愛しあおうよぅ
「ねーセブルスー」
と、同じベッドに横になっているスネイプにジェームズが声をかけても、「パス」の一言で顔を合わせてもくれない…。もう一声誘ったところで「疲れてるから」「眠いから」「だるいから」と一蹴されるに決まっている。あまりにもジェームズがしつこいと、もう全身から怒りと拒絶のオーラを出して、ジェームズに背を向けてしまう。
こんな風に、最近のスネイプは全く夜の相手をしてくれない。理由は簡単、連続連夜、ジェームズが夜に張り切り過ぎていたからだ。
「ポッター、次の日曜の買い物なんだが、任せていいか?丁度その頃、煮詰めた薬草が良い感じになる予定……」
スネイプが言葉を切ったのは、横長のソファの真ん中に腰掛けているジェームズが、いじけたように足を抱えてじろっとスネイプを見たからだ。
「……なんだその顔は。買い物くらいでそんなに……」
「買い物くらいはいいけどさー」
今の顔に相応しい、じめっとした声で、ジェームズはスネイプを見上げる。
「僕が一人で行ったら、その間に研究終わる?」
「……終わりはせんが」
「終わらないの?」
「……何が言いたい」
スネイプが不機嫌な顔つきになる。ジェームズが何を望んでいるのか、薄々見当をつけているのだ。
いや実に全く、その通り。
「久しぶりに、君を抱きたい」
「……」
スネイプが大きな溜息をついて、どっと疲れたように、ソファに片手を当てて体重を支えた。ジェームズは抱えていた足をソファから下ろし、今度はふてぶてしそうに深く腰掛け、足を組んで声を上げる。
「だってさー、本当に最近全然だよ?僕よく我慢してると思わない?本当なら今すぐ襲いたいくらいだよ?そこまで拒絶しなくても」
「威張る事か、この色魔」
くだらん、とスネイプはキッチンへと歩いていき、ジェームズは立ちあがって、その後ろ姿を追いかける。
「別に威張っちゃないけどね、まだ一緒に暮らし始めて1年経ってないんだよ?倦怠期には早いんじゃないの?」
「貴様と初めて出会ってからの月日を数えると、その倦怠期とやらは何回訪れて妥当なものかな」
冷蔵庫から冷たい紅茶のボトルを取り出すスネイプの答えは素っ気無い。一人分だけコップに入れて飲もうとするスネイプの手からボトルを取って、ジェームズは自分の分も紅茶を注いだ。そして、先にリビングに戻るスネイプの後をまた追う。どし、とソファに腰掛けたスネイプの隣に、ジェームズも素早く座る。スネイプは呆れ返った瞳を向けた。
「…大体、何故貴様はいい歳して、そうすぐにやりたがるのだ。私が特別淡白なわけではないはずだぞ」
「うんそうだね、セブルスは始めると結構情熱的で……」
ジェームズはスネイプの険しい視線に、大人しく言葉を切った。
「……いやセブルスは普段淡白な方だとは思うけど。セブルスに誘われた事ないもんね」
「それはお前がいつもいつも寄ってくるから、充分間に合っているだけだ。間に合い過ぎて、もう遠慮してほしいくらいにな」
「と言って僕が遠慮してたら、いつまでもそんな気になってくれないじゃない。いつまで待ってたらそんな気になってくれるのさ」
「そうだな、まあ半年もすれば、考えてやらん事も無い」
「そんなに待てるかい!!」
大声でつっこんで、ジェームズは隣のスネイプに圧し掛かる。
至近距離で見下ろしても、すっかりいろんな強引手段に慣れたスネイプは「あん」とも「いや」とも言ってくれない。
「今こんな所でやる気なら、さっさと出して1回で終わり。この先また当分無しな」
「なーんーでー」
やりたいのはやりたいのだが、どうしてそう義務的な対応の上、先の希望まで取り上げられるのか。はー、とジェームズは両肩を落とす。
「……ベッドなら、長く味わってもいい?」
それでも、やっと「やってもいい」というお許しがいただけたのだ。目の前のにんじんには飛びつかずにはいられない。
「程ほどにな」
溜息をついて、スネイプが応じてくれた。
そんな夜の、シャワーの後。
「ねー、どうしたらもっと欲しがってもらえるのかなあ?」
ジェームズが言うと、ベッドに戻ってきたスネイプは早速嫌な顔をした。
「貴様の頭はそんな事ばかりか。この私がこういう暮らしをしているだけでも十分驚くべき事だとは思わないのか?」
「それはそうなんだけどーありがたいと思うんだけどー」
幸せは、貪欲になる。
「それはそれ、これはこれで。なんか寝るのも、愛情深めるのに良いと思わない?」
「ただの性欲の捌け口だろうが」
「違うって。セブルスだからだってば」
愛してるから、欲は尽きない。
「あ!もしかしてもっと意外性とか欲しい?たまには違ったプレイとかしてみる?」
いかにも名案思いつきましたとばかりに顔を輝かせたジェームズに、スネイプは実に素っ気無かった。
「結構。もう寝るぞ、お前は明日も仕事だろうが」
「セブルス抱いたら元気になるんだけど。そうそう、たまには趣向を変えたら、するのも楽しいと思うよ?コスプレとかどう?」
「煩い!寝ると言ってるだろうが!!」
「……じゃあせめて目隠しプレイとか……」
「……っっ」
怒鳴る事もやめ、スネイプはさっさとジェームズに背を向けてしまった。
深まった愛もまたこれで平行線になってしまいそうだ。とほ。と溜息をついて、ジェームズはおずおず、パジャマを着たスネイプの肩に触れる。
怒られない。
でもここで調子に乗ると本気で怒られるので、それ以上は我慢する。せっかく一緒に暮らせるようになったのだから、あまり喧嘩はしたくない。
ジェームズは後ろから、そっとスネイプを抱き締めて眠った。
なんとかして、スネイプをその気にさせる事はできないものか。
いや、抱けば抱いたで反応の良いスネイプなのだが、たまには久しぶりに、熱く燃えてみたいじゃないか。
とジェームズが仕事中からくだらない事を延々考えて、帰宅した夜。
「あれ、電気消えてる……?」
スネイプが出かけるとも何とも聞いていないのに。ジェームズの不安を煽るように、玄関の鍵もかかっていた。もう寝た、とかなら良いのだが。
持っていた鍵で中に入り、リビングの電気をつけると、やけにすっきり片付いている気がする。
「セブルス……?」
階段の下で2階に声をかけてみるが、やはり返事はない。どうしたのだろう。と、ジェームズがキッチンを覗くと。
テーブルに、四角いメモ用紙が。
『放置プレイ、というのがあるらしい。
どうだ、たっぷり味わってみろ』
素っ気無い文章から、微妙にスネイプの笑みを垣間見た気がした。妙に片付いているのは――どこか、出掛けてしまっているから?
「そ……んなの、味わえるか―――――!!!」
ジェームズが一人空しくつっこんだところで、放置プレイに返ってくる声など、無いのだった。
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