鳴く虫の話

私は蝶やトンボなどの昆虫にはそれほど関心はないが、中学生の時以来、鳴く虫には非常に興味をもっている。今でこそ、鎌倉暮らしが定着しているが、今までに疎開も含め13回程引越しをしている。そのころは多摩川に近い東京都大田区に住んでいたが、そばに、確か永井さんというお名前だったと思うが、昆虫を専門に研究している大学生がいて、その人に何度か昆虫採取に連れていってもらったのが、鳴く虫と接するきっかけであった。そのあたりは今ではマンション街になってしまったが、当時はまだ自然が結構残っていてキリギリス、ウマオイ、クツワムシ、カネタタキ、クサヒバリ、エンマコオロギ、ツユムシ、アオマツムシなどを捕まえて、虫かごで飼った記憶がある。今ではうるさいぐらい数が多い外来種のアオマツムシも当時はかなり珍しい部類でやっと捕まえたときは感激したものだ。一匹だけだと姿も綺麗だし、声も素晴らしいと感じたものである。当時もカンタンは貴重な存在であったが、意外と数は多い虫らしい。ただいくら探しても、鳴き声をきくことは出来なかった。都会では騒音にかき消されて声が聞こえないことも多いようだ。ほかにマツムシも声をきくことができなかったが、なんとこの2種が今でも鎌倉に生息しているのである。カンタンは鳴いているところに連れて行ってもらったが、残念ながら声を聞き取ることができなかった。私は別に耳が悪いとは思っていなかったが、皆には聞こえているのに私には聞こえず大ショックであった。年をとるとカンタンの声が聞き取れなくなる人はかなりいるようだ。テープで聞いたらちゃんと聞こえるのに、実物がだめなのも不思議である。やたらとうるさいアオマツムシの声など聞こえなくても良いが、カンタンの生の声だけはどうしても聞きたいものだ。

今の家に引越してきた直後は、近くの空き地で、クツワムシやウマオイが良く鳴いていた。それが最近では、空き地が少なくなったこともあり、さっぱり声が聞こえない。サシバを観察している時、笛田公園でコオロギが良く鳴いていた。エンマコオロギは間違いなくいたと思うが、オカメコオロギ、ツズレサセコオロギ、ミツカドコオロギ等もいるのかもしれない。キリギリスは鎌倉では台峰などにいる可能性があると聞いたことがあるが、見つけたことはない。最近では秦野の震生湖の駐車場のそばで、キリギリスが沢山鳴いていたが、他ではあまり見かけない。虫といえば大体が夜に鳴くが、キリギリスだけは、白昼堂々と鳴いてくれるので、比較的捕まえやすかった。帽子とハンカチをもってよく追い掛け回したものだ。昔は夜店などでキリギリスやスズムシ等をよく売っていたが、最近殆ど目にしなくなった。私は今でも毎年鈴虫を買ってきて飼っている。卵を産ませている積もりだが、このところなぜか翌年になっても、幼虫が生まれてこない。以前は成功していたのに、なぜなのか、原因がよくわからない。アオマツムシの声に圧倒されてしまうが、クサヒバリ、カネタタキ、エンマコオロギ等は自宅でも鳴き声を聞くことができる。

秋の夜長を虫の声を楽しみながら過ごすなど、風流なことだと思うが、意外に虫の声に関心を持つ人はすくないようだ。

鈴虫が自然にいるところは案外少ないようで、私は30年程前に島根県の江津市で声を聞いた以外、自然状態での鈴虫の声を聞いた記憶がない。もっとも夜にはあまり出歩かないので、見落としているのかもしれない。京都にある鈴虫寺(妙徳山華厳寺というのが正式名称で、1723年に開設された寺で、現在は臨済宗の禅寺である。)は、以前大阪に住んでいた時、何度か訪れたことがあるが、一年中鈴虫の声を聞くことができるように、日照や温度を調整して鈴虫を飼育している。鈴虫寺のホームページによると、先代の住職が「人間は、虫のように無心になって生きていくことが大切.....」といって悟りをひらかれたそうである。鈴虫の妙音で開眼した先代に習って、訪れる人の心を洗い清めるために、28年の歳月をかけて一年中鈴虫が鳴き続ける飼育法を開発したそうで、いまでは常時2000匹から、1万匹の鈴虫が鳴きつづけているとのことである。

鈴虫もメダカなどと同様で住む地方ごとに染色体に差異があるなどの特色があり、むやみに移動させるのは好ましくないようだ。以前は郵便局で鈴虫の飼育セットなどの通販をやっていたが、クレームが出て取りやめになってしまった。

ふしぎなことに、若い頃、覚えた鳥や、昆虫や、植物、樹木などは、今でも良く覚えていて、忘れないものである。それにひきかえ、年をとってから覚えたものは、直ぐに忘れてしまう。樹木なども覚えようと努力したことがあるが、覚える速度より忘れる速度の方が速くて、教えてくれる人に申し訳なくなることがある。鳴く虫には他にも色々種類があるが、なぜか中学時代に覚えた虫以外には発展していかない。ある程度標高がたかい土地に行くと、住んでいる虫の種類もかなり違ってくる。でも鳥とは違って図鑑で調べて見聞きした虫を増やそうとは思わないのはなぜなのだろうか?

(2003年1月)

 

 

 

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