今までテレビなどスポーツ番組ぐらいしか見なかったのだが、最近、暇なせいか、2時間ドラマといわれるドラマをよく見るようになった。刑事物が多く、様々な名刑事が大活躍で時にはなかなか面白いものがある。
容疑者とおぼしき人物に対し、貴方はx月x日のxx時からyy時までどこにおられましたか?それを証明してくれる人はいますか?というセリフが良く出てくる。
勿論善良なる市民にはあまり関係がないセリフである。
ところで、3億円事件という事件を覚えていますか?まだ生まれてなかったという人も結構多いでしょう。今から35年近くまえに、東京の三多摩地方で、警察官の制服を着て白バイに乗った若い男が現金輸送車を巧みな演技で奪って、まんまと3億円をせしめた事件で、結局犯人がつかまらないまま時効が成立してしまったが、当時としては大事件であった。当時私の月給が3万円台だったと記憶している。今でも3億円は大金であるが当時は天文学的数字に思えたものだ。その頃私は東京都北多摩郡清瀬町(今の清瀬市)の団地に住んでいたが、野火止の平林寺に近く、武蔵野のおもかげがのこっていて、雑木林や畑が多く自然環境が素晴らしいところであった。冬は寒かったが、結核の療養所があったぐらいだから空気がきれいなところだったのだろう。事件が起こった街道はポンコツ車を運転し実家へ帰るときに必ず通る道であった。
ある日私が会社から帰ってくると、団地の階段に刑事が2名待ち構えていて、まさに上記のセリフを浴びせられたのである。事件当日は終日会社に勤務していたので、聞いてもらえばすぐわかる筈だが、なんでまた私が疑われるのかと抗議したところ、事件の発生した小金井街道にそった地域に土地勘があり、自動二輪の免許を持っている年齢が30前後の男で、モンタージュ写真に似ている人物を約3000人絞り込んだなかの一人に私がリストアップされているとのことであった。当然刑事さんも、人を容疑者扱いするからには、それなりに聞き込みなどをしてきたのであろう。

私は単に鳥や昆虫を追いかけて雑木林のなかを駆けずり回っていただけなのだが、確かに今思えば、周りの人には挙動不審に写ったのかもしれない。当時は双眼鏡を持って歩いている人自体が極めて珍しかったし、ましてオナガとか、ジョウビタキなどを追って、あまり人が立ち入らない雑木林に入って、夢中になると1時間以上も出てこないのだから、事情を理解できない人にとっては事件の下見でもしていたのではと考えるのも、ある意味では当然だったのかもしれない。このあたりの雑木林にはセミが多かった。特にカナカナカナと鳴くヒグラシの声が今でも耳に残っている。
幸いその後刑事から追及をうけることはなかったが、そのときふと思ったことは、もしこの事件が日曜日に起きていたら(当時は土曜日も休みではなかった)アリバイを立証するのに、非常に苦労しただろうということである。当時からなるべく人のいない場所を選んで、山野を歩き回ることが好きで、逆にいえばアリバイを証明してくれるような人(第三者)も極めて少なかった筈である。なにしろこの事件は犯人がつかまらなかったのだから、15年間ブラックリストから外してもらえなかったかもしれないのである。
最近、清瀬市で武蔵野の面影をのこす、雑木林を保全する計画があることがテレビで紹介されていた。画面で紹介された雑木林は、どこの場所だったかまでは思い出せないが、間違いなく過去に歩いたことのある場所のように思われた。
(2003年4月)