ティータイム
夕食の後片付けを済まし、各々に特別急ぎの用事が無い限り、二人はもう一度テーブルに戻って、のんびりと食後のお茶を楽しんだりもする。
「セーブルスー。今日は何のお茶にしようか」
「なんでも構わん」
スネイプの返事は、大概素っ気無い。そんな彼の事は今更熟知しているので、ジェームズもガッカリしたり腹を立てたりする事はない。聞いて、希望が返ってこなければ、ジェームズの趣味で選んでしまうだけの事である。
「じゃあねー、今日は珈琲にしようか、珍しく」
「…珈琲なんてうちにあったのか」
基本的に毎日紅茶かハーブティか酒なので、スネイプが珈琲を飲む事は滅多にない。
「あったんだよ、実は。僕は仕事で結構飲むからね。スーパーで買っといたんだ、一応。……随分前の話だけども」
賞味期限は来てないから大丈夫、とジェームズは湯を沸かす。
「あ、もしかして珈琲、嫌いだっけ?」
「いや、そういうわけではない。滅多に飲まないだけで」
「ホグワーツの教師時代も?」
「そう言えば飲まなかったな。紅茶かワインだ」
学生時代も、そう言えばそうだったなー、とジェームズは懐かしく思い出す。
おかげで、苦労したのだ。
「…何をニヤニヤしている?」
目敏くスネイプが、訝しげにジェームズを睨み付けてきた。鋭い。
「いやいや、なんだかこういう時間が幸せだなーと思いまして」
「……馬鹿が」
適当に誤魔化したセリフを、幸いにも流してくれたようだ。危ない危ない。スネイプは普段回りに関心を寄せないくせに、ジェームズが何かを企んでいる時は長年の経験からか、何か感じるものがあるらしい。
「クッキー貰ったからさ。それ、開けよう。甘いから、ちょっと苦めの珈琲で丁度良いだろ?」
「ん…」
スネイプにも異存は無いようだ。
「悪いけど、取ってきてくれるかい、セブルス?クッキー缶」
「どこだ」
素直に、スネイプは立ち上がる。ジェームズは珈琲カップを食器棚の奥から出しながら、こっちを見ているスネイプに笑顔を向ける。
「僕の部屋の、鞄のところ。紙袋で貰ったからさ、それごと持ってきてくれたらいい」
「判った」
姿勢良くきびきびと、スネイプはキッチンから出て、2階へと上がっていく。こつこつ、と足音が遠ざかるのを聞きつつ、ジェームズは手早く珈琲カップをテーブルに並べて支度を整えた。
「んん。美味しいねー、セブルス」
職場での戴き物クッキーは、有名どころのものだけあって大層美味。
「ん…私はもう少し甘さ控えめの方が好きだがな」
スネイプはそう言うが、だからと言って嫌がるほどではない。ぽりぽりと、少しずつではあるが、じっくり味わって食べている。
「まあ、甘くなる分は、珈琲の苦味で丁度良いでしょ?」
「まあな……」
頷きながら、スネイプが珈琲カップに手を伸ばす。普段飲まない珈琲も嫌いなわけではないから、もうカップに半分くらいは減っている。
「美味しいねえ…甘くて。つい僕らも甘い気分になっちゃうねえ……」
そう言いながら、向かいの席からジェームズはスネイプの唇に手を伸ばした。
「何を馬鹿な事を……」
スネイプの唇の端についていたクッキー屑を、指先で掬って、ゆっくりと自分の口に運ぶ。
「……甘いよ?」
「……」
急にどぎまぎしたかのように、スネイプの頬が赤くなる。
カタリ、とゆっくりジェームズは立ち上がる。スネイプがびくり、と身を竦めた。怯えているわけではなく。
「ほら…甘い気分、なっちゃうでしょ……?」
スネイプの座っている横に立ち、小さなクッキーを一つ摘んで、端をスネイプに咥えさせた。そして自分も腰を屈め、そのクッキーを反対側から唇で摘む。
「ん……」
赤い顔が、瞳を閉じる。甘いクッキーを分け合って、そのまま唇が触れ合って、舌がお互いの甘さを探り合う。
「……甘……」
目を潤ませて、スネイプが呟く。
「ほら…珈琲飲みなよ、セブルス」
珈琲カップを手にとってやって、唇まで持っていく。ん、と瞳を閉じたスネイプに、珈琲を飲ませてやる。こくり、と喉が動くのを見て、ジェームズはスネイプの耳元に唇を寄せて囁く。
「……もっと、甘く、なってみる……?」
ふ、と息をかけると、スネイプの体はびくと震える。そんな体に手を触れて、ジェームズはキスを落としていく。
「ポ、ポッター……」
スネイプは苦しげに眉を寄せて、ジェームズのシャツを掴んだ。そして――忌々しそうに囁いた。
「何か、薬を飲ませたな…………?」
「…フ。ばれたのなら仕方ない」
間を置いて、ジェームズはニヤリ。と黒そうに笑った。
「う…や、やはり貴様……」
「そう!君の珈琲にこっそり薬を入れさせてもらった!大丈夫、害はないよ。ただ気持ち良くなるだけの薬さ!」
「ぐ…ふ、不覚……!」
ジェームズがスネイプの腰に手を回し、片手を服の中に忍ばせていくと、ああんとスネイプの口から声が転がる。
そう、学生時代は苦労したのだ。今よりスネイプが珈琲を飲まなかった頃、紅茶やハーブティでは薬の味が隠れなかったのだ。スネイプは薬草関係に関してプロである。下手な薬を紅茶に紛れこませると、まず彼の嗅覚でばれてしまう。透明だから変な色が出ても困るし、濁るだけでも、もう駄目だ。
しかし珈琲ならば。
「ほら、最近君ってばあまりこう積極性が無かったじゃない?たまにはこうして、二人して熱くなろうよ」
「卑怯者めが……あ、あん、わ、私は、こういうのは…嫌いだとっ……!」
そう、スネイプに薬がばれると、とんでもなく臍を曲げられる。だから雰囲気に流されたように見せかけて、ばれないように、と思ったのだが。
流石、昔からジェームズに慣らされているだけの事はある。
「だけど遅い!君の体は薬でもう我慢ができなくなってるはずさ!」
「うぐっ……ゆ、油断したっ……」
ここで薬の使用がばれたという事は、次からまともに相手してもらう事も大変だろう。しかしスネイプだって、以前浮気しかけた負い目があるのだから、これでイーブンと言えない事もない(ジェームズには)。
そう、下手な遠慮など、愛の前には不要!
いっそ締め上げてやろうか、という気持ちだろうスネイプの腕に力は入らず、むしろジェームズに縋りつくように離れない。そんなスネイプの体をじっくり全身で味わいながら、やっぱり自分達はこういう引っ掻き合うような甘さがお似合いだよな、と一人幸せを噛締めていた。
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