ジェースネ新婚物語


おかいもの


 ジェームズとスネイプの二人が住む村には大きなスーパーなどは無いので、週に1度、ジェームズの仕事が休みの日に隣の町まで買い出しに行く事になっている。
 隣の町は歩いて行ける距離では無いので、車に乗って移動する事になる。バスも通っているのだが、実はジェームズが車と免許を持っていた。こいつの運転など大丈夫なのか、と車に弱いスネイプは思うのだが、案外快適な運転で車は隣町を目指した。
 

「とりあえずお肉と―、野菜とー。ワインも買っていい?」
 カートを押しながら、ジェームズが楽しそうに買い物メモを見ている。スネイプもそれについて異存は無いが、実はスネイプは案外それどころではない。まだスーパーが物珍しいのだ。幼い頃は自分で買い物に行くなど無かったし、成人してからも、日用品の買い物などはハウスエルフの仕事であった。そもそもダイアゴン横丁にはスーパーなど存在しない。
 そんなわけで、スネイプがスーパー――しかもマグルの――などに出入りするようになったのはごく最近、ジェームズと一緒に暮らすようになってからだ。買い物の仕方が分からないわけではないが、こんなにもたくさんの商品を並べられると、どれに手を出して良いのか判らない。自分にとって必要な商品だけでなく、普段なら絶対目にしないだろう物もたくさんあって、何に使うのかさっぱり判らなく、見ていて興味深くもある。
 ジェームズの方は、行方不明の間に余程マグルに馴染んだと見え、全くスーパーでも躊躇いの色がない。手馴れた様子で野菜コーナーに向かい、これは傷がついてるだの、これはまだ早いだのと野菜を選別して籠に入れていく。主婦みたいな奴だと思いはするものの、新鮮な野菜の選別くらいは自分にもできる、とスネイプは妙にジェームズに張り合ってみたりする。
「えーと、スネイプは魚が好きだよね―。好きなの選びなよ」
「お前はどれでも構わんのか」
「あれ、僕の好みを考慮してくれるの?」
「聞いてみただけで、聞く耳などは持っていないがな」
「いやいやいや」
 そんな会話をしながら二人でスーパーの通路を進み、肉の並ぶコーナーでは、ジェームズが嬉々として好みの物を選んでいた。


「……思うのだが」
 レジを過ぎ、カートに積まれた荷物を自分達でスーパーの袋に移している時、ぼそりとスネイプが手を止めた。
「これは不公平だとは思わないか?」
「何が?」
 ジェームズはそのまま手を止めずに、顔だけをスネイプに向けた。
 大きな袋が幾つか。食料品の他には、それぞれお互いが必要な物が買いこまれている。それらに視線を流し、スネイプが低い声で言った。
「生活費は折半だったな」
「……そうだよ」
 研究に使う材料費や、単純に趣味の為の投資は、お互い自分達の財布から出す事になっている。しかし食料費や生活雑貨の類は、完全な折半だ。
「貴様の方が、高くないか?」
「……何が?」
 じと。とスネイプの視線がジェームズを見つめる。
「大体、何にしてもだ。食事だって、私のメインは魚だが、貴様の肉は私の者よりも高いだろう」
「……まあ」
「ワインだってそうだ。貴様の選んだワインの方が、私の選んだ物よりも5ポンドも高かった」
「……」
「そう言えば家での食事の量だって、貴様の方が何倍も食べている。なんとなく不公平だとは思わんか?」
「……」
 別に二人は貧乏ではない。
 『まいほーむ』を買ってしまったとは言え、ジェームズは行方不明時代に働いて稼いでいた給料を殆ど手付かずで残していたし、スネイプもホグワーツ時代の給料や退職金をあらかた残していた。
 ので当面生活費に困る心配は無いのだが。
「……食事は、セブルスが食べないのが悪いんじゃ……」
 スーパーの袋に荷物を移す作業も完全に止まってしまい、通りかかる主婦が迷惑そうに、動かない大の大人の男二人を見ながら通り過ぎた。
 それにも構わず、買い物袋を前にして、二人は延々くだらない話題をまだ続ける。
「『食べない』のではなく、体質の問題で、貴様ほど食べられないというだけだ」
「ワインだって、じゃあもっと高い物を買えば…」
「私はこれが好きなんだ。第一、無駄に高い買い物をするつもりはない」
 以前のスネイプはもう少し金に無頓着だったのだが、最近はなんだか生活慣れした主婦のようになってきてしまった。
「もー、どうでもいいじゃない。それじゃ、セブルスがもっと他に、欲しい物を買えばいいし。なんなら薬草買っても良いし」
「それは『生活必需品』ではないだろう。私の趣味や仕事に、貴様の援助を受けるつもりはない」
 …本当に、どうしろと言うのだ。という顔で、ジェームズが溜息をついた。
「じゃあ、食べる量を計算して、レシートと照らし合わせて、細かく細かくお互いの生活費を割り出す?」
「……そこまでしなくても良いが」
 ジェームズにそこまで言われて、スネイプは困惑した表情を浮かべる。自分で言い出したが、別に細かく「どうしたい」という希望があったわけではないのだ。
 とにかく何かにつけて、とりあえず文句を言っておかねば気に入らないのである。要するに。
 しかしこれでは会話が終らない。そう思ったのか、
「それじゃあ、妥協案」
 ジェームズが、人差し指をぴん、と立てた。


「僕が余分に食べてる分。身体で返します」


 真面目な顔をしてそう公約したジェームズに対し、スネイプが答えた。
「いいだろう」
「え!?」
 ふざけるな!と怒鳴られるか蹴られるかを想像していたのだろうジェームズが、あっさりとしたセブルスの意外過ぎる答えに、思わず「本当に!?」と確認する。
「身体で返してくれるんだな?」
 スネイプは、ニヤリと笑う。瞬間、ジェームズの表情に、なんとなく甘い予感、ではなく、嫌な予感が閃いたようだった。
 事の真相は、すぐに明らかになる。


「セブルスー…腰が痛いんですけど」
 力弱い訴えにも、当然優しく応えたりなどする気は、スネイプにはない。
「運動不足じゃないのか?さっさと土を掘れ、まだ後半分残っている」
 外壁の壁にもたれてジェームズを眺めている、どこか楽しそうなスネイプの小さな薬草園が、庭に造られようとしていた。勿論ジェームズの手によって。
「それが終われば、向こうの日陰のマンドラゴラの肥料をやっておいてくれ。植え替えの必要も当分無いからラクだろう?」
「……あの、一応僕も、久しぶりの休日なんで、のんびりしたい今日この頃なんですけど……」
「『身体で払う』と言ったのは貴様だろう」
 久しぶりの優越感で、スネイプは心の底から、清清しく笑った。

 こうなったら、『運動不足』を解消する為に、今夜はたっぷりスネイプの身体を使って運動させていただいてやる。

 ジェームズがそんな決心を固めている事など、露知らず。







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