超精密印刷について


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髪の毛1本の太さは約70ミクロン(1ミクロンは1/1000ミリ)ですが、その約1/5の15ミクロンの非常に微細な印刷が印刷技術の進歩により可能になってきております。半導体分野やフラットパネルディスプレイの分野で従来のフォトリソ法(写真と同じ原理、感光性樹脂を露光、現像する事でパターンを形成する)から安価で大型化に向いた印刷法への取り組みが始まっています。最近の超精密印刷技術について分かり易く紹介します。

★版の種類について

★オフセット印刷について

★表面張力について

★シリコンゴムについて

★表面張力とインキ転移性について

★Zettlemayerのインキ転移理論

★印刷サンプルについて

★凹版オフセット印刷法の特長について




【版の種類について】印刷には言葉は知っていても具体的にどうやって印刷が行われているのか分からない人も多いかと思います。はじめについて印刷の版について説明をします。版は大きく4種類にわける事ができます。(下図参照)
版の種類について

これらの版の中でも凹版は非常に解像度(どこまで微細にできるか)が高く、インキの膜厚みを調整する事が容易であるために精密印刷に向いた版形式であると言えます。

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【オフセット印刷について】
オフセット印刷とは一度は聞いた事があるかと思います。オフセット印刷はオフとセットの2つの言葉が合わさったものです。版についての説明をしましたが印刷には必ず版が必要です。(電子写真方式つまりコピー機は感光体のドラムの上をレーザー等で版に相当するパターンを描画しますので版は必要ではありません。)版にインキを付着させてそのインキを直接被印刷体へ転写せずにいったんゴム等の弾性をもったシートの上に転写(版からインキが離れるのでオフと呼びます)させてから次に被印刷体へ転写(インキが被印刷体へセットされると呼びます)するので併せてオフセット印刷と呼びます。ここで弾性のあるゴム状のシートはブランケットと呼びます。
版として凹版を用いた場合には凹版オフセット印刷と呼びます。平版を用いた場合は平版オフセット印刷となりますが、この場合は慣例的にオフセット印刷を指すことになります。(下図参照)
凹版オフセット印刷法 オフセット印刷の最大の特徴はインキを版からゴム等の弾性のある中間転写体へ転写後に被印刷体へ転写させるため被印刷体が非常に固いものでもまた多少厚みのばらつきがあっても弾性体が変形することで均一にインキを被印刷体へ転写する事ができる事である。このため現在でも最も広く用いられている。

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【表面張力について】
コップ一杯に注がれた水がコップから盛り上がってもこぼれない現象は一度は見られた事があると思います。水が広がらずに丸くなろうとする力をもっているからです。水は無重力状態では球状に丸まります。球が最も表面積が小さいからで全ての液体は水と同様に自ら丸まろうとする力を持っております。表面張力が大きい液体ほどこの丸まろうとする力が大きくなります。では固体では表面張力はどのように定義するのでしょうか?正確に表現すると難しくなりますが、固体は液体よりもさらに強く丸まった(凝縮した)状態と考える事ができます。固体の場合にはあるエネルギーを与え、この凝集を分解させる事で必要なエネルギーの大小で表面張力を定義しています。実際には予め表面張力のわかっている試薬を固体表面に滴下し、その試薬と固体表面との接触角を測定し計算式から表面張力を算出しています。詳しくは表面張力解析ソフトのページに説明しておりますのでご参考下さい。
表面張力 固体表面の中で各種高分子材料の表面張力についてプロットしたのは上図です。この中で通常オフセット印刷に用いられているNBR(アクリルニトリル・ブタジエンゴム)は表面張力が約38dyn/cmです。一方シリコンゴムは約20dyn/cmとNBRの約半分の表面張力しかありません。

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【シリコンゴムについて】
下図にシリコンゴムとアクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)の分子構造を示します。これらのゴムはオフセット印刷のブランケットとして広く使用されています。シリコンゴムは耐熱性や耐候性に優れた高分子でその秘密はSi-O-Siの結合にあります。この酸素を含むエーテル結合部分は自由に回転ししかも強固な結合を有しているため低温になっても結晶化せず、高温でも切断する事がありません。しかもコイル状になっているために分子間の距離を十分に確保する事が可能で柔軟性が向上します。
シリコンゴムとNBR コイル状の主鎖からメチル基(CH3)が2個外側に向いて配置しています。このバルキーなメチル基が表面に表れているため表面張力が小さくなっています。一方アクリルニトリルブタジエンゴムはきわめて極性の大きいアクリル基(C≡N−)をもっており、そのため耐溶剤に優れた特性を示します。一方極性が大きいために表面張力は比較的大きくなっています。

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【表面張力とインキ転移性について】
ここからが超精密印刷の本題に入ります。いままで版方式として凹版を用いる事で解像度の高い精密な印刷が可能であることを説明いたしました。さらに版からいったん弾性のあるブランケットへインキを転写させたのちに被印刷体へ転写させるオフセット印刷が均一な印刷が可能である事も説明いたしました。ここでインキの転移について少し考えてみましょう。
表面張力とインキ転移性について 左端の凹版にインキをドクタリングし、凹部の部分のみにインキを入れます。つぎに凹版からブランケットへインキが転移します。ブランケット上のインキはさらに被印刷体であるガラス基板へ転移します。この際にブランケットの表面ゴムの表面張力がインキの転移性に大きく影響を及ぼします。表面張力の大きい、すなわち濡れやすい表面のブランケットを用いた場合(上)はブランケット上のインキが被印刷体へ転写する際にブランケット上と被印刷体上に分断されるために印刷形状が乱れ、部分的にはピンホールが発生します。またブランケット表面の濡れ性が良いために凹版上の部分的な書き取り不良がそのまま被印刷体へ転写し、非画線部の汚れが発生します。このため精密な電子回路やディスプレイの印刷には向いていません。表面張力の小さいブランケットを用いた場合(下)はブランケット上のインキは被印刷体に全く分断せずに転写します。このためブランケット上の形状がそのまま再現され、非常に綺麗な印刷が可能です。それでは表面張力は小さければ小さいほど良いのでしょうか?答えは違います。表面張力が小さくなりすぎると凹版からインキを受け取る能力が劣ります。つまり凹版からインキが転移しにくくなります。そのため転写速度を非常に遅くする必要があり、生産性が悪くなります。そのためインキ材料とセットで最適な表面張力を持ったブランケットの設計がきわめて重要になります。

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【Zettlemayerのインキ転移理論】
すこし難しい話になりますがインキの転移についてZettlemayerの理論について紹介します。Zettlemayerは印刷のニップ部分(Nip)のインキ内部の圧力について調査を行いました。ニップ内部はニップ入り口からすこし内部に入ったところで圧力が最大になりニップ中心部へ向かって徐々に圧力が低下し、ニップ出口部分では圧力は負圧になります。このためニップ内部でインキ中にキャビテーションが発生し、そのキャビテーションが増幅することでインキが分断するとしています。
それではインキが分断せずに被印刷体へ100%転写する条件はどのような条件でしょうか?それはインキとブランケットとの接着力、これを付着仕事量とすると付着仕事量がインキ内部の負の圧力よりも小さい場合にインキはブランケットから引っ張られて(負圧のため)完全にインキがブランケットから剥離し100%被印刷体へ転写することが可能になります。付着仕事量の式には濡れ角の余弦とインキの表面張力が含まれておりますので濡れ角は出来るかぎり大きく、インキの表面張力は出来る限り小さい方が好ましい事になります。

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【印刷サンプルについて】
実際に凹版オフセット印刷法で印刷した超精密印刷物を紹介します。左図は線幅20ミクロンで40ミクロンおきに並んでいます。従来はフォトリソグラフィ法(写真法)でしか再現できなかった微細な形状も非常にシンプルな印刷法で可能になってきてます。
印刷サンプル 印刷サンプル

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【凹版オフセット印刷法の特長について】
最後に凹版オフセット印刷法の特長について少し説明します。印刷法全般に言えることなのですが、特に凹版オフセット印刷は膜厚の厚い印刷を行いますので印刷の方向に対しては非常に綺麗なパターンを再現する事が可能なのですが印刷横方向については形状が乱れる傾向があります。インキの物性やブランケットの表面濡れ性を調整し形状の最適化を行う必要があります。
次に大きな特長の一つである印刷膜厚みについてご説明します。凹版オフセット印刷法は凹版の深さを調整することでインキの膜厚みを制御する事が可能です。下図では深さ5ミクロンの凹版を用い試験を行った例です。またブランケットの表面ゴムにシリコンゴムを用いる事で1回印刷した上をさらにもう1回印刷してもインキがブランケットへ逆転写することがありません。そのため途中に乾燥等をいれずにWET ON WET印刷が可能です。2回重ね印刷した例も参考までに挙げておきます。
非常にポテンシャルを持った印刷法ですが実用化への検討は始まったばかりです。日本はこの分野でも世界的にリードしていますが今後さらに開発が進みさまざまな分野で実用化が期待されています。

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