ジェースネ新婚物語


番外


 朝は大概ジェームズの方が早く起きている。
 仕事の都合という事もあるのだが、もともと朝には強い方だし、そしてどちらかというとスネイプの方が朝には弱い。いやスネイプの場合は朝に限らず昼間のうたた寝だろうと寝起きが良くない。大体研究を始めると平気で朝まで寝ないしというか徹夜も続く。それは朝起きろと言っても無理な話だろうし、そもそも夜きちんとベッドに入ったところで、ジェームズの相手を務めていれば疲れもたまるだろうと思う。
 ともかく朝起きたジェームズが何をしているかというと、まず隣に寝ているスネイプの寝顔を見つめている。一緒に暮らし始めたばかりの時などいつまでも見つめていて、スネイプが起きた途端殴られた事があった。勿論それはスネイプの照れ隠しも存分に含まれていたわけだが、単純に、起き抜けに幸せそうなジェームズの顔を見て腹が立っただけかもしれない。真偽の程は知れない。それはさておき、流石に一緒に暮らしてから月日が流れ出すと、お互いの生活ももう少し冷静なものになってきた。
「セブルス、もうすぐ朝御飯できるよー。起きないとチュウしちゃうよー」
 何が冷静だか分からないセリフだが、部屋の入り口から冷静に呼びかけているだけである。勿論最初の頃はまだ眠りこんでいるスネイプの耳元で囁いてついでに体を触ったりもしていた。さらにそのままいただいてしまった事も――まあそれはともかく。
「……」
 スネイプは、寝起きは悪いが、目覚めないわけではない。眠りの浅いスネイプはちゃんとジェームズの声でぼんやりと嫌そうに上半身を起こし、ボーッと眠りの余韻に体を揺らしている。
「今紅茶を出してるところだからねー、階段から落ちないように気をつけて」
 そう言って扉を開けたまま部屋を出ていくジェームズに、誰が落ちるかと心の中で条件反射的な言葉を思い浮かべてスネイプは起きる。ふらふらになりながら顔を洗って、パジャマ姿のまま1階に下りる。以前ならありえなかったラフさだが、もうジェームズ相手にどうでもいいと思っている。
「おはよう、セブルス」
 見事なタイミングで、朝食をテーブルに並び終えたジェームズが爽やかに笑った。
 朝食は大概、先に起きているジェームズの担当である。元々スネイプはあまり寝起きに食事をしたりはしなかったのだが、最近はジェームズのペースに慣れてきつつある。椅子に座って、ぼんやり紅茶を飲んで漸く目が覚めてきた。
「今日は早く帰ってくるからねー。セブルスは今日は家にいるの?」
「……いる。今日中に、昨日浸けておいた薬草を全部庭で乾かす……」
「良い天気だしね。待つ気があるなら、セブルス忙しいなら、僕が晩御飯作るけど?」
「……いい、それくらいの時間はある」
 そんなさり気無く心温まる会話を交わしつつ、朝食を終わらせると手早くジェームズが後片付けを済ませ、スネイプはその間に漸く身支度を整える。
「行ってくるねー、セブルス」
 わざわざ見送ったりする気の無いスネイプの研究室に入りこんだジェームズは、スネイプの腰を引寄せて軽いキスをして、ご機嫌に出勤した。最初はその度真っ赤になってジェームズを殴りつけていたスネイプも、最近すっかり慣れ――というか諦めて、はいはいさっさと行ってこい、とされるがままで研究に戻る。
 こうしてジェームズが出勤すると、スネイプは一人誰にも邪魔されずに、一日研究に没頭するのだった。



 そんなスネイプも、研究の合間に暇な時間ができたりする。
 仕方がないのでそんな時は家事をやったりしようかなんて思ったりする。マグルの世界で暮らし始めてから魔法が使えず不便になったのだが、それでもジェームズにいろいろ教えこまれて、多少の事はできるようになった。
 洗濯機に服を放りこみ、たまにはリビングの掃除でもしようかと思う。大概は休みの日に、楽しそうにジェームズがしているのをちょっと手伝ったりするだけなのだが、ジェームズにできる事ならば自分にだってできる、とスネイプは妙に張り合ってしまっていたりする。
 ……そんなわけだが、どこから手をつけようかまず考える。わざわざ今から掃除をしなくとも、充分綺麗に見える。でも見えないところで埃はたまっている、とジェームズは言うわけだし。
 とりあえず、雑巾を持ってきて、棚を拭こうかと思ったりする。
 棚に置いてあるものが邪魔だ。横着をする時は棚の物などそのままで拭くのだが、今日は時間もある事だし、とにかく全部下ろす。
 それで、拭いたは良いが――今度は、どれをどこに直すべきだったか、忘れてしまった。どこでも良いような気はするが、なんとなく元の位置に戻さないと気分が悪い。暫く考えて、とにかく並べてみるが、どうしてもすっきりしない。なんだか違う気がする。何度か並び替えてみて、漸く納得のいくレイアウトに戻る。その途端なんだか妙に気分がすっきり満足して、そこでスネイプ的お掃除タイムは終了してしまった。棚を一つ拭いただけであるが。
 さあ次の研究の準備にでも取りかかろう、とスネイプは上機嫌で研究室に戻った。洗濯機に放りこまれたまま忘れ去られた服がジェームズによって発見されるのは、翌日の朝になるだろう。



 ジェームズが帰ってくるまで上機嫌で研究室に篭っていたスネイプはすっかり夕食を作るのを忘れていたのだが、当然そんな事でジェームズはスネイプを責めたりしない。すっかり忘れていた自分に落ちこみながらも「今から作る」と言って聞かないスネイプをジェームズは手伝い、少し遅い夕食を楽しんだりする。機嫌の良い時は案外スネイプも話を弾ませたりする。勿論話題を選びはするが、ジェームズは仕事の話を面白おかしく聞かせたりするし、スネイプは研究の話を始めると止まらない。時にはワインの批評やマグル界で流行っている本の話をしたりもする。非常に穏やかな夜だ。そして食後は各々好きな事で時間を潰す。研究に戻ったり、雑誌を読んだり。しっかりお茶の時間を設けていて、非常にのんびりと夜を過ごした後は、2階にある寝室に向かうのである。



「電気を消して良いか?」
 後から寝室に入ったスネイプが、部屋の入り口でジェームズに確認する。寝っ転がって本を読んでいたジェームズはちょっと待って、と本を置いて眼鏡を外した。
「いいよー。おやすみセブルス」
「ん」
 適当な返事で、パチリとスネイプは寝室の電気を消した。暗闇の中でも距離を見誤る事無くベッドに辿り着き、もぞもぞとジェームズの横に滑りこむ。
 スネイプはそこで目を閉じるが、すぐに横からジェームズの手が伸びてくる。それでもその手はしつこいものではなく、セブルスの指に指を絡めて、体を少し起こして、頬にキスをしてくるに留まった。
「今日は掃除、ありがとうね、セブルス」
 棚の拭き掃除に気付いていたらしい。スネイプは目を開け、暗闇の中で急に不貞腐れたような表情を作った。
「別に、礼を言われるような事をしたわけではない」
「ありがと、愛してる」
 暗闇でジェームズは、にこりとスネイプに笑顔を向けた。口を尖らせたスネイプは、実は赤い顔で、ジェームズを睨みつけた。
「……今日は、せんぞ」
「判ってる。僕も明日は仕事だしね」
 以前ならばダブルベッドに入ることも躊躇っていたスネイプと、とにかく毎日セブルスを抱いていたくて仕方なかったジェームズ。
「おやすみ、セブルス」
「……ん、」
 ベッドの中、ジェームズに抱き寄せられるまま、スネイプは目を閉じた。
 お互いの温もりを感じたまま、二人は夢の世界へ身を委ねていく。



 そんな、幸せな生活中です。








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