<野次馬裁判傍聴記>  

<目次>
注意書き
はじめに

第1回 銀行ネコババ事件
第2回 覚醒剤はやったがオレは無罪事件
第3回 「チカンヤローはなに言っても」事件
第4回 「家庭内ヤキトリ手裏剣」事件 

さすがは北陽一郎の事件解説
 やじきた蒟蒻問答   


はじめに


 散歩の途中、霞ヶ関に足を向けて裁判所に立ち寄り裁判を傍聴することがあります。
 特別、興味や関心のある事件があるわけでもないので、受付でその日の公判予定を見て面白そうなものを選びます。民事裁判は用語が難しかったりで、何を言い争っているのか良く解らないことがあるので、なるべく窃盗、傷害、不法就労などの軽い刑事裁判をさがします。法廷の部屋番号を確認してエレベーターに乗ります。
 最初は出入りしている人が関係者ばかりなのでなにか場違いな感じがしてとてもドキドキしましたが、裁判は公開が原則なので歓迎されることもありませんが拒否されることもありません。法廷への入退室は審理の途中でも自由ですし、名前や住所を書かされることもありません。


 みなさんは泥棒や詐欺師、殺人犯を直に見たことがありますか。新聞やテレビで顔写真を見ることはあっても、直接ナマで見たことのある人は少ないんじゃないでしょうか。
 いかにも凶悪犯という人相の人もいれば、こんな人が殺人犯なのかと驚かされることもあります。裁判を傍聴すれば犯罪者(本当はまだ公判中なので容疑者なのですが)をすぐ間近で見ることができます。、そして、直接本人から、容疑に対しての意見や現在の心境なども聞くことができます。

 
 容疑者が無実の場合は別ですが、裁判は「疑わしきは罰せず」が原則なので、たいていの場合、被告人は少しでも罪を軽くしようとして、自分に都合の悪いことはとぼけたり、しらばっくれたりします。前科数犯の犯罪のプロともなると堂々と黙秘権を行使したり、捜査の不法性を訴えたりすることもあります。
 今まで完全に否認していた人が証拠が完全でどうみても逃げ切れないなと思うと、今度は突然、殊勝な態度で反省を装い裁判官の情状を得ようとしたりすることもあります。
 それを弁護士、検察官がそれぞれの立場、役割で擁護したり、反論したりします。傍聴している僕も、今のは芝居だなとか、この人はもう再犯のおそれはないなとか、裁判官のつもりになって考えたりしてしまいます。それらはやっている人が役者さんじゃなくて本物だという違いはありますがとても演劇的な気がします。


 なにも、わざわざ自分に関係のない事件の裁判なんか見たくもない。という人もいると思いますが、僕もぜんぜん関係ないただの野次馬なのですが、どんな小さな事件にもドラマありで、裁判傍聴はけっこう面白いです。





第1回 銀行、ネコババ事件


 裁判は判決が下るまで何回か日にちを分けて公判が開かれるのが普通のようです。あまり長期間に渡る裁判だと僕のようにぶらっと立ち寄った野次馬傍聴者には事件のあらましがうっすら分かった頃に裁判官が次回公判予定を告げ閉廷ということにもなりかねません。
 そこで第1回は人定質問から判決が言い渡されるまで1回の公判で終わった事件を取り上げてみます。


被告人A、罪名 窃盗

京都府出身 31才 職業 飲食店アルバイト

 京都の服飾専門学校を卒業後、上京。都内のアパレルメーカーに勤めるが希望のデザイン部門に配属されなかったので会社に嫌気がさし1年で退職。以後アルバイト。新宿区在住。

  身長165cmぐらい、痩身。髪の毛を茶パツにしているが拘留が長いためか根元から半分ぐらいが地毛で黒くなっている。紺のジャージの上下にサンダル履き。甲高く、か細い声のためずいぶんおとなしく気が弱そうに見える。年齢は実際より5才位若く見えました。

 事件のあらましは、Aが銀行に貯金を下ろしに行ったところ、キャッシングの機械の上に封筒を発見。中を覗くと一万円札の束。
 回りに誰もいないのを確認してポケットに入れ、家に持ち帰り中身を調べるとなんと50万円。ヤッター。20万円は洋服を買ったり飲み食いしたりして使い、残りの30万円を郵便局に貯金する。
 だが、不意のお金を手にしたAの喜びも束の間、銀行に設置されているビデオカメラから犯人が特定され、あっけなく逮捕。
 拾った金、いわばアブク銭を郵便局に貯金するというのもせこいが、使った金と貯金した金の比率が2対3だったというのも、かなりせこい。

 裁判は冒頭の罪状認否でAが全面的に犯行を認めていたので、審理は情状面に絞って進められました。
 検察官はAがブランド品を買うのが好きだということを理由に生活態度が悪いと言いました。裁判官はAが職場で本名と違う名前(姓名の「名」のほう)を使っていることを問題にしました。(どうやら、偽名を使うというのは情状面でマイナスらしい)Aは姓名判断の人に見てもらったら変えたほうが良いと言われたのでこうしてますと答えました。
 若いくせに変な奴だな、そんな弱気だからこんなことになちゃうんだ、と僕は思いました。 

 次に傍聴席に座っていた被告の母親が証人として呼ばれました。 
 「Aは母親の身体を気遣う手紙や仕送りをいつも送ってくれるとても親孝行な息子だ。今後は京都に連れ帰って自分の経営する店を手伝わせたい」

 とさっき廊下で弁護士の先生と打ち合わせをしたとうり証言をしました。Aは被告人席でジャージの後ろポケットからハンケチを取り出し目頭を押さえました。
 検察官の求刑は懲役2年でした。僕はAは初犯、事件もほんの出来心のネコババ。それも、全額弁済したというし、こんなに反省しているんだからもうちょっと軽くしてやってもいいんじゃないのと思いました。
弁護人が
 「Aは逮捕直後、弁護士は国選でなく職場の人が会社の嘱託の弁護士を付けてくれるというので待っていたのだが、その後何の連絡もなく拘留が長期化(2ヶ月)してしまった。母親もわざわざ京都から出てきていることだし、何とか今日判決を頂けないか」
 と裁判官に頼みました。
 裁判官は「それでは10分後に判決します」といっていったん閉廷になりました。
 僕はどんな判決が下されるのか知りたかったのですが、Aの母親と傍聴席に二人っきりになってしまい。母親は僕のほうをジロジロ見るし、今にも話しかけてきそうなので居づらくなって法廷を出てしまいました。
 
 それにしても、ついていない奴だ。あんなことで刑務所へ入れられたんじゃ堪んねェな。銀行はネコババにはむかない場所だなと、僕はひとり地下の食堂でさめた中華丼を食べながら考えたのでした。


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第2回 覚醒剤はやったがオレは無罪事件

 

 当日はオーム事件、麻原彰光こと松本智津夫の公判があったため、入口が職員、関係者用と傍聴者用のふたつに分けられ、数人の警察官が重々しく警備していた。職員は身分証明書を提示、傍聴者は飛行場にある金属探知器のようなもので手荷物検査を受ける。
 こんな事とは知らなかったので、カバンの中にはタオルや石鹸の銭湯お散歩セットと一緒にカメラ、テープレコーダーが入っている。どちらも法廷には持ち込み禁止なので取り上げられるかとドキドキしたが探知もされず、カバンの中身を見られることもなく無事入口を通過。
 私はオーム事件のようなメジャーな公判は傍聴する気がないので受付で公判予定表を見、530号法廷の覚醒剤取締法違反事件へ向かうことにしました。

 傍聴者は途中、この法廷での次の公判を待つ弁護士がのぞきに来たのを除けば私を含めてわずか2名。
 開廷を待つ間、もう一人の人が新聞を読んでいたら、職員から注意を受けました。(新聞は読んでちゃ、いけないみたいです)


被告人 O、罪名 覚醒剤取締法違反

静岡県出身、37才 無職、現住所 大田区蒲田 前科5犯

漬け物石のような頭に切り株のような太い首、場慣れしているためか、終始、堂々とした態度。一見、暴力団員ふう


 刑務所を出所後、友人の家に居候をしながら職をさがしていたが、ある日、その友人宅が家宅捜査(用語が正確じゃないかもしれませんが、要するにお巡りさんが急に訪問してきたようです)を受ける。身体検査をされると、腕には注射針の跡、ズボンのポケットからは覚醒剤が発覚。署に連行され尿検査を受けると覚醒剤を使用していることが判明。

 ここまで証拠が揃っていれば特に争点はないのかなと思っていたら、驚いたことに冒頭の罪状認否でいきなり、Oは不法な逮捕なので、今日は認否を留保したいと言出しました。裁判長(きれいな30代ぐらいの女性でした)が問いただすと、弁護士(70才ぐらい白髪に老眼鏡)が捜査は令状もなく、交通違反の取り締まりと同じ任意のはずなのに、強引に腕をまくられたり、ポケットを調べられたりした。起訴事実は認めるが、不法な捜査での逮捕なので被告は無罪ですと主張。
 なんか、小学生の言い訳のような強引な屁理屈だなとあきれていたら、裁判長が「それでは次回公判に事件を捜査をした警察官を証人として呼び、今日は閉廷でよろしいですか」
 と弁護士に聞いた。すると被告人は少しあわてて、弁護士の方に振り返り内緒話を始めました。弁護人は傍目に見てもなんだかやる気がなく、どうでもいい様子でしたが、被告人Oはこのままじゃちょっとまずいなと思ったのか、認否は留保のまま審議を続けることを要求しました。
 ですが、審議といっても裁判官が
「鑑定結果には同意できますか」
 と聞くと弁護士が
「本日は答えません」
 というようなこと事の繰り返しで何の進展もありませんでした。
 そんなことでいつの間にか予定の時間になり裁判長が次回公判予定を告げ閉廷になlったのでした。
 
 帰宅後、、あんな屁理屈が通るわけはない往生際の悪い犯罪者だと思い、犯罪方面に詳しい、飲食店経営、元暴力団員の友人ゲンちゃんに電話してみました。するとゲンちゃんは
「あのな、不法な捜査で得た証拠は証拠能力がないの」
 と教えてくれました。
「だったら無罪かよ」
「あんな奴は飲み屋でなんだかんだ因縁つけて勘定をふみたおそうとしている客と同じなんじゃないのかよ」

 と私が聞くと
「バカか、じゃあ、おまえ試しに酔っぱらって飲酒運転の検問にひっかかったとき、令状がないから検査は受けないって言ってみな」
 ゲンちゃんが言うには仮に捜査が違法であってもそんな場合は違法じゃなくなるのだと言うことでした。
 私は何でもかんでも杓子定規に事が進まないことを確認し、そりゃ、そうだろなと
思ったのでした。
 どんな判決がでるのかまだ分からないので早計かもしれませんが、僕は被告人には無罪を主張するのではなく
「あのお巡りが此処に来て詫びを入れない限り、オレは何もしゃべらない」
と言ってほしかったです。そうすれば、僕もすぐファンになったのに、オシイ。
 やっぱり、ギャラリーが少なかったせいかな。 


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第3回 「チカンヤローはなに言っても」事件



まだ裁判を傍聴し始めの頃、「猥褻出版物、映像販売」容疑の公判を傍聴したことがあります。
そのときの容疑者は新宿のポルノショップの親父だったのですが、まるで小沢昭一演じるエロ事師たちのスブやんさながらで、公判ではひたすら平身低頭していたのですが執行猶予の判決がおり、身柄が解放されるやいなや(この時まで、執行猶予の判決が下った被告がその場で解放されるということを知らなかったのでだいぶ驚きました。結局、私はこの被告と一緒に同じエレベーターで1階まで降りる事になりました)傍聴に来ていた同僚らしき男と自分の留守中の事や、これからの仕事の打ち合わせなどをして、先ほどの公判中の沈み込んだ顔とはうって変わった笑顔で
「実刑にならなくてホッとしたよ、だけどもうちょい、執行猶予が短かけりゃいいのにな」
なんて図々しく話していました。
まるで反省のないこの親父のたくましさに、つい私は、今日は良いものを見た。裁判傍聴はやはり面白いな、と思ったものでした。

と言う訳で、今回は二匹目のどじょうを狙って、下ネタの裁判を傍聴してみました。


被告人 S井J 34才 警備会社勤務、独身
罪名  強制猥褻

身長175cm前後、襟首のボタンをきちんと止めたダンガリーシャツに真新しい紺のジーンズ
短めの髪に黒縁のメガネ、ちょっと真田弘之に似た二枚目。
高校を中退後、いくつかのアルバイトを経て現在の警備会社に就職.。
以後、勤続13年。


警備会社の夜間勤務を終えた朝、被告人S井は秋葉原に立ち寄ってから帰宅しようと川崎駅から東海道本線に乗車する。列車が動き出すとまもなく通学途中の女子高生に痴漢行為(下着の中に手を入れ陰部を触ると検察官が表情も変えずに言っていました)を働く。S井の行為に堪りかねた女子高生が声を上げ、周囲の人に取り押さえられ品川駅で駅員に引き渡される。

検事 「あなたは川崎駅で何本か列車を乗り過ごしていますが何故ですか」

S井  「ホームは非常に混雑していて、何本か列車を待たないと乗れない状態でした」

検事 「秋葉原にはどんな目的で行ったのですか」

S井  「ラジコンの部品を買いに行こうと思いました」

検察官の淡々とした口調の質問にS井は悪びれることもなくきちんと正面を向いて答えます。
これが、就職の面接試験なら話は別なのかもしれませんが、今、目の前にいる男は突然見知らぬ女子高生のパンツの中に手を入れて逮捕された強制猥褻の容疑者です。
そんな男がきちんとした受け答えをすればするほど、何故だか、“この、チカンヤローがいっちょ前に・・・”という思いが湧いてきます。
なにが、ラジコンの部品だ、どうせ痴漢目的で獲物を物色してたんじゃないのか、なんて思ってしまいます。

まだ20代後半と思える若い弁護人は、なんでオレがこんなチカンヤローの弁護なんかしなきゃなんねェんだよという態度で弁護というよりは叱りつけるように詰問します。

弁護人 「あなたは病弱なお母さんが三度も面会に来たことをどのように考えているんですか、もし本当に反省しているのならどんなふうに反省しているのか言ってください」

S井   「私は警察官の方からこのような行為にあった被害者が登校拒否になり学校を中退してしまうことが多いと聞き、自分も家庭の事情で高校を中退したこともあり、今はずいぶん悪い事をしてしまったと思っています」


被害者と自分を一緒にするな。なんだか、痴漢は何を言っても心証を悪くするような気がします。法律用語を使えば、チカンヤローが偉そうに・・・・。横文字を言えば、チカンヤローが生意気に・・・・。
この種の犯罪の場合は、何を聞かれても頭を垂れて
「すいません、魔が差しました」
とうなだれて繰り返し言うしかないと思います。(ウソでも)
そうすれば、ひょっとしたら、女子高生もあんな短いスカートを履くのは拙いとか、キャバレーのホステスじゃないのだから変な化粧はするなとか思う人もいたかもしれません。

求刑、1年6ヶ月。
検察官は「この種の犯罪予防のためにも厳罰を」と言っていました。

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第4回家庭内ヤキトリ手裏剣」事件

被告人  K田T  

罪名   傷害罪
現住所、東京都葛飾区 年齢31才
職業  トラック持ち込みの運送業、自営。
高校中退、毒物取締法違反の前科有り

身長165cm位、がっちりした体格、背広にネクタイ、頭髪はパンチパーマの伸びた感じ。背広を着ていたのでこの日はそうでもなかったが、たぶん作業服を着ていればいかにもトラックの運ちゃんという感じ。
在宅起訴のため、サンダルではなく革靴を履いていたのが印象に残りました。


k田は1才のときに両親が離婚。その後、母親に育てられるが中学2年生のときに母親が再婚。
高校中退後、義父の経営する運送会社に就職。今はその義父の会社にトラックを持ち込んで運送業を自営。
2年ほど前、k田は近所のスナックでアルバイトをしていた幼なじみのM子と偶然再会する。(どうでも良いことかもしれませんがM子はk田の初体験の相手だそうです。・・・・・取引先会社社長証言)
M子はその当時、結婚生活がうまくいっておらずk田にいろいろと相談を持ちかける。そのM子の離婚の相談がきっかけで2人は急速に親しくなる。その後、M子はすぐに前夫と離婚、k田との同棲生活に入る。そして、昨年の2月に入籍。
M子には前夫との間に子供2人がおり、犯行当時はその2人の子供と親子4人暮らし。
現在、M子との間に離婚調停申し立て中。(M子慰謝料3000万円要求)


1日の仕事を終えたk田が午後10時ごろ自宅に戻ると、二人の子供と一緒にすでに食事を済ませたk田の妻M子が食卓でビール(350cc缶、2本)を飲んでいた。
k田はテーブルの上にあった晩御飯の残りのヤキトリをつまみながら、妻にもう少し小遣いを上げてくれないかと相談する。すると、妻M子は
 「家にはそんな余分なお金はない」
 とk田の頼みを聞き入れてくれる様子がない。
k田は収入は妻が全て管理しているので家計が今どういう状態なのか詳しくは分からないが、早朝から夜半まで休みなく働き、収入も5,60万あるはずなので、
 「そんなわけはないだろ、貯金通帳を見せろ!」
 と妻と口論になる。
妻M子が貯金通帳を投げつけたのに、カァっとなったk田はとっさに食べていたネギとヤキトリ付きの長さ14,1cm、重さ11gの串をM子に投げ返す。するとその投げ返したヤキトリの串が運悪くM子の右目に突き刺さってしまう。
すぐに救急車を呼び、その後、2度の手術をしたのだが妻の視力は回復せず、現在、M子の右目は、ほぼ失明状態。


裁判の開始時刻になると、私の隣の傍聴席に座っていた男が自分からすーっと被告人席の方に歩いて行きました。通常、被告人は手錠に腰縄をうたれて傍聴席とは反対側のドアから警察官に連れられて登場するのですが、この事件は在宅起訴のためか、どうやら被告人は自宅から自分で法廷にやって来たようです。
ついさっきまで私の隣の席に座っていた男が傷害事件の容疑者だなんてちっとも思ってもいなかったので私はちょっと驚きました。

後になってなんで傷害罪をあさり認めてしまったんだろと私は思ったのですが、被告人が罪状認否で犯罪事実をあっさり認め、検察官の提出した証拠書類(犯行に使われたヤキトリの串の写真もありました)にも弁護人が簡単に同意したので審理はすぐに情状面に進みました。

被告人の義理の父の友人で、被告人を中学生の頃からよく知っているという取引先の会社の社長が情状証人として証言台に立ちました。この人は冒頭陳述で被告人Kがギャンブル狂いの暴力的な夫と言われたのにだいぶ反発を感じていたようで、kの日頃の仕事ぶり、生活態度について詳しく話しました。
仕事はめったに休まない事、小さなトラックから仕事を始め、徐々にローンで大型トラックに買い換えていったという堅実な性格、ギャンブルもたまの休日に競馬か麻雀をやる程度で、何年か前に一度、同僚から7万円借金したことがあるがすぐに返済した事。

私も冒頭陳述を聞いた直後は、前科者のギャンブル狂いの暴力亭主かと思ったのですが、この社長の話を聞く限りではk田は若いときちょっとグレてたけど、今は仕事いっぺんとう、定期入れに子供の写真なんか入れてるような、よくいる家族思いの大型トラックの運ちゃんのようです。

ちょっと被告人の印象が変わったところで、k田の母親が証人として呼ばれました。通常、加害者の親が情状証人で証言する場合は罪状を被告人に代わって詫びたり、釈放後は二度とこのような犯行を犯さないように充分監督しますなんて言うのが普通だと思うのですが、この母親は被害者である被告人の妻M子にどうもあまり好感を持っていないようで、
「私はこの結婚には初めから反対でした」
なんて公判とは直接関係ないことを言っていました。

次に被告人が証言台に呼ばれました。

「10万円の小遣いというのは決して低い金額ではないと思いますが」

「朝、家を出るのが午前5時、家に帰るのが夜の10時前後なので、大半は食事代です。大型トラックが駐車できる食堂は限られますし、昼と夜は必ず外食なので食事代は結構かかります」

「あなたは今、奥さんとお子さんとは別居中なのですか」

「はい、私は追い出されたんです。ある日家に帰ったらドアの鍵が付け替えられていて中に入れてもらえなくなりました」

「ヤキトリはあなたが持ち帰ったものですか」

「いいえ、近所の焼鳥屋で売っているヤキトリが好物なので、ヤキトリを買ったときは私にも残しておいてくれと妻に頼んでいたものです」

この質問は犯行のヤキトリがk田が凶器として準備したものかどうかを確認したのでしょうか?

弁護人の質問は犯行そのもの事よりもk田とM子の結婚生活の事が多く、刑事裁判というより離婚調停という感がありました。
k田も正面切ってM子を非難するというのではないのですが、自分は酒を飲まないのだが、M子は昼からビールを飲んでいることがよくあったとか、犯行後、私が家でマンガを読んでいると、M子は“目の見えない私への当て付けか”と怒りだしたりしたとか、オレも悪いけどあいつだって、というような証言をしていました。

そんな証言がしばらく続いた後、裁判官が
「あなたはこのような刑事裁判で加害者が被害者を非難すると言うことがとても異常な事だということが理解できまっすか」
とk田に諭すような調子で言いました。k田は黙ってうなずきました。


たぶん、この事件はk田とM子の夫婦関係がうまくいっていれば起訴される事もなく、「不幸な事故」で済んでいったように思えます。仮にk田が刑事罰を受けたとしてもM子には恨みをはらすということ以外、なにも得る物がないように私には思えるのですが。

それにしても、ヤキトリの串を投げたって、まさか目に刺さるなんて普通、誰も思わないよね。そんなんでもやっぱり傷害罪なんだろか?

さすがは北陽一郎の事件解説へ
     やじきた蒟蒻問答へ

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