ジェースネ新婚物語


狼さんがやってきた


「セブルス……リーマスにこの家、教えたの?」
 徹夜明けでぼんやりと紅茶を飲んでいたスネイプは、梟便を見ていたジェームズの絶句に、気の抜けた顔で答えた。
「わざわざ教えようと思った訳ではないが、脱狼薬を作っているからな。薬を運べるだけの梟を呼ぶのも面倒で、取りに来させる事にした」
 そして、不思議そうに首を傾げる。
「ここの住所は、お前がとっくに教えたものだと思っていたが」
「う……」
 言葉に詰まり、ジェームズは誤魔化す様に、テーブルのスコーンに手を伸ばした。
 いや。言おう言おうとは思っていた。その内教えるつもりではあった。

 ピンポン。

 絶妙のタイミングで呼び鈴が鳴る。カップを手に持ったまま動こうとしないスネイプが、顎で「出ろ」とジェームズを促した。
 ジェームズが玄関を開けると、変わらぬ、穏やかな笑顔。
「やあ久しぶり、ジェームズ。セブルスは元気かい?」
「…リーマス。よく来たね」
 向き合ったジェームズとルーピンは自然に笑顔を浮かべて、久しぶりの再会に、肩を叩きながら握手する。
 しかしその穏やかさを保ちながら、二人の間には微妙に緊張が走った。
「ぜひ二人の新居には遊びに行きたいと思っていたんだ。『家を教えてさえくれたら』、すぐにでも会いに行こうって」
「あっはっは、落着いてから呼ぼうと思ったんだけどね」
 握手の力をぎゅ。と強くしながら、二人が家に入っていく。

「セブルス、久しぶり。元気そうだね」
「そう見えるか…」
 スネイプが徹夜をしたのは、自分の研究と共に、ルーピンの為の薬を作っていたからだ。それ以上は何も言わず、重そうに立ち上がり、スネイプは薬を取りに行く為リビングを出ていく。ひらひらと手を振って、笑顔を崩さずルーピンは、横に立つジェームズに言った。
「今日は君、仕事休みなのかい?平日だと思うんだけどね」
「……最近忙しくてね、先日日曜出勤したところなんだ。今日は代休だよ。おかげで君に会う事ができた」
「そうかあ、明日だったら私の相手はセブルスだけにさせてしまうところだったんだねえ」
 お互いの言葉にはちくちくと棘がある。親友であることは間違い無いのだが。
 ジェームズが生きていた事を知っているのは、スネイプ以外ではダンブルドア、そしてこのルーピンだけである。それは構わないのだが。
 ジェームズが死んだとされていた間、スネイプの側にいたのがルーピンで。
 それももう、かなり『親しい』ところまで進んでいたらしく。
「そんなに警戒しなくても良いじゃないか。ほら、結局セブルスは私より君を選んだわけだし」
「うんそれはその通りなんだけどね」
「…でもまあおかげでセブルスが僕に優しいんだけどね」
「はは、リーマスがそんな相手の弱みに突けこむような真似はしないと僕は信じてるさ」
 ははははは、とお互いの間には感情の窺えない笑い声が行き交っている。そこに戻ってきたスネイプが、不思議そうに、何を突っ立っているのだと声をかけた。
「でかい男が二人もそんな所に立つな、邪魔だ。座れ、ルーピン」
「うん、ありがとうセブルス。いつもすまないね」
 スネイプの勧めに従い、ちゃっかりスネイプの横に着席するルーピン。確かに学生時代と比べて、ルーピンを見る目が穏やかなスネイプに、ちくりめらりとジェームズが嫉妬する。
「……リーマスも大変だね。その薬は簡単に市販されるものでもないし。材料はそう手に入らない物でもないんだから、いっそセブルスに作り方を習って、自分で作ってみたらどうだい?その方がここまで来る手間も省けるよ」
 その問いには、スネイプが溜息で答えた。
「以前教えていたのだが、酷いものだった。卒業してから、年々指の動きが悪くなっているのではないか?」
 いつ教えたんだ!とジェームズは心の中で怒鳴り問う。ルーピンは穏やかに、照れたように笑った。
「何より、調合する為の材料を、私は今持っていないもの。まあセブルスさえ良ければ、毎月ここに教わりに来るんだけど」
 幸いスネイプは「余計に手間だ」とその提案を一蹴した。ジェームズは内心ホッとする。
「まあ、こうして1ヶ月に一度、まとめて1週間分の薬を受け取りにくるのも私としては楽しいものさ。こうして3人でお茶を囲めるなんて、学生時代には考えもしなかった事だから」
 それは確かに。とジェームズも思う。それは素直に嬉しい。スネイプの顔が心なしか赤くなっているのも、可愛くて良い。
「それにしても、セブルスとジェームズが一緒に住む日がくるなんてね。セブルスも思い切ったね?」
「……煩い。私はもう部屋に戻るぞ」
 赤い顔のまま落着き無く、スネイプがガタリと立ち上がった。
「悪友同士、積もる話もあるのだろう。私は暫く寝るので邪魔をするなよ」
 いそいそと立ち去ったのは眠たいからでなく、照れのせいだ。はあい、と返事をして、ジェームズとルーピンは立ち去るスネイプに手を振った。
「…相変らず可愛いなあ、セブルス。君のおかげかな?」
「あはは。セブルスは元から可愛いから」
 そう言いながら、ジェームズはふと真面目な顔になる。
「――本当に、君には感謝している。僕のいない間、彼を支えてくれて」
 こういう言い方は、スネイプに対して自惚れ過ぎかもしれない。ルーピンに対しても失礼だろう。
 それでも、ルーピンは笑った。
「いいさ、私も多少なりと彼の力になれただろう事が嬉しかった。学生時代は見ているだけの立場だったから」
 ルーピンの、スネイプへの想いをジェームズは知っていた。
 それでも譲れなかった。
「君がいてくれて良かった。ありがとう、リーマス」
 ジェームズがテーブル越しに手を伸ばすと、ルーピンも改めて微笑んだ。
 強い、握手。
「――セブルスには僕だけじゃなく、一人でも多くの友人がいた方がいい。これからもセブルスを宜しく。勿論僕も」
「勿論だよジェームズ。光栄だ」
 ルーピンが笑う。

「僕も諦めてはいないしね」

「……は?」
 握手の手が離れて、ジェームズは思わず間の抜けた声を出す。
 ルーピンがまっすぐな笑顔を、ジェームズに向ける。それはもう、つけいる隙の無い笑顔で。
「そりゃ確かに君を選んだのはセブルスだけどね、だからって諦める必要は無いだろう?僕にだって、彼はかなりよろめいてきてくれたよ?」
「いや!いやいや、それは!!え、だってさ、あれ?え!?」
「君に自信があるなら、私が何をしようと大丈夫だろう?大丈夫、今更何があったって、過去にもあったんだから変わらない変わらない」
「いやいやいや!ちょっと、リーマス!!」
 油断すればスネイプの眠っている寝室に向かおうとするルーピンを押えながら、ジェームズは必死で頭を巡らせる。

 今日はいい。自分がたまたま家にいた。しかしこれから毎月1回。ルーピンが薬を受け取りに来る時に、自分は家にいられるだろうか?
 ルーピンとスネイプが二人っきりになった時、何も無いと言いきれるか?
 しかも家がばれた以上、来るのは月に1度で済むのだろうか?
 ジェームズは、心の中で叫んだ。


 だから、教えたくなかったんだ!!







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