ジェースネ新婚物語


3つのベッド


 ジェームズと暮らすようになったこの家には3つのベッドがある。
 スネイプの私室に備えられた一人用のベッド。ジェームズの部屋に備えられた、やはり一人用のベッド。

 そして、わざわざダブルサイズのベッドが一つ。

 元々は、ジェームズが勝手に購入した物だった。
「どうせ二人で寝るんだから、大きい方がいいじゃない」
「大きさの問題じゃない!!」
 実際どうせ一緒に住めば、これから何度と無く二人で『寝る』事になるのだろうが、それを前提としたベッドを置くなどスネイプはごめんだった。そもそも一緒に暮らしたからと言って、毎日一緒のベッドで眠らなくてはならないはずはない。
「そんなところで毎日寝るくらいなら、私はソファで寝る!」
「え…意外だなあ、そんな所がセブルスの趣味だったの?そりゃ僕もそれはそれでとてもそそられて良いのですけど、ベッドの方が柔らかいし、いろいろ身体を動かしやすくていいと思うよ?」
「そういう意味じゃない!!一人で寝たいと言っているんだ!!」
「照れ屋さんなんだからー」
 そんなわけで、何とか一人用ベッドの購入にこぎつけ、ダブルベッドは客間に置かれる事になったのだが。
「研究の時とか、お互いの生活リズムが合わなかったりする時は一人寝で良いけど、それ以外の時はなるべくダブルベッド集合」
 と、ジェームズが条件を叩きつけてきた。
「別に『そういう事』しなくてもいいけど、目が覚めた時、誰かがすぐ側にいるって、安心感が違うでしょ」
 そう理由づけるジェームズは、スネイプを言いくるめる為というよりも、自分の為に言っているようであった。失った「家族」の事を思っているのかもしれない。「貴様の寂しさを紛らわす為に私を使うな」とスネイプは言ってやりたくなるが、失った心の空洞の辛さをスネイプだって判っている。自分は再び、こうして手に入れる事ができたのだけれども。
 そう、失った痛みは誰よりも理解できる。
 彼が誰かを想って痛むのは、側で見ている自分こそ、とても切ないのだけれども。
 今、彼の側にいてやれるのは自分だけなのだ。
 優越でなく、彼を今、自分が支えてやるべきなのだ。



 と、殊勝な心になってみたのは良いけれども。

「セブルスー。研究、まだ終わらないのー?」
「……もう少しかかる…」
 一緒に暮らし始めてからは暫く、スネイプは問答無用で、ジェームズによってダブルベッドに引きずりこまれていた。しかしどうしても進めたい研究があって、現在スネイプはジェームズに許可を貰い、夜も私室に閉じ篭る日々が続けている(どうして許可がいるのだろうかと考えずにはいられないが)。そんなわけで、この1週間ほど、私室におかれた一人用ベッドに一人で寝ていたのだが。

 ――とんでもなく、恥ずかしくないか?
 今からダブルベッドに戻るのは。

 実は既に2日ほど前に、研究の方はほぼ終了している。生活パターンもほぼ戻っているのだが。
 夜、自分からダブルベッドに戻る勇気が出ない……。
 まるで、自分からジェームズと一緒に寝たがっているような気がする。むしろ抱いてくれと言ってしまっているような気までしてくる。そこまで言わなかったとしても「ジェームズがしたいなら構いません」と身体を捧げ出しているような気にもなる。過剰な反応かもしれないが、そう思うとどうしてもスネイプはただ「ダブルベッドに戻るだけ」という行為が恥ずかしい。イエス・ノー枕なみに恥ずかしい。
 しかも情け無い事に、研究が終って余裕が出た途端、実際ジェームズの体温を早くも懐かしがっている自分がいる……。いや別に、特別「したい」というわけではない。絶対にしたくないとも言わないが、ただ性欲に溺れるだなんて堕落した事だけは絶対に嫌なわけで、幸いそこまでの欲は無いが、とすると「ただ側にいたい」などと女々しい事を考えているような気がし、それもまたかなり恥ずかしい。正直そんな自分は見ていられない。

 とにかく何かにつけて恥ずかしい。
 こんな事なら最初からダブルベッド1つの方が、悩みがなくてまだマシだったかもしれない。


「セブルスー。本当にまだなのー?」
 10日も過ぎると、ジェームズがあからさまに疑いの目を向けてきた。
「そ、そんな簡単に終るような物ならば、わざわざ研究したりはせん!!」
 と慌ててスネイプも言い訳をしたが、後ろめたいだけにわざとらしい。そもそも今回の研究はデータをいくつか揃えたかっただけのものであって、そう時間はかからない…という事を、そう言えば10日前に、ジェームズには話してしまっていたのだった。
 それ以上問い詰められる前に、スネイプはそそくさと、ジェームズと目を合わさずに自室に戻る。バタンと扉を閉め、フゥ、と溜息を吐いてから、冷静に考えてみる。
 ……先程聞かれた時に、「終った」と一言、言えば良かったのではないだろうか。ならばジェームズからベッドに引きずりこみ――いや引きずりこまれたいわけではないが、自分からベッドに向かう勇気は必要がなくなっただろうに。じゃあ明日なら…と思いつつ、今日言いそびれた事を、明日言える自信は無かった。まったく、いい年をして何を恥ずかしがっているのだろう。ジェームズには言っていないが、彼がいなくなってから再び目の前に現れるまで、品行方正に過ごしていたわけではない。相手が男だろうと女だろうと誘われもしたし、誘いもした。今更ジェームズと寝るくらいなんだ。
 …と思いはするが、意識してしまうのだから仕方ない。
 机の上は、もう片付いている。もう一度溜息を吐いて、とりあえずもう今日はどうでもいいとスネイプは一人用のベッドに寝っ転がった。まだ眠くは無いので、枕もとに置いてあった本に手を伸ばす。
 そこに。

「やっぱり!!」

 バン!という音と同時に、不機嫌な声が飛んできた。慌てて身を起こすスネイプの元まで、どしどしと目を吊り上げたジェームズが近付いてくる。
「研究、終ってるんじゃないか!しかもこの片付き様!いつから終ってたの!?」
「ち、違……その、い、今からやるところだったんだ!!」
 子供以下の言い訳をしたところで、今更ジェームズに通用するわけがない。
「研究終っても寝不足で疲れてるだろうから、ベッドに戻ってきても何もしないで寝かせてあげようと決めてたのに!!君がそういう手段でくるなら、もう僕も気なんて遣わない!!」
「違、ご、誤解だ――……っっ!!」



 というわけでその晩は結局、スネイプの私室の小さなベッドで二人して「寝」てしまい、言い訳のしようもなくなったスネイプは、次の日からはまたダブルベッドに引き戻されてしまい、より一層寝不足の日々を強いられたのであった。
 ただ、おかげで、「自分から戻る」必要はなくなって、いろいろと考え過ぎていた恥ずかしい想いを、ジェームズに知られずに済んだのだけれども。






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