ラブマフラー
ジェームズの帰りが遅い事に、セブルスは時計を見て漸く気が付いた。今まで研究室(自室)にいて、全く気付かなかった。そう言えば外も真っ暗になっている。一日中家の中にいる事の多いセブルスには、時間の流れとは、あまり実感の無い事であったのだが。
――今日はバスで出勤したのだったか。
車の調子がいまいち良くないらしく、ジェームズはこの2、3日、バス通勤をしている。マグルの世界で暮らす以上はなるべく魔法を使わない事をルールとしている為、いろいろ魔法界に比べて面倒だ。
「……」
セブルスは、ぶる、と身体を震わせた。随分家の中も冷えている。茶でも淹れるかと湯を沸かすが、ジェームズはなかなか帰って来ない。バスが遅れているのだろうか。
外は随分寒そうだ。ジェームズは、厚着をしていただろうか?朝は適当に見送ったので、覚えていない。
「……」
不機嫌そうに目を細め、セブルスはガスを止めた。タンスの中から上着を引っ張りだし、さらに奥に手を伸ばす。
白い息を吐きながらバスから降りたジェームズが、バス停側に突っ立っている黒い影に「あれ?」と目を丸くして声を上げた。
「セブルス!どうしたの」
バスから降りるジェームズに気付いたセブルスは、途端、眉を険しく吊り上げる。側に走り寄ったジェームズから視線を逸らし、ふん、と低い声で返事をする。
「……別に、どうもしない。単なる通りすがりだ」
「いやいや」
普段家から出ないセブルスが、家からそう近いわけでもないバス停の側に立っていて、通りすがりもないだろうに。ジェームズは両手を伸ばして、機嫌のよろしくないらしいセブルスの頬を包んだ。
「!おい、こんな往来でっ……」
「随分冷たい。ごめんね、寒い中、随分待たせてた?遅いから心配させちゃった?」
「誰が貴様の心配などするか!!」
今までバスの中でコートのポケットにつっこんでいた、ジェームズの手は温かい。その手に包まれた頬から、セブルスの不機嫌は、ほんの少し、溶けていく。
「……たまたま。たまたまだぞ、手元にあったからっ……」
「え」
ジェームズは、赤い顔のセブルスが、背後で握り締めているものに気付いた。
マフラー。
セブルスが、ジェームズの為に、ここまで持ってきて、迎えにきてくれた。
「外が寒くなってきたから…私も、家の中ばかりいるから…気晴らしに散歩でもと思ってだな、貴様が厚着してたかどうかも覚えてなかったから…無駄だったようだがな!!ふん、どうせ気晴らしついでだ!!」
口惜しそうに毒づいて、セブルスは俯く。
ジェームズの首には、ちゃんともうマフラーが巻いてあったのだ。
毎日出勤で外に出ているジェームズは、気温の変化などとっくに知っていて。
「…セブルス」
「く、繰り返すが、貴様の心配などしていなかったからな!?風邪でも引かれては鬱陶しいと思っただけだ!!」
空振りの自分の気遣いが腹立たしいのか、いつまで触っているのだと、セブルスはマフラーを持っている手で、ジェームズの両腕をばしんと払い除ける。マフラーがふわりとジェームズの腕に柔らかく絡んで、外れた。
苦笑しながら、ジェームズは、自分の巻いていたマフラーをくるりと外す。
「君が風邪引く方が、僕には一大事だよ。これでも巻いていて?」
そう言って、ジェームズは今まで巻いていたマフラーを、セブルスの首に優しく巻いてやった。ジェームズの体温がマフラーに移り、セブルスを温める。
「…そのマフラー、僕に巻いてくれる?」
またニコリと笑って、ジェームズは自分の首と、セブルスの手に持っているマフラーを交互に指差した。
「……」
ジェームズに巻かれたマフラーに顔を埋めたセブルスは、未だ膨れっ面のようだったが。
ゆっくりと手を上げ、ジェームズの首にマフラーをクルリ、と巻き。
「…風邪でも引かれたら、かなわんからな!!」
力いっぱい、締め上げたのだった。
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