はじめての日
行為の余韻に、ぼんやり浸っている。ジェームズは壁にもたれて。セブルスは、寝転んだままでジェームズに背を向けている。見る物も無いので、ジェームズはその後姿を見つめている。ローブに包まっているとは言え、汗をかいたし、暖房器具のないこの部屋だ。剥き出しになっている薄い肩や骨の浮き出た足先から、冷えて寒くないだろうかとぼんやり思った。手を伸ばして、せめてシャツでも上からかけてやろうかなと考えたが、何故だか気後れした。ジェームズもいまだ上半身には何も着ていないが、肌に凍みる空気の冷たさが、のぼせた頭を覚ますのに丁度良い。 蒼い部屋。二人で過ごす、もう忘れかけた夜の数。 冷えた空気の中で、始まりも冷えた二人だった。 肌を重ねる事が、普通では愛を交わす行為であるというのに、自分達――いや、自分ときたら、悪意や、ただの欲求の捌け口だった。今更優しいキスをしたって、彼は許してくれないだろうか。 暗がりに誘い出して、密やかに、強制的に秘密を共有するだけの関係。 こちらに背を向け続けている彼の姿を見つめ続けていると切なくなってきて、ジェームズは身体の角度を変えて、右手を床につき、真後ろの窓を振り仰いだ。 部屋に射し込んでいた蒼い夜の光は―― 「――セブルス」 名前を呟いて、そして今度はもう少し早口で、その背中に呼びかけ直した。 「セブルス。起きて、起きて?」 自分も急いでシャツに手を伸ばし、片腕を通しながらセブルスの肩をゆする。声をかけられた段階で夢から覚めていただろうセブルスは、重たげな瞼を開け、返事もせずに怪訝な表情で振り返った。 「早く、服を着て。ちょっと外に出ようよ」 「……?」 「いいから、早く!」 包まっているローブを引っ張るように無理矢理起こし、放り出してあったセブルスの服をぽんぽんとセブルスに投げ与える。乱暴なのではなく、気が急いている。 「早くってば。ほら、荷物とかいらないから。とりあえず服着て。急いで!」 「……なんだ、急に……」 逆らう事なんて許さない。そこから始まった関係だったから、理由も聞かされず急がされるセブルスは、渋々ジェームズの言う通りに起き上がって、自分の服に手を伸ばした。 とうに服装を整えたジェームズは、じりじりと落着き無く、服を着るセブルスと、窓の外に、交互に何度も目を向ける。 やがてセブルスがローブを手に取ると、「行こう」と言って、セブルスの手を引っ掴んでグイ、と引っ張った。まだローブを羽織っただけで留めていないセブルスが、転びそうになりながら、どこへ行くのかと驚いた顔で前を行くジェームズを見つめている。 ぐいぐいと引っ張って、ぐるぐると階段を登り続ける。蝋燭だけの不安定な光が足元を覚束なくさせる。セブルスがバランスを崩しそうになる度、ジェームズの手がセブルスの手を強く引いて、なんとか転ばずに済む。セブルスが何度か文句を言おうとしても、ジェームズの視線はただひたすら、強く焦がれるように上を見ている。 やがて、尖塔状の、天辺まで辿り着く。 ホグワーツで、最も高い位置にある場所。 「こっち」 息切れを起こしているセブルスを、まったく息の乱れの無いジェームズが、さらに引っ張る。そうして、外の見えるぎりぎりの位置へ立つ。 目に映るのは、ジェームズの期待した、静かな夜空に溢れる光。 一面の。星の光。 夜の光は、明るくジェームズとセブルスに降り注いでいた。 「……綺麗だねえ」 ありきたりな感想だけが口をついた。セブルスからの返事はない。 暗がりで、光などありえない二人の関係だったから、今更きっとここから抜け出す事は無理だと思っていた。だけども、日の光が無くとも、夜にはまだこんなにも小さな、無数の光がある。 ここなら。ここからなら。 ふと、セブルスの手が、ぎゅう、と痛い程強くジェームズの手を掴んだ。そう言えばここまで引っ張ってきて、そのまま手を繋いでいた。 いつまで掴んでいるのかという抗議かと思ったら、少しセブルスの手の力が弱くなる。かと思えば、また少し力が入る。ちらりとセブルスに目をやると、星の光で、少し明るく見えるセブルスの顔が見えた。目が合うと怒ったように、またセブルスの手の力が強くなる。 そう言えば、こうしてただ手を繋いでいるのは、初めてだったろうか。 手の平と手の平がぴたりと重なっている。何度も身体を合わせているのに、妙に気恥ずかしく、熱く感じた。それでも、その手を離そうとは思わなかった。 ここから、優しく始め直せるだろうか。僕達は。 セブルスも、自分から手を解こうとはしない。ただ、躊躇いがちに力を抜いたり、思い出したように力を込めたりを繰り返している。 君も、同じ想いを抱いてはいないだろうか。 二人に似合いの静かな光の下で、手の平から感じる。 ――君。 070214 |