家庭訪問
休日は二人揃って家でのんびりと過ごしたり、どこかにドライブに出かけたりで、どちらが多いという事はない。そしてたまたま、この日は前者だった。
ブー。
呼び出しのブザーが響き、飾り同然のドアノッカーがゴツゴツと玄関を叩く。客が来るという話もないし、周辺に住んでいる者だろうか。スネイプはジェームズと顔を見合わせ、首を傾げて玄関に向かう。一応用心の為に、魔法界で死亡した事になっているジェームズは、応対には出ないのだ。
再び、せっかちなブザー音と、連呼するドアノッカー。煩い、と思いつつスネイプはどなたかな、とドアを開けずに問う。少し何やら気配がして、
『ドラコ・マルフォイです。こちらはセブルス・スネイプ先生お住まいのお宅でしょうか』
「……ドっ……!?」
一瞬真っ白になって、思わずスネイプは玄関を勢い良く開けてしまう。しかしまず最初に目に入ったのは――
「先生!!お久しぶ」
バタン。
スネイプにしては素晴らしく俊敏な動きで、扉と鍵を閉めた。ガタガタ、と扉を明けようとする音と、表から二人分の声が叫んでいる。
「ま、待て!!!す、少しだけそのままで……!!」
学生時代にそんな動揺したスネイプの声を聞く事は、表の二人はなかっただろう。取り繕うどころではなく、スネイプはリビングに走り戻る。
「どうしたのセブル…」
「ポッター!!か、隠れろ!!いいから隠れろ!!」
ソファに寝っ転がって新聞を読むジェームズの腕を掴んで引き摺り起こし、抑えた声でスネイプは嵐の到来を告げる。
「お前の息子が来た!!ハリー・ポッターだ!!」
「……ええ!?」
流石に目を丸くし、思わず上がった声に慌ててジェームズは自分の口を塞ぐ。玄関先ではこちらの異変に気付いた気配はない。
「…とにかく、お前がいると最悪だ。二階のクローゼットにでも隠れてろ!」
「そんな狭いとこ…」
再び、玄関からドアノッカーが軽く音を立てた。まだですか?という意思表示だろう。
「…ああもう、いいからその辺に隠れてろ!!」
結局廊下横の押入れの中に、スネイプは問答無用でジェームズを押し込めた。静かにしてろよ、と念押しして、必死で平静を装って玄関へ向かう。
扉を開けると、ホッとしたように、無邪気な笑顔が二つ、スネイプを見た。
「お久しぶりです先生、お変わりなさそうで」
「……珍しい組合せだな。どうした、急に…何故ここが?」
ハリー・ポッターとドラコ・マルフォイ。ホグワーツ時代は犬猿の仲で通っていたはずの二人だが。
卒業をして社会に出た二人は、精悍さに少しの柔らかさを加えた笑顔でスネイプに握手を求めてきた。
「ご自宅はミスター・ダンブルドアに伺ったんですよ。以前から先生がどうなさっているのかずっと気にかかっていて」
ドラコはあれから随分と苦労をした筈だが、意外な程落着いている様子だ。
「時々話してたんですよ、僕ら先生の事。…上がらせてもらって良いですか?」
そしてハリーの、父親そっくりな事と言ったら、いっそ腹立たしいくらいだ。間違い無く、自分は後でジェームズに当り散らすだろうとスネイプは自覚した。
無言で、スネイプは身体を脇に寄せ、入り口を開ける。教師時代の自分を思い出そうとしつつ、内心はドキバグだ。
「お邪魔します」
「先生がマグルの中で生活してるなんて意外だなー」
ドラコが持ってきたお土産を受け取りながら、スネイプはハリーに気を取られて仕方ない。キョロキョロするな!と怒鳴りたい。怪しい物はなかっただろうか、彼の父親がここにいるという証拠のような物は…
その時、ジェームズが隠れている押入れの扉がほんの少しだけ開きかけている事に気付いてスネイプは蒼褪める。ハリー達の先に立って歩き、ドガッ!!と扉を叩き閉めた。
「…どうにも立て付けが悪くてな」
聞かれてもいないのに言い訳をする。すると、ハリーが父親そっくりな笑顔で余計な提案をする。
「僕直しましょうか?案外得意ですよ、そういうの。小さい頃よくやらされてたから」
結構だ!!と怒鳴るわけにもいかず。
「いや、うむ。この立て付けの悪さが味があって良いのだ。直すには及ばん。さあ奥へ入れ」
「そうですか…?」
愛情の篭った扉の閉め方には見えなかったが、とりあえずハリー達は促されるままリビングへと向かう。
そして――先に立つスネイプはまた、蒼褪める事になる。紅茶がテーブルに二人分、出しっぱなしだった…!!
「あれ、先生、誰かいるんですか?」
目敏くドラコが気付いた。
「…わ、私だけだが、あれはその、陰膳だ」
上擦った声で『尊敬するダンブルドアへの陰膳』という事にしといて、リビングのソファに二人を押し付けようとする。しかし二人は『懐かしい恩師の私生活』に触れて、じっとしていない。いっそ自分が隠れる身であれば良かった!とジェームズを逆恨みしながら、スネイプは気もそぞろに教え子達の質問に答えていく。大丈夫大丈夫、怪しい物はもう無いはず…
「あ、先生、トイレをお借りしてよろしいでしょうか?」
「待て!!…こっちだ」
うっかりえらい所を開けられては堪らない。スネイプは先に立って、ドラコを洗面所に案内する。ハリーを一人にしておくのも不安なので、早く戻りたい。
なのに、ドラコは目敏く見つけてしまう。
「…先生、誰かと一緒に暮らしてるんですか?」
「なっ……ん、の、話だ?」
「いえ、歯ブラシが二つあるので」
何故そんな事に気付く!
「その…気分で使い分けているのだ。さあトイレはそこだ。使い方くらいは分かるな?」
急かして入らせ、スネイプはその場を離れる。
しかし――不安は敵中したかのように、ハリーがリビングにいない。どこに行った、と辺りを見渡すと…複雑な笑みを浮かべた、ハリーが階段を下りてきた。
スネイプの全身から血の気が引く。二階にはジェームズの私室が…
「先生……」
ハリーは言い難そうに、固まっているスネイプを窺う。
「いや、あれは――その」
「先生…誰かとお住まいだったんですね」
「隠していたつもりでは――いや隠していたんだが――…誰か?」
てっきりジェームズの存在がばれたかと思ったのだが、ハリーが気にかかったのは、そうではなかったようだった。
ハリーは続けた。
「いえ、なんだかホッとしたような残念のような複雑な気分です…先生にもダブルベッドで一緒に眠る相手がいたんですね…」
…ベッドかよ!!
とジェームズのような口調でスネイプが突っ込む事は無いものの、一瞬言い訳を失って立ち尽くしていると――
「やあハリー、珍しいね」
場違いに、明るい声がした。
「ただいまセブルス。懐かしいお客さんが来てたようだね。…私達の関係もばれてしまったのかい?」
「ルーピン先生!?」
「私達の関係……?」
いつのまにか戻ってきたドラコと、ハリーは目を丸くしてスネイプとルーピンの顔を交互に見ている。ルーピンはスネイプに軽くウィンクして、笑顔でハリー達に言った。
「ほら、私は月に一度、彼に脱狼薬を作ってもらわないといけない身だからね。その度にここに来るのも大変だし、お互いがお互いの事情を知ってる者同士として、一緒にいて苦にならないし、そんなわけでいつのまにか一緒に住むようになったのさ。もっとも私は、あまり家にはいないけどね」
働かないといけないからねとルーピンは笑う。なんだそっかぁと納得したような元教え子二人に対し、スネイプはただ頷くしかない。
「……たまたま遊びに来ただけなんだけど、庭から慌ててる君の姿が見えたからさ。上手く誤魔化せただろう?」
ルーピンはスネイプの耳元でこそっと囁いた。
「とにもかくにも、私達はこれで公認だね」
馴れ馴れしく肩を組んでくるルーピンに対しスネイプは何も言う事ができず、世間話を始める元教え子達を前に、押し入れに閉じ込められたままのジェームズはさぞ怒り狂っている事だろう。
ジェームズの存在がばれなかったのは良いが。
結果が良かった、とも思えないスネイプだった…。
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