ポストドクター

研究者になるためにはほとんどの人が博士課程まで進みますが、
卒業するのは27,8才で浪人したり、期間内にドクターが取れず
年数をオーバーしたりするとあっという間に30才近く、あるい
は越えてしまいます。しかも研究職のポストがなかなかあいて
いないこと、また最近、研究者を初めからパーマネントで採る
のではなく、2,3年の契約期限付きのポストドクターというポ
ジションで採るのが主流になりつつあるのこともあって、30才
過ぎても定職に就けない研究者がたくさんいます。しかも、ポ
ストドクターを増やそうという政治的な動きも出てきています。
その理由は
1. アメリカではポストドクター制度があり、大勢の野心的な
若手研究者がいること、
2. ポストドクター中に成果が上がらないと次の職が見つから
ないため、ポストドクターを経験することで研究者が必死で
仕事をし、若手研究者の育成につながること、
3. 研究者を採用する側もポストドクター中に、その研究者が
仕事ができる人かどうか確認できる。
というようなものです。
一見すばらしい制度にも見えるのですが、いくつか疑問点も
あります。
1. アメリカではポストドクター制度は研究者の育成のために
あるのではなく、研究を進めていく上で臨時に研究者が必要に
なったときのためのものであること、研究職に限らず、職を
替える傾向にあるため、ポストドクター終了後に、研究以外の
職もあること、などです。
2. 新しい環境に来て、2,3年で成果をあげるためには短期間
で成果の上がるテーマをやる必要があり、時間のかかる難しい
仕事はやっている暇がないため、本当に研究者としての育つの
か疑問。
3. 受け入れる側が、研究者がポストドクター中にいい仕事を
したと認め、採用しようと思っても、受け入れ研究者には採用
権がないため、パーマネントの職を得ることは難しい。ポスト
ドクターが入れ替わり立ち替わり来たときに、実験装置の使い
方などを指導する必要があるが、日本の研究所にはテクニシャン
のような人がいないため、研究者がポスドクの実験指導をする
ことになり、研究時間を相当割かれることになる。また、ポス
ドクは成果を上げる必要があるため、装置のメンテナンスなど
の雑用をしている暇はない。ポスドクが増えることでパーマネ
ントの研究者の研究時間が減ることになる。研究システムをど
うするかという議論無しに、ポスドクを増やすのは危険。また、
ポスドクが増えても研究職の枠は減る傾向にあり、ポスドク中
に成果をあげても就職が難しい。さrない日本では職を変える
風潮がまだ少ないため、30過ぎてからの転職は難しい。

このような制度に対する意見をまとめました。

私の書いたバウダンダリーの記事から(第9回)
 任期が限られているといえば、最近、研究所でもpost docerの採用が
声高に叫ばれています。ドクターを取ったあと、post docerで経験を積み
、何カ所かで仕事をして業績を出し、その業績が認められればパーマ
ネントの職を得ることができるというシステムです。このシステムに
はいろいろ意見がありますが、私個人の意見では、このシステムは女
性にはなじみません。ドクターを取るのは順調にいっても27才です。
そのあと、post docerを1,2年の契約で転々としていたら(しかもその後
パーマネントの職を得られるという保証はない)子供を産んでいる暇は
ありません。最近は医療が進んでいるといっても、多くの女性は子供を
産むタイムリミットをなんとなく、35才くらいに感じています。実際に
は35才を過ぎたからといって、突然高齢出産の危険が増えるわけれは
ありませんが、いろいろなトラブルが起こる確率はじわじわと増えて
いきます。また、子育てに要するエネルギーを考えるとある程度の年
齢で子供を持った方がいいのは言うまでもありません。しかし、適当
な年齢で子供が欲しくても、任期があればその中で出産してかつ成果
を出すのはかなりの根性と精神力が必要です。もしそれをやり遂げる
だけの根性と精神力があっても、出産のための2,3ヶ月のブランクをど
う評価されるか、また、幼子を抱えた女性研究者(男性研究者の場合
は問題ありません。だれもその男性研究者が子育てに時間が取られる
とは考えないからです)をpost docerやパーマネントの研究者として雇
うところがどれだけあるか、を考えるとやはり出産はためらわれます。
制度的にも、例えば、特別研究員では、初めの6ヶ月は有給休暇はあり
ませんし、病休も認められていません。当然産休の必要性など誰も考
えません。私が32才で子供を産むことができたのはパーマネントの職
にあり、産休もあり、産休をとっても首にならず、それまでやってい
た研究テーマを誰かに取られることもないとわかっていたからです。
それでも子供を産もう、と決心したのは研究所に入ってから2年半たっ
てからです。この2年半の間に、大した成果を出さなかったにせよ、そ
れなりに仕事をやる気があることは示せた、と思ったからです。それ
がなければ出産に踏み切ることはできませんでした。ですから、1,2年
契約のpost docerで、その任期途中で出産するのは勇気がいります。ま
して、日本では欲しがりません勝つまでは、的な発想があり、パーマ
ネントの職を得るまでは結婚ですら難しい状況です。しかし、たとえ
任期が限定されていようと、プライベートはプライベート、post docer
の立場でも充実した私生活があってもいいはずです。post docer の評価
が、産休を取ったことで下がらず、産休以外の日数でどれだけ優れた
成果をあげたかということでされればいいと思うのですが、男性にい
わせれば、post docerの間は私生活を犠牲にしてでも必死で成果を出す
大切な時期だから、出産なんてもっての外、ということになりそうです。
世間では結婚して親から独立している人達の方が多い年齢になっても、
親のスネをかじってやっとドクターを取り、それでも、まだ人並みの生
活が許されないとしたら、研究者にはなるもんではないですね。こんな
事を言うと、研究者とは私生活を犠牲にして24時間研究のことを考える
べきだ!と偉い先生方に怒られそうですが、私は、サラリーマン研究者
と馬鹿にされてもいいから、人並みの生活をしながら研究をやりたいと
思っています。24時間研究の事を考えたい方々には結婚などせず、研究
に没頭していただきたいと思います。

Sango_souさんから(1/6/2001)
yomogiさん、こんばんは!さっそくバウンダリー(産休)を読ませて
頂きました。議員の産休からPD制度について私も全く同様のことを考
えています。私がなぜPDでいながら子供を作る決心をしたかというと
「学振」の立場であったからです。この制度では出身大学に所属してい
るだけで受け入れ研究機関のラボには直接雇われておらず、むしろ手弁
当(給与および研究費)付きで自分のテーマを持ってやってくるので誰
にも迷惑かけないという要素があったからなのです。もし、これが通常
の雇われているPDだったら...恐らく二人目は難しいことであったでしょう。
しかしながら、「学振」には産休および育休制度がなく、とにかく1ヶ
月以上休んだら首というシステムなので如何にこの問題をクリアしてい
くか目下我々家族の大きな問題です。今の日本のシステムからして、常
勤の研究員や大学の職員の枠を減らし、期限付きにしていきつつある中
でPDが今後パーマネントの職を得られることはとても難しいのに、PD
1万人計画に巻き込まれ将来設計のないままにいったい我々の老後はど
うなるのか、非常に不安で心許ないです。また安定した職を得てから結
婚、出産という時代はもう終わっていると思います。そんなことをして
いたらせっかくの縁も、繁殖時期もあっという間に失われてしまって、
いったい自分は何のために、誰のために生きているのか、これが幸せな
人間に一生なのか、などいろいろ考えます。
安定した家庭を持ちながら充実した仕事を願える時代が来ることを常に
願って止みません。

Sango_souさんに対する私のコメント(1/8)
バウンダリーの記事は、心のどこかで、やっぱり甘いといわれるかな、
と不安な部分もあったのですが、Sango_souさんの意見を読んで、あ
らためて自信がつきました。ほんとそうですよね。パーマネントの職
を得るのを待っていたら、縁を失って、一生独身ということになりか
ねません。一人前になるまでというけれど、ドクターを取るまでにさ
んざん苦労しているんですよね。それを認めてもらえないのも悔しい。
何より腹立たしいのはポスドクを増やそうとしている人たちは、ポス
ドクの経験がなく、すでにパーマネントの職を持って悠々としている
(しかもたいして実績がなかったりする)ポスドクで苦労したといっ
ている男性も、ポスドク中に結婚していたり、子供ができていたりする。
その後職を見つけて転々としても、家族がついてきていますからね。
 とりあえず、sango_souさんはつくばでお仕事されているわけです
し、学振が終わってもつくば内ならそれなりに仕事はあると思います
からパーマネントを得るまであきらめないで下さいね。産休1ヶ月と
いうのはきついけど、家事なんかはご主人に任せて仕事だけ、少しず
つ(フルタイムでなくてもいいんでは?)始めて下さいね。決して無
理しないで。私の友人でも1年契約のポスドクだったとき、出産して
1ヶ月で仕事に戻った人がいます。でも半年間くらいはお母さんに来
てもらっていました。その人はその後、同じ研究所でパーマネントに
採用されています。そういうこともありますから、希望を捨てないでね。

アメリカのポスドクに対する意見をもらいました。(1/26)
(1)アメリカの大学は学生の授業評価は大学の先生に対する評価に直結
しているので先生は授業準備にすごく時間を使うし、大学の授業に対する
要求基準もすごく高い。

(2)大学院生は教授の研究費から生活費と研究費および出張など一切を
もらっている、つまり完全に個人契約で大学からはサポート無し。日本に
比べるとお互い割り切っている。大学院生でもポスドクでも教授が金をく
れるのは3年とか5年とか決まっているから、その間に学位が取れなかっ
たら後はTAとかやって自分で生活費を稼ぐしかない。先生によっては出て
いけという人もいるし、就職の世話なんて一切無し。ポスドクは期間中に
成果がなければもちろん首。
ここを指してポスドク制度バンザイというのはいいんだけど、先生に対し
ては
・研究費をどのくらい取ってきたのか
・学生をどのくらい指導できているか
・研究費をどのように使ったのか
という審査がある。だから、「学生が卒業できない/テーマの成果が出ない
=先生の指導能力の欠如」となる。学生は先生とうまくいかないとかテーマ
が合わないとか思えば途中で研究室や大学をさっさと移るし、その結果お金
があるのに人が居ないとなると次の予算獲得に大きなマイナス(せっかく金
をやったのに学生も見付けてこられないのかということになる)。

(3)研究の実戦部隊はほとんど個人行動になる。与えられた課題をどう進
めていくかは完全に個人の能力に依存している。もちろん、テーマを与えら
れたときに先生としっかり話し合いをしているはずだから基本的に支障はない。
ポスドクについても、例えば「特殊な機械の責任者になってほしい」といわ
れることはあるみたいだけど、ふつうはオペレータがつくか技官がいるから
それにかかりっきりということはないし、ある程度の配慮(経験に応じて子
分をつけてくれるとか、給料があがるとか)が当然ある。

(4)ポスドクは最初の契約を終わった後、それなりの成果を出していれば
再契約・移籍という選択肢が出てくる。学生もポスドクに採用してもらえる
かもしれない。さらに、みんな一生ポスドクをやっているわけに行かないか
ら、少しでもいい条件・就職があれば契約期間中(つまりプロジェクトが途
中)でもさっさと移っていく。だからいいポスドクをキープするためには
・就職に繋がるようなインパクトのある成果が短期間にでる
・それなりの労働条件(給料がいいとか、ノーベル賞受賞者が出た超有名研
究室とか)
・続けて働いていたくなるような職場の雰囲気
・自分が有名になる為の上司のサポート
というのが必要になる。あそこは雰囲気が悪かったので私はさっさと移りま
したとかいうのがネットやメーリングリストで情報交換されているみたい。
ちなみに職員でもいいところがあればさっさと移籍は当たり前。

これに対する私の意見:
これを見ていると、研究をするためにさまざまなポジションの人たちをどの
ように使っていくかを考えていると思うし、指導教官が人の指導ということに
対しても厳しい評価を受けているというところが大きく日本と違うと思う。
日本ではポスドクの能力のみが取り上げられるが、受け入れる側の責任が
考慮されないのは片手落ちだと思う。また、少しでもいい環境の仕事を求めて
職を替える雰囲気、新しい人を取り入れていく雰囲気がなければ成り立たない
制度だと思う。日本の大学は特に徒弟制度的な雰囲気があるところが多く、
先生のいうことには逆らえない。そのような環境こそが優れた研究者を育て
られない土壌を作っているのではないかと思う。ポスドクを経験するから人が
育つわけではない。