あたたかいひと
ジェームズの腕を押し退けて、上半身を起こした。今日は早めに戻ってレポートに手を付けたい。 「セブルス……?」 起きたらしいジェームズが、掠れた声でセブルスを見上げる。寝惚けているくせに、再び腕を伸ばしてセブルスを片手で押し倒そうと試みてきた。所詮寝惚けているので、セブルスでもあっさりと払える。 「もう帰るの?」 目を擦りながら、ジェームズは起き上がる気配を見せない。セブルスが体を起こした為にめくれたローブを、「寒い」と言ってもう一度引き寄せて被りなおした。 「寒いんならさっさと起きて服を着ろ。お前だってレポートがあるだろう」 「あるよー」 アイマスク代りに腕を目に充て、まったく切羽詰った響きの無い返事を投げてきた。 「そんなに慌てて手を付けなくても良いだろ」 「お前と私を一緒にするな。帰るぞ、ここで一晩越す前にさっさとお前も部屋に戻れ。」 「セブルス君たら心配してくれてるのー」 「……馬鹿か貴様」 もう余計な事は言うまい、とセブルスは身支度を整える。うーん、とジェームズがローブに包まってもごもごと動いている。しまった、帰る為にはジェームズからそのローブを奪い取らなければならない。敷いているローブならば、引っ張ればジェームズが転がるだけで取れそうだが、しかしそれはジェームズのローブなので意味が無い。まさかジェームズのローブを羽織って帰るわけにも行かないし。 セブルスは溜息をついて、ジェームズの横に片膝をついた。 「おいポッター、ローブを離せ」 掴んで引っ張るが、びくともしない。そして返事も無い。 「ポッター!誰のローブだと思っているんだ」 「……渡したら僕が寒いじゃないか」 大層勝手な事を抜かしてきた。 「だからさっさと服を着ろと言ってるんだ。どうしても起きたく無いなら自分のローブに包まれ」 「それは下に敷いているからダメ」 「お前何様だ……」 怒りに震えながらも、だからと言ってこのまま去るわけにもいかない。なんとかしてこの蓑虫からローブを剥ぎ取らなくてはならない。セブルスは必死にそれを力任せに引っ張ったが、ジェームズはますますそのローブの中で身を固くして離してくれない。ええい、何かこいつからローブを引き剥がす魔法は無かっただろうか、と思わず考えてしまうほどだ。 「ジェームズ!!いい加減に……」 思わず叫び出しかけたら、ローブが震えている事に気が付いた。ク、クと声が漏れてくる。笑っているらしい。 「笑っている場合じゃ……」 「名前。」 包まったローブから、ジェームズが顔を覗かせた。目がニヤリと笑っている。セブルスは不審気に眉を顰めた。 「……なんだ」 「名前。普段僕の事は『ポッター』としか呼ばないのにね。今君、僕の事『ジェームズ』って呼んだよ」 いたずらっぽい調子の言葉に、セブルスは一瞬間を置いて、そしてみるみる赤くなる。 「……知らん!!!」 大声で否定したが、ジェームズはいよいよ腹を抱えんばかりの勢いで笑い出した。 「照れなくっても良いのにー」 「だっ、誰が照れるか!!!良いからさっさとローブを返せと言ってるんだ!!!!」 「照れるような事じゃないのにー。呼びたかったら好きに呼んでくれて良いよー」 「ローブを返せ!!!!」 ジェームズはゲラゲラと笑って、よっと上半身を起こした。漸く起きあがる気になったのか、とセブルスが思ったのも束の間、 「よいしょ」 ジェームズはセブルスのローブを離さないまま、今度はセブルスを押し倒した。 「ジェッ……ポッター!!!」 自分に覆い重なるジェームズに、いい加減にしろ!と声を荒げようとして。 気が付いた。 「――」 セブルスに覆い重なり、抱きしめながら。 気持ち良さそうに、熟睡していた。 「……まだ寝る気か……」 呆れたり、人を巻き添えにして眠る様に怒りで顔を赤くしたり、とにかくセブルスはジェームズを押し退けようとその肩に手を置いた。 「……」 相変わらずジェームズはすやすやと眠っている。 セブルスに抱きついたまま、優しい寝顔で。 「……」 セブルスは、その肩に置いた手を。 「……」 ジェームズの背に、回した。 体温が優しくセブルスに伝わる。 セブルスは、そして目を閉じた。 020209 |