇が押し付けられた。セブルスもジェームズの腕を掴み、強くそれに応えた。
「ん……ふぅ……」
 音がしそうなキスを何度もし、ジェームズがやがて苦笑しながら離れた。トロンとした目のセブルスは物足りないと言った風に、半開きの口をもう一度ジェームズに重ねようとする。
「こんな所で感じを出したら、あとが大変だよ、セブルス」
 そう小声で言って、ジェームズは自分の指をセブルスの口に含ませた。セブルスは示されるがまま、その指に舌を這わせる。
「今日、いつもの時間に、いつもの場所で」
 含まされる指が一本から二本に増え、喘ぎながら、途切れ途切れにセブルスが、それでもついくせで逆らうように答えた。
「ぁふ…今日は、レポートが……」
「この続きをしよう」
 しかしセブルスの言葉には耳も貸さず、ジェームズは指を引き抜いてその場から素早く立ち去った。たったあれだけの事で痺れるような余韻に漂いながら、セブルスはいかにして早くレポートを終らせるか、それを考えていた。






    


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