ジェースネ新婚物語


飲み過ぎと狼


「もう少しマシなものはないのか」
 そう言いながら、騒がしいパブでスネイプは何杯目かのワインに手を伸ばした。舌が肥えているわけではないが、少なくともあんまり安いワインは好みから外れている。とは言えこの程度の店ではそれが限界で、スネイプもそれは承知している。それでも同席者に聞こえる程度に文句を言うのは、ケチをつけずにいられない性格のせい――よりはむしろ今回は、酔いが回っているせいだろう。ケチをつけるならスネイプの性格上最初の一口目で済ませているはずだし、そして実際済ませている。ワインではなく同席者にとにかく何かケチをつけたい――というのはあるかもしれない。そもそもこういう、あまりにも安酒しか置いていないような店に入る事自体、スネイプの行動から外れている。しかしこれは、もう同席者の生活レベルに合わせようとすると、どうしてもそうなってしまうのである。
「この店ならミート・パイがお勧めだよ。これを食べながらそのワインを飲めば、多少はマシに思えるんじゃないのかな」
 この店の常連客であるリーマス・ルーピンがにこやかにそう言うと、ワインよりまずいだけじゃないのかそれは、とスネイプがぐちぐち呟いた。

 どうも最近何かにつけてすぐ「やりたがる」ジェームズが鬱陶しくて、「放置プレイ」と称して家を出てきたスネイプなのだが、元々そんなに行動範囲が広い訳でなく、ホグワーツを退職してジェームズと暮らしだしてからは人付き合いもめっきり減っていて、いざ一人で目的も無く外出となると、早速行き場所に困った。そこでルーピンを呼び出したのは、別に彼に会いたかったわけでも彼しかいなかったわけでもなく、ジェームズ
の生存を知っているルーピンと一緒ならば、ジェームズの事で不機嫌になっている自分を隠さずに済むのがラクだったからである。
「それにしても、もう少しマシな店に入れるくらいの立場にはなっただろうが。ダンブルドアからの要請に応えて副収入も増やしたくせに」
「どうも、こういう暮らしが性に合っちゃってねえ…慣れればそう悪くないものだよ?」
「そうは思えん」
 ぐい、とスネイプはワインをまた口に含んだ。多分悪酔いをするだろうな、とルーピンはスネイプを見て思う。それはもう全然構わない。
「…私と飲む、ってジェームズには言ってきたのかい?」
 ルーピンが確認すると、誰が言うか、とスネイプは顔を顰めた。
「そんな事を言えばまた煩い。そもそも、どうして私がいちいち誰と飲む、とあいつに言わなければならないんだ」
「うんうん、そうだね」
 スネイプの口の滑りに合わせて、ルーピンが邪魔をしないような相槌を打つ。
「それで、今日は帰るの?」
 相槌を打ちながら、ここはしっかり確認しておく。
「そんな簡単に帰ってやってたまるか」
 ふん、とスネイプが鼻を鳴らした。ここで、机の下でガッツポーズを取るような真似を、ジェームズならともかくルーピンはしない。
「大体あいつは、毎日毎日……どうしてあんなに元気なんだ。お前も大概だったが、グリフィンドールは性欲の固まりか?」
「そう言うわけじゃないけれども」
 ルーピンは苦笑した。確かにルーピンも、かつてスネイプに「いい加減にしろ」と何度も言われたものだ。ジェームズが戻ってきてからは、そんな関係も無くなったのだが。
「良い歳をして、いつまでもどうしてそんなに、する必要があるんだ。体質の問題かもしれんが、なら一人で勝手にやっていれば良いのだ」
 良い歳をしてそれでもしたがるのは……多分、ジェームズの事を、ルーピンは理解する。単純に、彼を見てると、したくなるのだろう。いや勿論、愛が前提の話で。
「まるで単なる、あいつの性欲の捌け口みたいじゃないか、私は……」
 大分酔いが回ってきたようだ。言葉が明瞭さを欠いてきた。
 ルーピンは先に二人分の会計を済ませて(情け無い話だが、後で割り勘にしてもらう予定だ)、スネイプを立たせた。
「さ、もう部屋に戻って休もう?それ以上飲むと潰れるよ」
「……一人で、歩ける」
 と言いながら、スネイプは素直に、ルーピンに体を支えられるに任せている。
 酔っ払っているとは言え、かつて肌を合わせた狼さんの前でこんなに無防備になるようでは、さぞジェームズも日々心配な事だろう。

 
「ほら、セブルス……大丈夫?」
 ルーピンに支えられ、ベッドに腰かけたスネイプは、片手で頭を抑えた。潰れる前に席を立ったので、まだ意識はある。水の入ったコップを手渡されて、スネイプはそれをこくりと飲んだ。冷たくはないが、少しすっきりする。
「すまんな……。横になる」
 やはり安い酒は合わない。気分が悪くなる。ぽてん、とそのまま体を横に倒したスネイプの上に。
 ルーピンが、かぶさってきた。
「……おい」
「何」
「何、って……」
 どいつもこいつも、こればっかりか?とぼんやりする頭で腹を立てると、ルーピンの方こそ、真顔で言った。
「私が、君を本当に好きな事、忘れたの?何度も言ったよ。それを承知で、ただジェームズの愚痴を言う為だけに私を呼び出したのかい?それとも、私の気持ちなんてすっかり忘れてた?どちらにしても、あんまりだと思うけど」
「……そういう、わけでは……」
 まったく、無いのだが。酔いきっていない頭に、かつての記憶が蘇る。何度も、こんな風に夜を共にした。
 そしてその度、何度もルーピンはスネイプに、好きだよ。と囁いた。
「だ、だけども、だな……」
 さっきまでの話を、覚えていないわけでもないだろうに。いやそもそも、浮気をする為に、ルーピンを呼んだわけではない。
「なら――もし私が、君を抱かなくていい、一生、側にいるだけでもかまわない…って言ったら、君は私を選んでくれる?」
「な……に、を……」
 覆い被されたまま、ルーピンは真剣な顔で囁いてくる。酔いきってはいないが――思考力が低下する程には酒を飲んでいるスネイプは、咄嗟に返事が出てこない。
「セブルス……」
「ル、ルーピン……や、で、でも……」
 抱かないとか言いながら、ルーピンの唇がそっとスネイプに寄って来る。なまじ肌を知っているだけに、なんだか拒む手が弱い。
「大事に、するから……」
 耳元の囁きに、スネイプが逆らいきれないでいると――

「待ったぁ!!!!」

 バタン。と扉が開いて、現れたのは。

「……ポ、ポッタ―……!!」
 一瞬で目を覚ましたスネイプが、ルーピンを突き飛ばして身を起こした。が、既にジェームズの顔は怒りで真っ赤に染まっている。
「どこに行ったのか、まさかリーマスのところか、でもそれは飛躍しすぎかな、もう少しセブルスを信用しなくちゃな、と思ってたのに……あっさりと!君は!!」
「ちが、違う、これはっ……」
 信用も何も、真っ先にルーピンの居場所を探して駆け付けたジェームズである。それでも、そう突っ込む余裕も、今のスネイプには無い。
「何が放置プレイさ!こんなところで浮気?なに、僕に嫉妬させたいわけ?嫉妬させて、それはもう激しいプレイでも後でさせてくれるわけ?判った、その通りにしてあげるよ!帰るよ!!」
「誤解、誤解だ、ポッター!!引っ張るな、酒が回るっ……」
「ああ望むところだ、目が回るほど激しいプレイにしてあげるよ!!」
 ベッドから転がり落ちたルーピンにはもう目もくれず、嵐のような激しさで、あっという間に二人は部屋から出ていった。
 後に残されたルーピンは。
「……相手に知られてる縄張りじゃあ、まずかったか……」
 頭をかき、溜息をつきながらも、ほんの少しの苦笑を浮かべた。







TOP