
JR東海道線で藤沢から約1時間,根府川の駅は、高台にあって、眼下に太平洋を望み、この路線でも一、二を争 う眺望を誇っている。今でもさほど変わっていないようだが、当時はどこか鄙びた感じが漂う駅であった。土、日の午前中、この駅で下車する人は一列車あたり 精々10人といったところで、大半はゴルファーでまれに釣り人が混じっていた。
駅から15分ほど下っていくと、海岸に出る。海岸線にそって真鶴道路という有料道路が走っているが、根府川駅 から真っ直ぐ下った地点は丁度パーキングエリアのようになっていて、食堂や売店などがある。ここから少し真鶴方向に歩いた左手一体の海岸線は一面にゴロタ 石が広がっている。この地域の石が昔鎌倉に運ばれて、和賀江島という人口の島と港が築かれたそうだが、なるほどここの石は和賀江島にそっくりである。ただ 和賀江島のように一定の大きさに選別されている訳ではないので、この石を飛び越えながら歩くのはかなり重労働であった。この一体が、根府川ゴロタといわれ る絶好の釣り場である。
もう二昔も前のことになるが、この釣り場に魅せられて、毎週のように、通ったことがあった。釣り仲間と車で行 くこともあったが、根府川駅の駅員と顔見知りになるぐらいだから、一人でバスと電車を乗り継いで通うこともかなり多かったのだろう。
釣り人口は鳥とくらべると圧倒的に多いが、海ならどこに竿をだしても魚が釣れるという訳ではないし、狭い日 本、釣れるポイントは自ずから限られている。そのためどこの釣り場でも場所を確保するための先陣争いは熾烈を極めているのが通例であるが、その点、根府川 ゴロタは、波の影響で石が絶えず移動しており、釣れるポイントも絶えず移動しているので、絶対的なポイントもないかわり、意外な場所で大釣れする場合も あって、常連の釣り人は独自に自分のポイントを見つけて、暗黙の縄張り宣言?をする傾向があるようだった。
根府川ゴロタで釣れる魚のメインはなんといってもメジナ(グレ)であり、私も狙いはいつもメジナであったが、 魚の種類がものすごく多く、カワハギとか、カサゴ、ブダイ等思いがけぬ魚が掛かることもあって、まず坊主はないという、私にとっては最高の釣り場であっ た。
メジナは40センチ以上の大物は、あまりでないが、20センチから35センチ位の形が平均的に良く釣れる場所 であった。
しかし例え魚が釣れなくても、この釣り場は素晴らしい風光に恵まれ、沖を行き交う海鳥の数が多く、イソヒヨド リの囀りや、海水を飲みにくるアオバトの姿などが見られることもあり、背中に目をむけるとハマユウやアシタバやクコやキスゲなどが風に揺れていて、心休ま る場所であった。
ただ流石に釣りとサシバ観察は両立できず、この場所でトビとノスリ以外のタカ類は観察したことがない。
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釣りとの決別はある日突然おこった。8年前の9月30日、出張で札幌に行く航空機の中で、揺れてもいないの に、突然乗り物酔いに襲われたのが、総ての始まりであった。それまで何度となく、飛行機や新幹線にのっているが、船以外は一度として酔ったことなどなかっ たのに、以来、飛行機はもとより、波頭にすら酔ってしまって、釣りも出来ない状況が今日に至るまで続いている。おまけに心臓病ときては、とてもゴロタなど 歩けないし、絶望的な気分になることもあるが、まだ完全にギブアップした訳ではない。根府川の駐車場から、海まで、最短で100メートル位だろうか?それ ならなんとかなるかもしれない?ベタ凪の日だったら、酔うこともないだろう。海釣りをするなら、どうしてもこの場所でやりたいという気が強い。それほど根 府川ゴロタは私にとって魅力的な場所なのだろう、釣りはフナに始まってフナに帰るといわれる。私も間違いなくフナから始まっているが、まだまだフナには帰 れない事情がある。実は最近鎌倉周辺でフナが釣れそうな場所はないかと大庭方面まで出かけて色々聞いてみたが、そのような場所は見当たらなかった。最近出 会ったベテラン釣師によれば、深沢中学校のそばにあった池が宅地造成でなくなって以来、適当な釣り場がなくなり、フナ釣りに、水郷方面まで遠征しているそ うである。そうとなれば帰りたくてもフナには戻れないことになる。源平池(鶴岡八幡宮の池)に竿を出したら多分フナが釣れるとは思うのだが。(2002年 11月)
月間「釣り人」=1985年3月号に紹介された私のポイント