ムササビ

今から50年近く前の話になるが、私は高校2年のとき浄明寺の杉本観音のすぐそばに住んでいた。季節ははっきりしない が、夕方鎌倉天園からに十二所神社に下る道を歩いていたときにムササビと思われる声を聞いたおぼろげな記憶がある。実はその時はムササビがどのような鳴き 方をするのかは全く知らなかったのだが、その後かなり経ってから、ムササビの生態を記録したテレビ番組で、その独特な声を聞いたとき、あのときの声は間違 いなくムササビだったと確信したのだが、いままでそれ以上の関心をもつことはなかった。

ところが最近森林インストラクターをしている友人と巣箱の話をしている時に、ムササビも巣箱を利用することを知った。鎌 倉周辺にムササビ用の巣箱をかけたら果たして利用するだろうか?現在ムササビは県内でも足柄や丹沢方面などにはかなり生息しているようだが、木に登って滑 空を繰り返しながら移動するので、それほど遠くには移動できないのだろう。となると今でも鎌倉天園や三浦半島にムササビが生息していないかぎり、巣箱を利 用することはないだろう。そんなわけで鎌倉周辺でのムササビの生息状況を調べて見たが、意外と情報を入手するのが難しいかった。


鎌倉霊園から天園を望む

まず初め鎌倉天園とは尾根続きに位置する横浜自然観察の森のレンジャーに伺ったところ、いまでも天園周辺でムササビの生態調査をしている人が数名お られるとのことであるが、今のところムササビが生息している確証は得られていないとのことであった。

その後神奈川県の緑政課に照会したところ、1973年の8月に逗子の神武寺境内でムササビが確認されたのが、最後でその後鎌倉および三浦半島ではム ササビが確認されていないとの報告が1995年に、柴田、林、武田氏によりなされているとのことであった。今から10年ほど前の調査で鎌倉天園付近でムサ ササビの声を聞いたという情報がよせられたとのことであるが、この情報の信憑性については疑問があるとの意見が多かった。

以上から見て、ムササビは50年前には三浦半島に生息していたことは間違いがないので、そうなると私が聞いた声がムササビであった可能性も十分あり うることになる。タイワンリスやフクロウの声と聞き間違えたのではないのかという人もいるが、今でこそ鎌倉周辺にはびこっているタイワンリスも50年前に は少なくとも浄明寺や天園にはいなかったし、私はフクロウの声は当時でもかなり耳にしており、フクロウとムササビの声を混同することはないという自信は もっているのだが。

ところで三浦半島のムササビは本当に絶滅してしまったのだろうか?過去30年間、ムササビの正確な観察記録がない以上、そう考えるのが妥当なのだろ うが、私は三浦半島の片隅に今でもムササビはひそかに生息しているのではないだろうかというかすかな期待感を持っている。いまだに日本オオカミや日本カワ ウソの生存を信じてそのあとを追っている人がいると聞くが、それに比べれば遥かに現実的な話ではないだろうか。

もっとも可能性のある場所は十二所果樹園に隣接する池子の森ではないだろうか?池子の森は神武寺とも近いし、長いこと米軍の管 理下にあって、人が立ち入ることは極めて困難である。私は体を壊す前、逗子の上村さん達のグループで10年以上定例的に池子の森を歩いたことがあった。正 確に言えば、私が歩いたのは、池子の森のなかにあった黙認耕作地を除けば、池子の森ではなく、森に隣接する山道であり、十二所果樹園や熊野神社などもその コースに含まれていた。そして池子の森は神武寺からも極めて近くに位置している。

いまでもムササビはきっとこの森にすんでいるに違いないと私は思いたいのだが。

                                            平成17年12月8日

観音崎にある博物館に行ってみると、ムササビの剥製が展示されていた。学芸員の人にこのムササビはどこで捕らえたれたものかを 聞いてみたら、同博物館が誕生した1953年に誰かから贈呈されたものであるとのことであったが、それが誰であり、どこで捕獲されたのかは記録がなく、 はっきりしないとのことであった。

                                            平成22年3月9日


トップに戻る。